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  • 2008/08/16

    楽しい詩

    誰も見たことのない 海


    はるかな 水平線
    透明な 潮の香り
    汚れを知らぬ 波

    真っ白な 砂浜に
    初めてしるす 足跡


    この星が誕生して
    なん十なん億年
    過ぎたか 知らないが

    まだ 誰ひとり
    この海を泳いだ者は いない




    今 私が泳ぐ
      

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  • 南極大陸の白熊

    2008/08/15

    切ない話

    南極大陸に一頭の白熊がいた。
    すっかり老いぼれた雄の白熊だった。

    なぜか氷原に一本の棒が立っていて 
    白熊はその棒のまわりを歩きまわっていた。

    くたびれたようにぐるぐるまわっていた。
    いつまでも飽きずにまわり続けていた。

    南極の空にはオーロラが美しくひるがえり 
    その上に神様が腰かけていた。

    しばらく白熊の様子を眺めていたのだ。

    「おい。そこの死にそうな老いぼれの熊」
    神様に声をかけられ、白熊は立ち止まる。

    「おまえ、そこでなにをしておるのだ?」
    空を見上げ、やっと白熊は神様に気づく。

    「ふん。変なやつだな」
    「おまえに言われたくないぞ」

    「あんた、そこで見ていてわからんのか?」
    「さっぱりわからん」

    「頭が悪いな。まあいい。教えてやる」
    白熊は、これまでのいきさつを語った。

    白熊はもともと北極に棲んでいたらしい。

    ひとりで暮らしているうちに老いてしまい 
    老いた白熊は後悔していた。

    若いうちに結婚しておけばよかった、と。

    そんな白熊の前に悪魔が現われた。
    「あなたを若返らせてあげましょう」

    悪魔は白熊に約束した。

    老いた白熊はむろん喜び、そのまま
    南極大陸まで悪魔に連れてこられた。

    つまり、白熊は悪魔にだまされたのだ。

    「ここに日付変更線が引いてあります」
    「なにも見えないぞ」

    「そうなのです。見えない線なのです」
    「それは偉いものだな」

    「これを越えて西へ行けば昨日になります」
    「ほほう」

    「つまり、一日若返るわけです」
    「なるほど」

    悪魔の言葉を白熊は信じてしまった。

    「このまわりをぐるぐるまわりなさい」
    悪魔は極点あたりに棒を突き立てた。

    「時計の針の進む逆向きにまわるのです」
    「そうするとどうなるのだ」

    「あなたはどんどん若くなります」
    「それはすばらしい」

    そして、悪魔は去った。

    老いた白熊は南極大陸に残された。

    以来、白熊はこの棒のまわりを 
    ぐるぐるまわり続けているという。

    若返るはずが、むしろ老けてしまった。
    ボケているので、それに気づかないのだ。

    「なるほど。まったくおまえは賢い熊だ」

    この老いた白熊を哀れに思った神様は
    そっと少しずつ神秘の力を使った。

    白熊の願いをかなえてやったのだ。
    老いた白熊は見る見る若返っていった。

    「わあ、すごい! 若返ったぞ」
    若くなった白熊は大喜び。

    「あいつ、やっぱりいい奴だったんだ」
    悪魔に感謝しながら、白熊は駆け出した。

    はるか遠い氷の地平線を目指し 
    若くてすてきな結婚相手を求めて。

    オーロラに腰かけたまま神様は 
    いかにも満足そうに白熊を見送った。

    それから、ゆうゆうと天に昇っていった。


    やがて、時は流れた。

    まだ棒は南極大陸の氷原に立っていた。
    そのまわりを白熊が駆けまわっていた。

    眼を血走らせ、ぐるぐると猛烈な速さで
    時計の針の進む向きに駆けまわっていた。

