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  • 焦土の街

    2011/12/05

    切ない話

    焦土の街に雪が降り始めた。

    こげ茶色の汚れた悲惨な街が
    真っ白で綺麗な美しい街に変わる。


    「ほら、おいしいよ」
    雪をすくって舐める少女。

    「どれどれ」
    男の子も真似てみる。


    遠くで鐘が鳴る。


    「街全体を地面ごと持ち上げてみせようか」
    「なにそれ?」

    「こんなふうに雪が降る日はね、魔法が使えるんだよ」
    「ふ〜ん」

    「降る雪をね、ぼおーっとしたまま眺めるの」
    「ぼおーっと」

    「そう。だらしない顔して、ぼおーっと」
    「それから?」

    「それだけ」
    「それだけ?」

    「うん。簡単なの」
    「ふ〜ん」


    焦土の街に雪は降り続く。


    「あっ」

    「持ち上がった?」
    「うん。昇ってる」

    「街全体が昇ってるみたいでしょ」
    「うんうん。おっもしろい」


    ふたたび遠く、鐘の音。


    「さて、どうしようか」
    「おなかすいた」

    「あたしも」
    「このまま天まで届けばいいのにな」

    「・・・・・・そうだね」


    いつまでもいつまでも
    昇り続ける白い街。
     

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  • 夢の続き

    2011/12/04

    愉快な話

    「あのさ」
    「なによ」

    「俺の夢はさ」
    「うん」

    「いつか無人島をひとつ買ってさ」
    「うんうん」

    「そこでとびっきりの美女とさ」
    「うんうんうん」

    「ふたりっきりで暮らすことだったんだ」
    「ふうん」

    「やっと夢がかなったよ」
    「よかったわね」

    「あのさ」
    「なによ」

    「その夢の続きを聞きたくないかい?」
    「ないわね」


    無人島に漂着した見ず知らずのふたりの会話でした。
     

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  • 自転車

    2011/12/03

    愛しい詩

    私は自転車
    どなたか乗ってくださいな

    私のスタンドはずして
    私のサドルに腰かけて

    私のハンドルつかんで
    私のペダルを踏んで


    車輪がまわる
    私が動く

    車輪がまわる
    あなたも動く

    ふたりは走る
    風を切って


    遠いところ
    うんと遠いところまで

    あなたの足が
    あなたを運ぶ


    私も一緒
    どうぞ運んでくださいな
     

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  • 親愛なる者へ

    2011/12/02

    明るい詩

    私はあなたが好きです。

    あなたに好かれたい
    とも思います。

    お互いに好ましく感じているなら
    どんなに素敵でしょう。


    あなたが悩んでいるなら
    私も悩ましく

    私が喜ぶと
    あなたも喜んでくれる

    そんなふうになれたら
    いいですね。


    ともかく私は
    そんなこと

    わざわざ言わなくても
    わかってくれる

    あなたが好きです。
     

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  • 黒い財布

    2011/12/01

    怖い話

    しまった、と思った。

    これは自分の財布ではない。
    黒くて似ているが、Kさんの財布だ。


    Kさんは、私が勤めている会社の上司。

    財布が間違っていることに気づいたのは、
    買い物を済ませ、部署に戻ってからだった。

    自分のデスクの上に
    自分の財布が出しっぱなしになっていたのだ。


    あわてて支払った金額をKさんの財布に戻し、
    それをそのまま、Kさんのデスクの上に置こうとした。


    しかし、考えてみると、Kさんは外出中だ。

    財布がなくて、とても困っているはず。
    一刻も早く手渡さなければ。


    私は会社を出て、最寄の駅まで走った。
    なぜか駅にいるはずだ、という確信があった。

    改札を抜けてホームに入ると、
    知人が大勢いて、電車を待っていた。


    見まわしてもKさんの姿が見つからない。

    同僚のSがいたので、尋ねてみると、
    Kさんは先に現地入りしている、とのこと。


    困ってしまった。

    こちらにまだ用があるので
    私は現地へ向かうことができない。

    ホームに電車が入ってきた。


    悩ましいが、他に方法はない。

    事情を説明し、Kさんの財布を
    迷惑そうなSの手に無理やり押しつけた。

    「向こうで、必ずKさんに手渡してくれ」


    それでもSはしぶっていたが、ベルが鳴り、
    仕方なさそうに電車に飛び乗った。

    すぐにドアが閉まり、電車は動き出した。

    窓からこっちを見ている知人たちに手を振り、
    やっと私は胸をなでおろしたのだった。


    駅の改札を出ようとするところで、
    すうっと目が覚めた。


    夢だったのだ。


    私は自宅の寝室にいた。

    夢の内容を思い出し、苦笑する。


    Kさんは、前の前の会社の上司だった。
    Sも同じ会社の同僚。

    だが、もうその会社は倒産して存在しない。


    私は現在、独身で無職。

    隠居と称して、このまま求職もせず、
    慎ましく好きなことをして往生するつもり。


    しかし、なんでこんな夢を見たのだろう。


    私は思い出す。

    前の会社に転職した頃、Kさんは癌で亡くなっている。
    見舞いもしたし、葬式にも出た。

    でも、夢の中ではまだ生きているらしい。

    また、Sとは音信不通。
    私より若かったから、まだ生きていると思う。


    けれども、この夢の状況からすると、
    あるいは、Sが死んだ、というお告げだろうか。

    そうかもしれないが、
    なんにせよ、確認のしようがない。


    それから、また思い出す。

    たくさんの知人が、あの電車に乗車したけれど、
    あれはどういう意味だろう。


    思い出せそうで、ひとりとして思い出せないけど、
    まさか・・・・・・
     

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