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2012/09/30
街は人の心を閉鎖する
海はそれを解放する
だから
渚で芽生えた恋を
そのまま持ち帰るのは
至難の業
2012/09/29
誰かと一緒だったような気がする。
あの夜、ひとりではなかったはずだ。
空腹でもないのに食堂に入った。
かなり酔っていたらしい。
「美女の舌びらめのムニエルをくれ」
ほんの冗談のつもりだった。
美しいウェイトレスだったから。
「はい。かしこまりました」
なぜか笑ってもらえなかった。
しばらくして運ばれてきたそれは
なんとも奇妙な料理だった。
ウェイトレスの顔は蒼ざめていた。
片手で口もとを押さえているのは
吐き気をこらえているのだろうか。
さすがに心配になってきた。
「あんた、大丈夫か?」
その娘は必死で首を振るのだった。
しっかりと口もとを押さえたまま。
2012/09/28
これで僕たちは
どうしたって
本当に
お別れだけど
ちょっとだけ
ほんのちょっとだけ
お願い
さよならの前に
微笑んで
2012/09/27
風の横笛
吹く夜は
雷太鼓も
鳴りまする
ピーヒャラ
ドンドコ
ピーヒャララ
風の祭りの
笛太鼓
時には鐘も
鳴りまする
ピーヒャラ
ドンドコ
ガラガラドン
2012/09/27
印象のない街角で待っていた
通り過ぎてゆく顔のない人々
誰もかれもさびしそうに見える
手首にすがるように立ち去る
針をなくした腕時計たち
嬉しくも哀しくもない思い出
話しかけたりしないで欲しい
待っているだけなのだから
いつまでもいつまでも
ずっとこうして
こうやって
2012/09/26
難しいことを易しく言えない人は
易しいことまで難しく言う。
もし今、恋愛したい気分なら
ただ退屈しているだけなのかもね。
いかにも冒険らしい冒険ほど
冒険していない冒険もない、と思う。
幽霊が現れたら怖そうだけど
むしろ現れないから怖いのでは。
だからなんだ、と怒鳴られたら
なんでもないです、と謝ろう。
2012/09/25
曲がりくねった地層の夕焼け
断崖に建てる朽ちた十字架
病気の蟹は泡を吹きながら
難破船の帆を切り刻んでいる
なにが蟹を駆り立てるのか
帆にもマストにもわからない
渚の貴婦人が貝の胸をはだけ
海牛の素足でそっと歩み寄る
そのまわりに波の舌がからむ
瞳の奥で星砂が切なげに泣く
「あなたを待っていたの
こんなに潮が満ちてしまって」
髪は海草 海百合の飾り
唇は珊瑚 黒真珠の入れ歯
漂着したばかりの潮騒の缶詰
腐乱死体の浜辺の恋の物語
2012/09/23
霧に煙る湖面に小舟
ゆらりろ ゆらりら
ゆれ ゆれて
おぼろ月ふたつ
櫓はひとつ
ゆれるや小舟
寄る辺なく
濡れたなら
絹の衣は肌の色
ぬらりろ ぬらりら
ぬれ ぬれて
波紋は乱れし
蛾の鱗紛
笛吹くな
竜神様が顔を出す
2012/09/23
三年前の冬、雪山でなだれに襲われた。
悪夢のような崩落の響き。
僕は奇跡的に助かった。
しかし、恋人は死んでしまった。
なぜそうなったのかわからない。
あれから僕は登山をやめた。
今、新しい恋人が僕の横で眠っている。
やすらかに幸せそうに眠っている。
雪山のように白く大きなホテルの一室、
雪のように真っ白なシーツの上で。
生きていることに感謝せずにいられない。
しかし、まさにその瞬間だった。
ベッドが激しく揺れ、振り落とされた。
地震だ。恐ろしい地鳴り。崩落の響き。
いつか聞いた響きと同じ。
忘れかけていた思い出が蘇る。
懐かしい声まで聞こえてくる。
「アナタモ、マキコンデ、アゲル」
2012/09/22
落葉よ 落葉
踏まれて つぶれて
土のよう
誰が踏んだ
みんなが踏んだ
雪が降ったら
冷たかろう
乙女よ 乙女
爪を噛んでは
いけません
舐めてごらん
指がとける
蜂蜜かけたら
甘かろう
乙女は 落葉
枝から離れて
風まかせ
落ちてみたい
落ちたくない
虫に食われりゃ
痛かろう