    あの若返った雄の白熊の姿だった。
    しかも、まわる向きが逆。

    狂っているとしか思えないのだった。

    とんでもない失敗を神様はしたのだ。
    白熊を南極大陸に残したまま去ってしまった。

    大事な仕事を神様は忘れていたのだ。
    若返った白熊を北極に返してやることを。

    北極なら白熊も幸せになれたはずなのに。

    白熊は南極大陸には生息していない。
    少なくとも、雌の白熊は一頭もいない。

    結婚などできるはずないのだ。

    だから、南極大陸にひとり残された白熊は 
    こうしてまわり続けるしかない。

    なんの意味もない棒のまわりを 
    ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる・・・・ 

    いつまでも、いつまでも、いつまでも・・・・
     

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    • Tome館長

      2014/09/11 11:49

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2008/08/15 22:08

      高校時代、授業中にノートに書いたショートショート。
      そのノートは、なぜか捨ててしまった。
      これは、記憶を頼りにアレンジして復元したもの。

  • ブロイラー

    2008/08/15

    暗い詩

    魔法の箱の前

      なにもせず
       待っている

         欲しいものは
          与えられるもの


      だから
       おまえは

         ぶよぶよで

           ぶよぶよぶよぶよ
            ブロイラー

     

    逃げようとして

      気がつけば
       そこにいる

         魔法の箱から
          こぼれる餌


      だから
       おまえは

         ぶくぶくで

           ぶくぶくぶくぶく
            ブロイラー
     

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  • 冷たい雨の夜に

    2008/08/15

    愛しい詩

      冷たい雨の夜に
      君と

      もつれ合って階段を降りる


    「脇腹にナイフが刺さっているわ」

    ふたり
    思わず笑ってしまう


    見えないはずの流れ星が
    君のサングラスを
    斜めに横切る


    「願い事、かなったね」

    ふたり
    なんとなく黙ってしまう


    遠く近い雷鳴

    あれは
    銃声に違いない


      冷たい雨の夜に
      君と

      冷たい雨の夜に
      君と
     

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  • 大いなる兵士

    のどかな平和そのものの田園風景。
    風そよぎ、木漏れ日は揺れ、鳥が鳴く。

    緑の海を渡るように草原を渡る、少女。
    草原の真ん中で、少女は兵士を見つけた。

    とんでもなく大きな兵士だった。
    少女の腰がやっと兵士の小指の太さ。

    兵士は草の上に仰向けに倒れていた。
    巨大な機関銃をしっかり抱えている。


    少女は唇を少し開いて、夢見る表情。

    片耳に足を掛け、少女は兵士の顔に登る。
    剃り残しの髭があるから登りやすい。

    上唇を踏みながら鼻の穴を覗いてみる。
    穴は暗く、鉄柵状の鼻毛が伸びている。

    顎の端に立つと断崖にいるような気分。
    遠くに教会の屋根の十字架が見えた。


    鎖骨近くの皮膚に触れてみたら温かい。

    耳を当ててみると鼓動が聞こえた。
    木の幹の樹液の流れる音に似ている。

    (この人、生きているんだ!)

