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2008/07/14
あの星を一度でも見てしまった者は
もはや地上の生活に 満足できないだろう。
あの輝きに眼を焼かれてしまった者は
どんな地上の光景も ぼやけて見えるだろう。
禁断の星 と呼ぶべきかもしれない。
見てはいけない輝き なのかもしれない。
それでも 誰ひとり後悔などしないだろう。
あの星の輝きに 心を奪われた者は。
2008/07/13
鏡の前で、少女の髪を切っていた。
カラスアゲハのような、黒く美しい髪。
まっすぐな前髪に櫛を当てながら
鋏を入れようとしていた。
「はやく大人になりたいな」
唐突に少女が呟く。
せわしなく羽ばたく、その長いまつげ。
「大人になって、どうするの?」
「うんときれいになるの」
「きれいになって、どうするの?」
「あのね」
「うん」
「標本箱にピンでとめるの」
思わず切りすぎた。
「わあ、黒い雨みたい」
2008/07/13
ある風の強い日に
誰か
玄関のドアを
ノックする。
「どなたでしょう?」
返事がない。
ドアを開けても
誰もいない。
ただ風が
髪をゆらすだけ。
2008/07/12
世界は、意識である。
意識されなければ、世界はない。
世界は、現実ではない。
意識された現実は、すでに現実ではない。
現実は、表現である。
表現されなければ、現実はない。
現実は、世界ではない。
表現された世界は、すでに世界ではない。
2008/07/12
無邪気な子どもたちは
老婆の語る昔話に夢中になっていた。
瞳を輝かせ、かわいい娘が尋ねる。
「ねえ、ねえ、おばあさん。
それから、お姫様はどうなったの?」
老婆は微笑む。
「それから、お姫様は王子様と結婚して
いつまでもしあわせに暮らしました、とさ」
娘は目を丸くするのだった。
「すごいわ、すごいわ。昔の人って
それだけでしあわせになれたのね」
2008/07/11
おそれおおくも王様の命令である。
素直に白状しろ。
いやか。ほほう、そうか。
ならば、これより拷問をおこなう。
まず、こいつの婚約者を連れて来い。
来たか。おお、なんと美しい!
さっそく裸にしろ。やれ、かまわん。
こいつの目の前でうんと辱めてやれ。
そうだ。遠慮するな。うん、いいぞ。
おやおや。もう死んでしまったか。
それはもったいないことをした。
まあいいか。美人薄命と言うからな。
なに? 胎児はどうするか、だと。
生意気な。そんなもの捨ててしまえ。
いや、待て。いい考えがある。
舌を噛まぬよう、口に押し込んどけ。
大丈夫だろうが、とりあえず用心だ。
さて、どうしてやろうか。
睾丸を潰すか。
それとも焼き火箸を肛門に刺し込むか。
耳に熔けた鉛を注ぐのも悪くないぞ。
ううん、悩むところだな。
とりあえず、全身の皮膚をはげ。
うん。これはなかなか敷物にいいぞ。
折れる関節はみんな折っとけ。
骨も折ったか。
それはご苦労。
歯を抜け。舌を抜け。
目玉も抜いてしまえ。
ええい、面倒だ。もう好きにしろ!
さて、どうだ。そろそろ降参か。
なに。まだか。
いい加減にしろ!
からだに毒だぞ。
諦めろ。本当にもう。
よいか。正直に答えるのだぞ。
おまえ、不死の秘薬を飲んだであろう。
さあ、どうなのだ。
2008/07/11
砂浜で
おさな子が
砂の城を
こしらえている
どうせ
波にすくわれ
すぐに
崩れてしまうのに
それでも
夢中になって
砂の城を
こしらえている
いつまでも
いつまでも
おもしろそうに
2008/07/10
あたしは マリオネット
舞台の上で クルクルまわり
糸に絡まる 木偶人形
あたしは あなたに作られた
あなたが望めば 盗みもする
あなたが願えば 殺しもする
ほんの少し 糸を引くだけ
あなた次第の 腕と脚
ときどき糸が 絡まるけど
いつか糸は 切れるけど
あたしは マリオネット
あたま空っぽ 空虚な仕草
姿みじめな 吊り下げ人形
あなたがいないと 駄目になる
あたしはあたしを 救えない
あなたでなければ 救えない
ひとりで立つこと できなくて
笑うことさえ 叶わない
あなたの指 動かなければ
あなたが糸 引かなければ
2008/07/10
しずく姫の命は短い。
朝、葉の露がこぼれる。
しずく姫の生まれた瞬間。
陽の祝福をキラリと受ける。
きれいな瞳、愛くるしい笑み。
すぐに地面に落ちて消える。
しずく姫は、もういない。
まばたきする暇もない。
淡き夢の、しずく姫。
2008/07/09
だから僕は反対したんだ。
月夜に兎狩りだなんて
まさに狂気の沙汰だよってね。
それなのに無鉄砲な君は
猟銃なんか担いじゃって
平気な顔をして家を出たんだ。
藍色の嘘っぽい夜空に
山より大きな三日月が昇って
ゲラゲラゲラゲラ笑ってたっけ。
君は月の光にあてられてね
猟銃を捨てて裸になってね
センザンコウを家来にしたんだ。
それで兎は捕まったのかって?
ああ、そりゃ捕まったさ。
君が耳をつかんでるじゃないか!