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    Works 3,356
  • 突然の舞台

    2012/09/21

    変な話

    拍手に迎えられ、舞台に立った。

    埋めつくされた客席。
    期待のまなざし。

    やけに照明がまぶしい。


    司会者はいなかった。
    案内をしてくれる人も。

    頭の中が真っ白だった。
    何も思い出せなかった。


    「あの、私は何をすればいいのでしょうか?」

    この質問は大いにウケた。
    会場に響き渡る笑い声。

    しかし、私はコメディアンではなかったはず。


    「あまり歌はうまくないのですが」

    これもウケた。
    歌手だったのだろうか。

    それにしては楽団が見当たらない。


    とりあえず、でたらめに踊ってみた。

    罵声が聞こえたので、すぐにやめた。


    「ここは、どこなんですか?」
    まるでウケなかった。

    「そもそも、私は誰ですか?」
    まるでウケなかった。

    「あなたがたは、いったい・・・・・・」


    ざわめく客席。
    数え切れぬほどの非難のまなざし。

    だが、それでも
    この舞台は終わりそうもない。
     

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    • Tome館長

      2013/08/01 19:53

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/08/01 19:53

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 喪 服

    2012/09/20

    暗い詩

    皆は僕に喪服を着せた。
    そのまま僕は家を出た。

    僕は外で待っていた。
    日が暮れても待っていた。

    誰か見た人、いませんか。
    僕の父さん、どこですか。
     

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  • 夏草の宿

    2012/09/18

    変な話

    そこは海辺のようであった。
    または山奥のようでもあった。

    どちらでもないような
    またはどちらでもあるような・・・・・・


    あやしげな表札があった。
    何が書かれてあるのかわからない。

    表札かどうかもあやしかった。

    でも、泊まれるはずだと思った。
    根拠など何もないのに・・・・・・


    半開きの壊れかけた扉をくぐり抜けた。


    「あら、いらっしゃいませ」

    初対面のような、けれど顔見知りのような女。

    この宿の女将と思われた。
    なぜなら他に従業員はいないようだから。

    「お待ちしてましたわ」

    すると、予約していたのだろうか。

    言葉が見つからない。
    何か伝えたいことがあるはずだが・・・・・・


    「とりあえず、お座りになったら」

    疲れた顔をしていたのだろう。
    実際、疲れていた。

    しかし、見渡しても椅子がない。
    しかたがないので、そのまま床に座った。


    床には草が生えていた。
    夏草の匂い。

    つまり、季節は夏なのだろう。

    「あれはもう遠い昔の話だ」
    「ええ、そうでしたわね」

    どうして女将が相槌を打つのだろう。
    唐突に独り言を始める客である俺も変だが・・・・・・


    いつの間にか女将も床に座っていた。
    その膝小僧がひどく懐かしく感じられた。

    「もう娘さんは大きくなっただろうね」
    「いやだわ。娘なんかいませんよ」

    女将は口を押さえ、さもおかしそうに笑った。
    「わたしが娘だった頃はあったけど」


    それから女将は床にうつ伏せになる。
    その丸いお尻にホタルが一匹とまった。

    ああ、やっぱりあれは夏だったんだ。


    「あの頃の川はまだ澄んでいたね」

    ふたたび女将が相槌を打つ。
    「そう。川底にはカワニナが這っていたわ」

    どうして女将が知っているのだ。
    ホタルの幼虫に食べられる細長い巻貝の名。

    澄んだ流れにしか生きられない弱虫。

    思わず泣きたくなってきた。
    でも、泣けなくなってから随分たつ。


    見上げても夏の夜空はなかった。
    天井の明るい蛍光灯がまぶしかった。

    どうしてホタルの光なんか見えたんだろう。


    何か間違っているような気がした。

    こんなところで俺は何をしているのだ。
    そもそもここはどこなのだろう。

    あわてて床から立ち上がった。
    そのため軽いめまいがした。


    「悪いけど、今夜は泊まらないよ」

    女将は床にうつ伏せのままだ。
    その背中が小さくなったような気がする。

    「そうね。その方がいいわね」
    なんだか声まで幼くなったみたいだ。

    このまま放っておけない気持ちもする。
    だが、もう帰らなくてはならない。

    ここでないどこかの別の家に・・・・・・
    心から帰りたいわけではないのに・・・・・・


    とりあえず、まず
    あの壊れかけた半開きの扉を探そう。

    そして、あの扉を出たら
    あの表札をもう一度確認しよう。

    あやしげな表札に何が書かれてあったのか・・・・・・


    あるいは、ここを出てしまったら

    もう何もかも、すべて
    なくなっているのかもしれないけれど・・・・・・
     

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  • 戦いの印象

    2012/09/17

    暗い詩

    長い長い戦いが続いた結果として
    ほとんど人の言葉が話せなくなり、

    獣の鳴き声しか出せなくなった仲間たち。


    銃弾に傷めつけられた穴だらけの家を
    敵が中まで侵入してこないように

    男たちが寝ずの番をしている。


    ただし、もう
    敵は一人しか生き残っていない。

    マシンガンの弾が底をついたらしく
    口真似で発射音を出し続けている。


    音のなくなった世界が怖いのかもしれない。


    神経質そうな味方の男が
    かつて友であったはずの敵を恐れ、

    家の外の闇へ向かって吠えている。


    おそらくライオンのつもりなのだ。


    敵はマシンガンの口真似を続けながら
    手作りの骸骨みたいに痩せ、

    よたよた歩くように走っている。


    一声吠えると
    ついに仲間の男が外へ飛び出した。


    目を背けながらも、願わずにいられない。


    たった一人の敵なんだから
    早く逃げてくれたらいいのに。

    外に隠れる場所がないなら
    この家の中に逃げてくればいいのに。
     

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    • Tome館長