    世間知らずな少女は頬を赤らめる。
    その途端、兵士の胸から転げ落ちた。


    どこかに穴でも空いていたのだろう。

    落ちたところは、とても不思議な場所。
    まるで戦車の操縦室のように見えた。

    操縦席もあった。すぐに少女は腰掛ける。

    奇妙な形のハンドルとレバーがある。
    わけのわからないボタンが並んでいる。

    ひとつのボタンを少女は押してみる。

    正面の窓が上に開く。青空が見えた。

    レバーを引いてみると、衝撃があった。

    見下ろす風景。見覚えのある家々。
    大きな靴先が見える。兵士の靴だ。

    大いなる兵士が立ち上がったのだ。


    ハンドルをまわすと、風景がまわる。
    窓から見える風景は兵士の視界なのだ。

    少女は適当にボタンを押してみる。
    機関銃が持ち上がり、火を噴いた。

    教会の屋根が十字架ごと吹っ飛んだ。

    さらに少女は別のボタンを押してみる。
    なにかが空を飛んでゆく。爆発する。

    山が消えた。手榴弾かもしれない。


    大いなる兵士の中で少女はもう夢中。
    片っ端から次々とボタンを押してゆく。

    もう誰も少女を止められない。
     

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  • 遊園地の犯罪

    2008/08/12

    変な話

    遊園地でアルバイトをしていた。

    その日は、回転ボートの担当になった。

    回転ボートとは
    池の上を旋回するだけのボート。

    こんなものでも子どもたちは喜んでくれる。

    担当は、切符を受け取り、客を入場させる。
    小さな子どもなら、抱えてボートに乗せてやる。

    愛想はよい方だから、楽な仕事だった。


    この回転ボートのコーナーの隣には
    メリーゴーランドのコーナーがある。

    同じくアルバイトの女の子が担当していた。

    彼女と仲良くなりたいな、などと思いながら
    幼いお客さんをボートに乗り降りさせていた。

    ところが、ちょっと目を離した隙に
    子どもの腕が一本、池に落ちてしまった。

    だから、子どもはきらいだ。
    いとも簡単に壊れてしまうんだから。

    あわてて池から腕を拾い上げた。

    けれど、人が多く、どの子の腕かわからない。
    片腕の子も、泣いてる子も見つからない。


    腕を持ったまま途方に暮れていると、
    その問題の腕を引っ張る奴がいる。 

    腕に噛みつくのは、一頭の木馬だった。
    隣のメリーゴーランドから逃げてきたのだ。

    腕をニンジンとまちがえているらしい。

    隣のコーナーのアルバイトの女の子が
    泣きそうな顔をしてこちらを見ている。

    「わたし、そういうの、困ります」

    そうであろうなあ。
    どうも彼女とは友だちになれそうもない。


    木馬は腕を一本、みんな食べてしまった。

    なんということだ。犯罪ではないか。
    共犯者にされてしまう。お尋ね者だ。

    それは、まずい。ここから逃げよう。

    ひらりと木馬にまたがると、拍車を当て、
    客を蹴散らしながら出口をめざした。


    パカラッ パカラッ パカラッ パカラッ


    しかし、どこへ逃げたらいいのだ。

    遊園地だから走るのであって、
    外に出たら、木馬は木馬。

    走るはずがない。
     

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  • 夜が笑う

    弓なりに月が裂け、ニヤリと夜が笑う。
    鳴く猫の気持ちが今宵は犬にもわかる。


     闇に浮かぶ街灯の下、少女が泣いている。

     鬼に見つけてもらえなかったかくれんぼ。
     靴を片方なくして少女は家に帰れない。

     街灯に群がる蛾の羽ばたきを真似、
     路地裏の闇から手品師が手招きする。

     少女の耳の中、羅針盤が音を立てて壊れ、
     幼くて小さな頭が麟粉の波に揺れる。


      フクロウのふりをしてカラスが鳴く。
      尻尾と片目のない白猫が黒猫に化ける。
      頭をなくした鶏が交差点を横切る。


     門を閉ざされた夜の公園の奥深く、
     美しい貴婦人が立ち木に縛られている。

     血の匂いのする風が上から下へ流れ、
     長い髪は垂れて地面に溶けている。

     乱れた夜会服から零れ出た乳房。
     その乳首を少年の青白い指がつまむ。

     半ズボンを穿き、三日月に似た口の穴。
     「いけないのはあなた。ぼくじゃない」


    白い光を月が垂らし、ニヤリと夜が笑う。
    吠える犬の気持ちが今宵は猫にもわかる。
     

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  • 蛇寝川

    2008/08/10

    切ない話

    蛇の寝姿に見えるところから
