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2015/09/10
火山灰たちのうわさによると
地下帝国の総統閣下がご立腹とのこと。
「地上の輩は、わが地下帝国の
貴重なる天然資源を盗んでおる」
蛍石に照らされて
総統閣下の眉間のしわは暗く深い。
「地上の愚民どもは、わが地下帝国に
有害産業廃棄物を捨てておる」
総統閣下が髪をかきむしると
ヒカリゴケが壇上にバラバラ落ちる。
「地上の奴らを生かしておくべきか?
否、断じて許さん!」
地底人たちの歓声が
地下帝国の巨大洞窟に響き渡る。
「そうだ、そうだ!
報復だ!」
大ナマズが騒ぎ、要石が揺れ、
火の竜がのたうちまわる。
ただし、あくまでも火山灰たちのうわさ話。
地上に暮らす者で地下帝国を見た者は
幸いにもまだいない。
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2015/09/09
ええと あのあの
すみません
じつは その あたし
恥ずかしがり屋 なんです
ええ そうなんです
とっても とっても
恥ずかしがり屋 なんです
あら いやだわ
恥ずかしい
困ってしまうわ
そんなに見ないで
ますます 恥ずかしく なっちゃうわ
あたしって
いつでも どこでも なんにでも
すっごく すっごく
恥ずかしいんです
箸が転んでも 恥ずかしいんです
バターを塗っても 恥ずかしいんです
外出なんか できないわ
だって ほら
みんなに見られて しまうもの
だから だから
お金くれなきゃ だめなんです
もしも あなた
あたしと一緒に いたいなら
だって ほら
あたしは 恥ずかしがり屋
恥ずかしがるのが あたしの商売
きゃっ 言っちゃった
ああ 恥ずかしい
ただでさえ 恥ずかしいのに
恥ずかしい顔から 火が出るわ
でもね でもね
あたしは絶対 お買い得
どんなに どんなに
どんなに 恥ずかしくったって
あなたのためなら
我慢する
きゃっ
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2015/09/08
爪を切る
のびてくるから
爪を切る
ひっかかるから
爪を切る
みっともないから
爪を切る
あぶない いらない じゃまだから
爪を切る
かくせないから
爪を切る
ひっかけないから
爪を切る
することないから
爪を切る
切る 切る 切る 切る
爪を切る
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2015/09/07
あなたは暗い地下道をひとり歩いている。
壁に反響するため、あらゆる方角から靴音が響く。
ふと、子どものすすり泣きの声が
かすかではあるが聞こえたような気がした。
あなたは立ち止まる。
立ち止まってもしばらくは靴音が響く。
ここからでは子どもの姿は確認できない。
もっとも、まばらにわずかしか灯りがないため
地下道の先も後も遠くまでは見えない。
あなたは思う。
いじめられているのかもしれない、と。
見知らぬ子どもが壁に釘で手のひらを打ちつけられ
浮いた足の裏をカラスの羽でくすぐられ・・・・
あなたはそんな想像をする。
なぜそんな・・・・と、いぶかりながらも。
闇の奥へあなたは目を凝らす。
地下道なのにあやしくまたたく星の群。
夜空にしては二重星が多すぎる。
そして、生臭い息づかい・・・・
あなたはあせる。
心臓の落ち着かない音が反響する。
あなたは再び歩き始める。
なぜか足が重くなったように感じられるけれど
歩みを止めるわけにはいかない。
しかしながら闇は全方向へ延びている。
どこまでも終わりなく続く気配のする
この暗い地下道。
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2015/09/06
綱渡りが綱から落ちるのは
失敗じゃない。
むしろ
落ちないことこそ・・・・
白痴みたいに口を開けたまま
上空を見上げる観衆。
「それにしても勇気あるな」
「ふん。狂ってるんだよ」
「普通の人には絶対できないぜ」
「だから、狂ってるんだって」
観衆が見たいのは
綱渡りが落ちるところ。
落葉のように優雅に舞ったりしない。
陶器のように芸もなく
まっすぐ地上へ落ちて砕ける。
「あっ!」
「落ちた!」
だから
君に忠告しておこう。
命綱もなく綱を渡り始めたら
もうすでに失敗なのだ。
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2015/09/05
こんな木、見たことない。
すてきな木だけど、誰も知らない。
きっと花が咲いたら、わかるはず。
やがて、つぼみがついた。
みんなの期待もふくらんだ。
ある朝、ついに花が咲いた。
「だめよ、だめだめ。
見てはいけません!」
母親は我が子の目を両手でおおった。
こんな花、見たことある。
見たことあるけど、見せられない。
なかなかすてきな花なのに。
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2015/09/04
背の高い洋館の一階、横長のテラス。
ここで人を待っている。
テラスにはもう一人、若い女がいて
やはり人を待っている様子。
もっと人が集まる予定だったが
目論みは見事にはずれ
いたずらに時間ばかり過ぎてゆく。
「九官鳥にもほどがある!」
そんな声がどこか遠くから
間欠的に繰り返し聞こえてくる。
おそらく誤って躾けられた九官鳥の声であろう。
目の前にも別の背の高い洋館がある。
その二階のベランダから
こちらを見下ろす人の姿が見える。
二人いて、一人が男、もう一人が女。
二人が親しそうに話しているところを見ると
二人は実際に親しい関係なのだろう。
「九官鳥にもほどがある!」
うん。
まあ、たしかに。
同じテラスの若い女に声をかけようか
それとも、このまま帰ってしまおうか
夕日に染まりながら
今更ながら考え始める。
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2015/09/03
暗黒の雲に隠れ
天空に浮かぶ伝説の要塞。
黄道、白道、または
地磁気に沿って浮かび漂う。
その支配者、神の如き将軍。
不老不死、不笑不悲。
本日、畏れ多くも将軍の
第一千回目の誕生式典。
雷鳴は荘厳なる祝砲。
稲妻は華麗なる花火。
飲んで歌え。
酔って踊れ。
おっとっとっと
足を踏みはずす。
赤ら顔の将軍
雲間より落ちてゆく。
それは天上の悲しみ。
ならば地上の喜び。
あるいは、その逆か。
地上に落ちたる将軍の
身のふり方次第だね。
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2015/09/02
浴室に置かれた天使の彫像に向かって
俺は立ち小便をしている。
彫像は砂岩できているのか
わずかな水圧でボロボロ欠けてしまう。
浴槽の縁には大男が腰を下ろして
熱心に黒い革靴を磨いている。
大男の足もとに天使の白い片翼が落ちた。
それを拾うつもりで屈むと
なぜか大男に革靴の底で頬を撫でられた。
当然ながら俺の頬は汚れ
さらに水を掛けられてズボンの裾が濡れた。
こいつ、なにをするのだ。
怖そうな相手だが許しておけない。
報復するのは良いことだ。
悪意に対して善意で応えていては世の中
乱れないまでも歪むばかりである。
おそらく殴り返されるであろう。
あるいは殺されるかもしれない。
それでも俺は
天使の片翼で殴ってやる。
そして、裏返った声で怒鳴ってやるのだ。
「やられたらやり返して、なにが悪い!」
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2015/09/01
そなた 殺生石
飛ぶ鳥落とし 寄るおのこ堕とす
白面金毛 九尾の狐
今宵 コンと鳴かば
しかばねの
累々たる惨状ぞ
われこそ陰陽師
の輩など
見抜いたと
逆に見抜かれ
紙の人
撫でられ 吹かれ
たばねられ
大祓に 燃やされる
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