1万8000人の登録クリエイターからお気に入りの作家を検索することができます。
2008/12/02
その年の冬は大雪だった。
屋根から下ろした雪が屋根より高くなった。
前年は、雪でスポーツカーをつくった。
その年は、雪で城をつくる計画だった。
しっかりと城の設計図まで書いた。
方眼紙に定規を当てて書いた立派なもの。
つくる場所は、家の裏の畑の上。
もちろん雪に埋もれて畝(うね)など見えない。
ある晴れた朝、シャベルを雪面に突き刺した。
アーチ式の門を立て、城壁をめぐらす。
中央には螺旋階段のある、大きな塔を築く。
王と女王のための豪華な玉座も並べて置く。
美しい姫君のための寝室まで用意した。
天蓋付きのベッドが備えられてあるのだ。
氷柱を何本も削ったりして、大変だった。
水彩絵の具で雪の表面に着色したりもした。
熱中のあまり、時の立つのも忘れてしまった。
そして、とうとう見事な雪の城が完成した。
本物の城にも負けていない、と思った。
それにしても、完成するのが遅すぎた。
冬も春もとうに過ぎ、夏の盛りになっていた。
2008/12/01
大都会。
立体交差の高速道路。
その上をラクダの商隊が進んでいる。
長い行列を作り、整然と歩み続ける。
クルマにとっては大変な迷惑だ。
ドライバーが怒鳴っても通じない。
どうやら言葉が理解できないらしい。
砂漠の民であることは確実である。
耳が毛だらけ。
鼻にはフタまである。
かれらが乗ってるラクダそっくりだ。
「オアシスでも見せてやればいいのに」
軽薄な若いドライバーが提案する。
そんなものどこにもないのに。
ついに警察のパトカーが到着した。
「とにかく高速道路から降りなさい」
ラクダの商隊は命令を聞かない。
「無視するな。発砲するぞ!」
ラクダの商隊は拳銃さえ見ない。
もう警官は頭にきてしまった。
とうとう銃弾が発射された。
その銃声が大都会の空に消える。
銃声とともに拳銃が消える。
撃ったはずの警官も消えてしまう。
クルマもドライバーも消える。
さらに高速道路まで消えてしまう。
周囲の建築物まで消えてゆく。
やがて大都会そのものが消えた。
まるで蜃気楼のオアシスのように。
ラクダの商隊は黙々と歩み続ける。
どこまでも果てしなく広がる大砂漠を。