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2015/09/20
その広場は昔からあった。
ここになくとも、必ずどこかにあった。
あらゆる人種、あらゆる民族の吹き溜まり。
「さあさ、皆さん、お立合い。
ご用とお急ぎでない方は
寄ってらっしゃい、見てらっしゃい」
貧しい芸を見世物とする人たちを
貧しい芸さえない人たちが見物している。
サソリや毒蛇を生きたまま飲み込む男。
鼻で煙草を吸い、耳から煙を出す妊婦。
おのれの肘やかかとや尻を舐める少女。
地の果てのありもせぬ都を物語る老人。
かれらはどこから現れ
どこへ消えてゆくのか。
放る銭などありゃせぬに。
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2015/09/19
あなたは 失敗した。
取り返しのつかぬことを
してしまった。
最悪な事態。
許されぬ。
言い訳など
とうてい許されぬ。
あなたは
耐えねばならぬ。
あなたは
耐えねばならぬ。
この沈黙に
この耳が痛くなるほどの沈黙に
じっと じっと
耐えねばならぬ。
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2015/09/18
家のない老婆を 知っている。
破れた傘で 顔隠し
宝くじ売り場の横 しゃがんでる。
そんな老婆を 見ていると
宝くじ買う気 しなくなる。
金持ちになろうとは 思わない。
貧しくなければ それでいい。
彼女にも 若い頃があったろう。
美しい頃も あったろう。
騙されたか 裏切られたか
知らないが
悩ましい衣装で 街角に
立ってた頃さえ あったかも。
そんな女を 見ていると
目を合わせるのが 怖くなる。
しあわせになろうとは 思わない。
不幸でなければ それでいい。
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2015/09/17
あるところに ネズミの家がありました。
古くて大きくて たいそう立派な家でした。
その昔、ネズミの家は 人の家でした。
ある日、この家にネズミがやって来て
ある日、この家から人が出て行ったのです。
以来、この家は ネズミの家なのです。
元旦の朝、この家に ネコがやって来ました。
「おめでとう、ネズミさん。はい、年賀状ね」
なんと、ネコの郵便配達夫なのでした。
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2015/09/16
とても大きな犬小屋がありました。
小屋とは呼べないくらい 大きくて
その中に 庭があるほどでした。
人の住む家も たくさんありました。
川まで しっかり流れています。
山だって 立派にそびえています。
犬は?
もちろんいます!
ちゃんと 冬の南の夜空に 輝いています。
それが 大犬座のシリウスです。
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2015/09/15
大晦日の夜、白い仔馬が 村にやって来ました。
とても不思議な 仔馬でした。
わた雪のたてがみ、氷柱の脚、雹の目
そして 雪紐の尻尾をふり、吹雪のように駆けるのでした。
仔馬は 小さな村を ぐるぐる駆けまわります。
それを 村の子どもたちが 窓から眺めています。
「仔馬が一頭、仔馬が二頭、仔馬が三頭、・・・・」
百八頭まで数えて 子どもたちは眠ってしまいました。
村の大人は 誰ひとり 白い仔馬の姿は見ていません。
でも 元旦の新雪の上に 小さな蹄の跡が
いくつもいくつも 残っていたのでした。
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2015/09/14
ある町に 一頭のイノシシが住んでいました。
イノシシは イノシシなので イノシシらしく
まっすぐ走りたいのですが
人に怒られたり 建物の壁にぶつかったり
たいそう痛い目にあうので
イノシシらしくないな と思いながらも 仕方なく
ゆっくり曲がって歩くようにしているのでした。
それでもイノシシは ふと 無性に
まっすぐ走りたくなるのでした。
とくに 空に架かる虹の橋とか 夕焼けとか
きれいな景色を見たりすると
もうどうにも我慢できなくなるのでした。
その年の元旦の朝 ついにイノシシは
輝く朝日に向かって まっすぐ走り出しました。
でも 走るのは 久しぶりだったので
邪魔をする人も 障害物もないのに
イノシシは 転んでしまいました。
ある町に住む イノシシの話でした。
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2015/09/13
あるところに ヘビの道がありました。
この道は たくさんのヘビが
くねくね 這ってできた道なので
くねくね くねくね 曲がっているのでした。
で、この道がどこへたどり着くのか というと
あっちへ曲がったり こっちへ曲がったり
また もとに戻ったりして 結局
どこにもたどり着けないのでした。
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2015/09/12
青い星と赤い星とが 重なる夜ぞ
鎌捨て池の穴から覗き 鋸山の方角ぞ
白い背の双頭の竜が 崖登る
右の岩には 腕なき天女
左の岩には 首なき天女
二人の胸に挟まれば 竜の口ななめに開く
牙を折れば 喉が裂け
髭を折れば 口閉じる
盲目の六匹の蛙 お持ちかね
六輪の赤い花も 咲き誇る
花が泣けば 天崩れ
花が笑えば 底ぬける
花が歌えば 蛙も歌い出すわいな
百足の穴には 蛍棲み
船に乗るには 銭がいる
黄金の玉座は まわる まわる
白銀の太き鎖に縛られて
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2015/09/11
この小川を遡ると
やがて小さな滝にぶつかる。
そこは岩々が膝を立て
今にも倒れそうな崖になっている。
崖の中腹にはススキが生え
やわらかい穂先が風にゆれている。
そして、ススキの根元の岩の割れ目から
清水が湧き出ている。
その透明な水は岩間に沿って流れ落ち
ささやかな小川が始まる。
途中の白い岩肌には
しがみつくように藻が付着している。
やや飲みにくいけれども
その水はおいしい。
こんな小さな滝なので
日照りが続けば涸れてしまう。
しかし、雨季には草笛のような音を立て
激しく吹き出ることもある。
その時、湯気のように水煙が立ち
小さな滝の手前に小さな虹が
かわいらしく架かる。
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