    村人ら、この川を蛇寝川と呼べり。


    尻尾は遠く、山の麓へ消え、
    脱ぎし万年雪の皮、白く霞む。

    頭は遥か、海原まで届き、
    顎はずして鯨の腹に喰らいつく。

    稲穂の垂れる村々は
    さしずめ大蛇の首飾りならん。


    さて、蛇寝川にゃ橋がない。
    いくら架けても流されるとや。


    かような光景、たまに見らるる。

    村の若者、土手の上にて叫ぶ。
    向こう村の娘、対岸で手を振る。

    しかして、対岸は遠し。
    若者は裸となり、蛇寝川に入る。

    もしも大蛇が寝ておれば
    若者、運よく対岸まで泳ぎ着く。

    されど、ここの主どの嫉妬深し。
    ときおり鎌首もたげたり。


    村の古老の言うことにゃ、
    この川こえて恋などせぬことじゃ。
     

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  • サソリ

    2008/08/10

    切ない話

    彼女をサソリと呼ぶのにはわけがある。
    彼女がサソリと呼んでくれと頼むからだ。

    理由は不明だ。
    蠍座生まれでもない。

    内緒だが、彼女は乙女座だ。


    「あたしにはね、毒があるのよ。猛毒」

    ついに脳にまで毒がまわったようだ。

    「あたしに触れたら、命の保障はないわ」

    そんなの保障したって、誰も触れないって。

    「なに笑ってるのよ。殺されたいの?」

    「とんでもない。顔が引きつったのさ」
    「ふん。変な顔」

    くそ。おまえになんか言われたくないぞ。

    「サソリ。おれ、もう帰るよ」
    「えっ、どうして? まだいいじゃないの」

    「疲れたよ。おまえの毒は疲れるから」

    彼女は黙ってしまった。

    少し毒がきつすぎたかもしれない。
    まあ、いくらか薬になるだろう。

    「じゃあな、サソリ」

    そのまま彼女に背を向けて歩き始めた。

    「・・・・・・ちょっと待ってよ」

    泣きそうな声になっていた。
    気持ちはわかるが、立ち止まる気にはなれなかった。

    その時である。

    首のうしろにチクリと痛みが走ったのは。


    振り向くと、彼女は本当に泣いていた。

    「・・・・・・そうよ。あたしはサソリなのよ」
     

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    • Tome館長

      2012/11/30 21:44

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

    • Tome館長

      2011/08/08 15:57

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 生 肉

    2008/08/09

    暗い詩

    腐ったと気づいたのは、
    捨てられた後だった。


    可能性として、
    あいつが先に腐ったと気づいて、

    あたしが気づく前に捨てたのかもしれない。


    ありそうな話だ。

    というか、
    ありふれた話か。


    どうして食べてもらえないのかなって、
    随分と悩んだもんだよ。


    本当に腐っていたのなら仕方ない。
    まあ理解できる。

    だけど、
    まだそんなにいたんでなかったと思う。

    まだそれなりにおいしかったはずだ。


    そう信じたい。


    あいつの舌が肥えたのかな。
    鼻が鋭くなったのかな。

    腐りかけが旨いという俗説も
    聞いたことがある。


    なんにせよ、
    こんなに腐ってしまってはおしまいだ。

    こんなに崩れて、
    こんなに蛆まで湧いてしまって。


    ああ、蛆さえ愛しいよ。
    おいしそうに食べてくれるから。


    そのうち誰も相手にしてくれなくなるんだ。
    決まってる。

    土になるんだ。
    堆肥かな。

    まあ、似たようなもんだね。


    そこから雑草なんか生えたりして、
    嫌われたりして。

    庭の掃除の日、
    あいつに鎌でスパッと刈られたりして。

    それでおしまい。


    笑っちゃうね。
    もう笑うしかないよね。

    いまさら笑ったって
    どうにもならないけどね。


    あはは。
     

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    • Tome館長

      2012/04/15 10:12

      「Spring♪」武川鈴子さんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2012/04/10 16:41

      「こえ部」で朗読していただきました!

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