      2013/07/30 01:07

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/09/25 14:20

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • ケーキ

    2012/09/15

    暗い詩

    あさ ケーキをたべた

      なまクリームのうえにひとつ
       やわらかそうなかのじょのみみたぶ

         ちょっとコリコリして
          なかなかおいしかった

            ナニヲキキタカッタンダロ


    ひる ケーキをたべた

      なまクリームのうえにひとつ
       なやましげなかのじょのくちびる

         ちょっとヌメヌメして
          とてもおいしかった

            ナニヲツブヤイテイタンダロ


    よる ケーキをたべた

      なまクリームのうえにひとつ
       こまったようなかのじょのめだま

         ちょっとプチプチして
          すごくおいしかった

            ナニヲミツメテイタンダロ
     

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  • 呪われた古城

    2012/09/15

    暗い詩

    ここは呪われた古城。
    忌まわしき運命の吹きだまり。

    床も壁も天井も
    すべて血塗られている。


    あなたは寝室で吸血鬼に襲われ、
    階段から幽霊に突き落とされ、

    地下牢でミイラにされる。


    殺されないためには殺すこと。
    殺すためには生き返らせないこと。

    いくら手を洗っても
    血糊は消えない。

    どんなに耳を塞いでも
    悲鳴は続く。


    不吉な鳥が屋根に巣を作り、
    不吉な数の卵を産む。

    庭の草木は、生きたまま枯れている。


    崩れた塀の下敷きの黒猫の
    救いようのない笑顔だけが残る。


    不運なる紳士淑女のみなさん。

    呪われた古城にようこそ。
     

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  • 拒 絶

    2012/09/14

    愉快な話

    あんたなんか あんたなんか

    見たくない 聞きたくない
    考えたくない もう知らない

    やめてよ あっちへ行って
    まったく どういうつもり

    それ以上 近寄らないで
    いいかげんにしてよ もう

    昔は そんなじゃなかった
    どうして 変わっちゃったの

    だから 抱きつかないでよ
    触れるのも いやなんだから

    そんな口 近づけないで
    ああ 服が破れちゃう

    いやよ 無理だってば
    なんで わかってくれないの

    なんで 普通になれないの
    なんで そんなこと言うの

    だから きらいなのよ
    ほら すぐ泣く

    泣けばいいと 思ってるのね
    冗談じゃない からね

    夢 見てるだけなのよ
    まだわかんないの

    そんなの うまくゆくはすない
    誰だって 許してくれないよ

    ああ もう いやだったら
    あっちへ行ってよ しっ しっ

    ちょっと 喋れるからって なによ
    飼い犬の くせに
     

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    • Tome館長

      2013/07/26 16:28

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2012/09/14 23:26

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • ゴミ箱

    2012/09/13

    暗い詩

    長くなった髪の毛を切って
    ゴミ箱に捨てた。

    もう読まない漫画や小説も
    ゴミ箱に捨てた。

    着古した服はまとめて
    ゴミ箱に捨てた。

    使用済みの注射器はもちろん
    ゴミ箱に捨てた。

    使用済みの避妊具も当然ながら
    ゴミ箱に捨てた。

    死んだペットの犬だって
    ゴミ箱に捨てた。

    飽きてしまった恋人さえも
    ゴミ箱に捨てた。

    一緒に撮った写真はビリビリ破って
    ゴミ箱に捨てた。

    もらったプレゼントも一緒に
    ゴミ箱に捨てた。

    一度も泣かなかった胎児までも
    ゴミ箱に捨てた。

    親も兄弟も親類も友人もみんな
    ゴミ箱に捨てた。


    それから

    なにもかも捨てた僕自身も
    ゴミ箱に捨てた。
     

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  • 思い出の道

    2012/09/13

    思い出

    つづら折れの坂道を上ると 
    そこは深い山の中。

    セミや鳥が鳴き騒ぐ。
    木々が肩組み、立ち並ぶ。

    空は青く、葉は緑。
    雲は横に、樹皮は縦。


    やがて坂道はゆるやかに 
    とぐろを巻き始め 

    目がまわる頃、山頂に着く。


    そこは空の上。
    道は下へと続く。


    ただし、その道 
    今はもう、そこにあらじ。

    はるか遠き 
    思い出の道ゆえ。


    たとえ、よく似た道 
    まだそこに残るとしても。
     

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  • 千匹の虫

    2012/09/11

    変な詩

    千匹の虫が這う 僕のカラダ

      ケムシ ウジムシ ダンゴムシ

        ムカデ ゲジゲジ ゴキブリに
         ヒルやナメクジ ミミズまで


    おぞましき万本の脚を蠢かせ
     けがらわしき億本の毛を逆立てて

       ウヨウヨ モゾモゾ
        ワサワサ クネクネ

          ゾロゾロ ベトベト グルルルル


    かじり 飲み込み 味を占め 
     針刺し 毒注ぎ 産卵す

       ガリガリ ボリボリ
        ムシャムシャ ベチャベチャ

          ヂグヂグ グジュグジュ ウヒヒヒヒ
     

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    • Tome館長

      2013/07/26 09:24

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/07/25 22:59

      「こえ部」で朗読していただきました!

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