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2012/09/10
暴風
豪雨
嵐の如く
君過ぎて
首に
背中に
脇腹に
深く
鋭く
爪痕の残る
2012/09/10
美女が哀願するのである。
その美しい瞳を潤ませて。
その美しい唇を震わせて。
「わたし、もっと美しくなりたいの」
美しい声だ。
聞き惚れてしまう。
「わかりませんね。あなたはとても・・・・・・」
「ええ、そうなんです。美しいのです」
ますますわけがわからない。
「でも、もっと美しくなりたいのです」
美しい眉が曇る。
なかなか悩ましい。
耳の形も文句ない。
顎のラインも素晴らしい。
鼻なんか舐めたいくらいだ。
スタイルも抜群。
服のセンスも最高。
完璧である。
欠点が見つからない。
「このままで十分だと思いますよ」
女はうなだれ、ため息をつく。
思わず抱きしめてやりたくなる。
それを我慢して女の肩に手を置く。
ついに女は泣き出してしまった。
その美しい涙。
しかし、そこで気がついた。
「ひとつ、見つかりましたよ」
「えっ?」
「あなたはもっと美しくなれます」
「私のどこが?」
「泣き声が、いまひとつですね」
女の涙が止まった。
「もっと美しい声で泣けます?」
「ええ、大丈夫ですよ」
その笑顔の美しさといったら!
2012/09/09
「お客様のご要望なら、どのような演題でも
パントマイムで完璧に演じてみせましょう」
そのように豪語する美しき女芸人が
あなたの目の前の舞台の上に立っている。
その小劇場の観客の一人であるあなたは
彼女にやってもらいたいパントマイムの演題を
まるで彼女に挑戦するかのように必死で考え続ける。
穴
虚無
異次元
抽象美人
手乗り幽霊
蝉の幽体離脱
ムカデのダンス
火星人の愛情表現
円周率を計算する犬
酒の海で溺れる潜水艦
光速移動中のカタツムリ
三角関係の四角と円と直線
外科医自身による脳摘出手術
逆子の出産に悶えるハリネズミ
悲しみの裏側に潜む通販カタログ
月面でトランポリンをする透明人間
オアシスを残して消える蜃気楼の砂漠
心洗われる光に包まれた天使のほほえみ
スクール水着の立体構造を批判するイルカ
液体化するピアノから溢れる固体化する音符
バナナを食べながら宇宙誕生の瞬間を眺める猿
2012/09/08
僕の恋人
アイスクリーム
家に帰ったら
カバン放り投げ
冷凍庫から取り出し
フタをむしって
スプーン突き刺す
ひんやり甘くて
切ない喉越し
そのうち額が痛くなる
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2012/09/06
こことは別の場所で
今とは別の時間が流れる。
僕とは別の僕がいて
君とは別の君がいる。
そして
僕たちとは別のふたりの
別の関係がある。
別の世界が良いとは限らない。
別の世界が悪いとも限らない。
別の悲しみがあり、
別の喜びがあるのだろう。
あるいは
別になにもないのかもしれない。
そんな別の世界では
別の僕が
別の君を相手に
なにか別の話をしているのだろうか。
それとも
同じような話をしているのだろうか。
2012/09/05
うたかたの 淡き恋なら
言の葉の 針でつついて
割れてしまえと
2012/09/04
執行人に綱を引かれ、俺は進み出た。
刑場の観衆は待ちくたびれていた。
眼前には二本の柱が直立している。
見上げると刃先が斜めに垂れている。
むんずと首穴に頭を押し込まれ、
うつ伏せのまま架台に縛られた。
鼻先には編み籠が置かれてある。
処刑の準備は整ったわけだ。
「この者、血も涙もない凶悪犯にして・・・・・・」
俺に関する美辞麗句が語られる。
牧師が十字を切り、執行人が紐を引く。
真下に刃が落ち、俺の首は切り落とされた。
瞬間、観衆が悲鳴と歓声をあげる。
切断された首の断面から俺は覗いてみた。
白髪の頭が編み籠の中に落ちている。
使い捨てたような老人の頭部。
俺は新しい頭を首の穴から突き出してみた。
奇妙な表情の観衆の顔が見えるのだった。
2012/09/03
一般に、男はギャンブル好きである。
そして、ギャンブル好きの男は女好きである。
なぜなら、女そのものがギャンブルだから。
その男は天性のギャンブラーだった。
ジャンケンでもなんでも負け知らず。
苦もなく若くして巨万の富を築いた。
この男、ある女に恋をした。
しかし、あっさり失恋してしまった。
「負けた・・・・・・」
男は自殺してしまった。
おそらく、その女に命を賭けたのだろう。
2012/09/02
あいつは、とんでもない奴だ。
ずっと昔からいたみたいな顔して
不意に目の前に現れる。
あんまりまともな人物とは思えない。
あいつ、そもそも服装がなってない。
今回は、まあ普通の格好みたいだが
下着姿だったり、裸の場合も多い。
まれに恥ずかしがったりもするが
ほとんど無頓着な気がする。
行動だって、どう見ても異常だ。
とんでもないところで排便したり、
傘にぶら下がって空を飛んだり。
勝手に怒って、脈絡もなく
われわれの首を絞めたりもする。
マシンガンを乱射したこともあったな。
まったく迷惑この上ない。
ああ、ビルの屋上から落ちてしまった。
本当に勝手な奴なんだ、あいつは。
でも、あいつは地面に落ちたりしない。
なぜか地面に着く前に消えてしまうのだ。
そう、まるで幽霊みたいな奴なんだ。
「こ、これは、夢だ!」
あいつ、なんか叫んでいたな。