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Tome館長

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  • 霧の向こう側

    ここからでは見えないけれど
    この霧の向こう側には

    何かがあって
    誰かがいて

    その証拠のように
    ときどき物音が聞え、

    まるで呼びかけるような
    やさしそうな人の声さえ届く。


    その声に返事をすればいいのだけれど
    相手の表情が霧で見えなくて

    つい返事するのをためらってしまい、
    ここには誰もいないと信じさせようとして

    かくれんぼしているつもりになって
    いつまでもいつになっても

    この霧のこちら側で
    黙ったまま。
     

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    • Tome館長

      2014/04/26 12:44

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2014/01/19 13:06

      「さとる文庫 2号館」もぐらさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/08/18 01:13

      「しゃべりたいむ・・・」かおりさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/07/30 20:13

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

  • らせんの続き

    2013/07/29

    変な話

    らせん階段をのぼっている。

    ぐるぐる目がまわって
    げろげろ吐き気がしてくる。

    それでも、いつしか階段は終わる。
    そこにある扉を開く。

    塔の最上階、光がまぷしい。


    ベランダから眺める村の風景。
    山と森と川、風車と牧場と教会。

    おどおど見下ろせば
    ぐらぐらめまいする。

    高さより怖いものが見えてくる。

    すぐ真下の地面に死体がある。
    異様な形につぶれている。

    それは私の死体に違いない。
    なぜなら今、思い出したから。

    ここから私は落ちたのだ。


    閉めたぱかりの扉を開ける。
    らせん階段は消えている。

    そこは広く長い橋の上。

    ぺたぺた欄干に近寄り、
    ふらふら川面を見下ろす。

    それが川面なら、これは川だ。
    こんな大きな川は知らない。


    なにかが川下へ流れてゆく。

    死体だ。
    しかも私の死体。

    ぶくぶく膨らんだ腹を
    ぷかぷか浮かべてる。

    この橋から私は身を投げたのだ。

    そうだ、そうだ、そうだった。
    あわてて棚干から離れる私。


    よろよろ足がよろけて
    ころころ転びそうになる。

    足もとに誰かが倒れていたから。

    これも死体だ。
    これも私。

    私は馬車にひかれたのだ。

    そうそう、あれは死ぬほど痛かった。

    いけない、いけない。
    こんな場所から逃げなければ。


    けれど、すでに橋は

    ぐにゃぐにゃ曲がりながら
    ぐにょぐにょらせんを描き始める。
     

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  • 理想の鏡

    どこか誰も知らないところに
    理想の鏡があるという。

    理想の鏡はふたつあり、
    「異性の鏡」と「同性の鏡」があるという。


    「異性の鏡」の前に立てば、異性の姿が映る。
    あなた自身のはずなのに、なぜか異性の姿。

    しかも、あなたにとって理想の異性。

    あなたは鏡に映る異性に恋をする。
    なぜなら、まさしく理想の異性なのだから。

    あなたが微笑めば、鏡の中の異性も微笑む。
    あなたが服を脱げば、鏡の異性も服を脱ぐ。

    あなたがすることは
    鏡の異性も真似をする。

    この鏡の前で死ぬ者は
    とても幸福な人に違いない。


    「同性の鏡」の場合、同性の姿が映る。
    やはり、あなたにとって理想の同性。

    しかし、この鏡は見ない方がいい。

    この鏡の前で死ぬ者は
    とても不幸な人に違いない。
     

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  • けだるさのこもれる

    2013/07/25

    怖い話

    けだるくて
    何もする気になれない。

    起きたくない。
    外に出たくない。

    本も読みたくない。
    夢だって見たくない。


    そう言えば
    食欲もないな。

    最後に食べたのは
    どれくらい前だっけ?

    去年の夏から
    まったく食べてない気がする。

    すると、常識的に考えて
    生きていられるはずがない。


    それはまあ
    そうなのだが

    それを確かめるのも
    なんだかとっても

    億劫だ。
     

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  • 若い男

    2013/07/23

    怖い話

    おれは歩き続けていた。

    やっと自動販売機が見つかった。
    そのすぐ横に若い男がひとり立っていた。

    黒いサングラスをかけ、その口もとに
    不愉快な薄笑いを浮かべている。

    おれは自販機にコインを入れるのをやめ、
    おもむろに男を殴り倒してやった。

    そいつは地面にひっくり返ったまま
    おれを見上げ、まだ薄笑いを続けている。

    気持ち悪い奴だ。

    こんな野郎にかまっていられない。
    おれは再び歩き始めた。


    やっと新しい自販機が見つかった。

    そのすぐ横には、黒いサングラスをかけ、
    不愉快な薄笑いを口もとに浮かべ、

    若い男がふたり立っていた。
     

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  • 闇 女

    2013/07/21

    怖い話

    これは、私の友人の話。

    その友人が暗い部屋にひとりでいる。
    すると、音もなく女が部屋に侵入してくる。

    普通の女ではない。
    扉は閉まったままなのだ。

    友人は、この女を闇女と呼んでいた。
    闇に潜んでいると考えたのだ。

    闇女は長椅子に横たわる友人を見下ろす。

    暗くて見えないはずなのに 
    見下ろされているのがわかるそうだ。

    やがて闇女は友人の上に覆いかぶさる。

    闇女は裸だ。
    友人も裸にされてしまう。

    友人は信じられないような経験をする。

    汗とよだれを垂れ流し 
    牛のようにうめき続ける。

    本当に死にそうだった、と友人。
    いつか闇女に殺されてしまうだろう、とも。


    それは友人の孤独な妄想だと思っていた。

    ところが発見された時 
    友人は長椅子の上で死んでいた。

    部屋は内鍵が掛けてあり、密室なのだった。
     

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  • 社の石段

    2013/07/19

    変な話

    山の上に古びた社があった。

    長くて急な石段があるため
    訪れる者は減多にいないのだった。


    それは、ある朝のこと。

    猫が石段を上っていった。
    少女も石段を上っていった。
    浮浪者も石段を上っていった。
    坊主も石段を上っていった。


    やがて、その日のタ方。

    ヒゲを抜かれた猫が石段を下りてきた。
    服を破られた少女も石段を下りてきた。
    血まみれの浮浪者も石段を下りてきた。

    それで終わり。


    もう誰も石段を下りてこないのだった。
     

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  • ミズタマリ

    ミズタマリ ハ キライ


    イジワル バカリ スル コドモ ミタイ デ

    オイテキボリ ニ サレタ コドモ ミタイ デ

    イツマデモ ナキヤマナイ コドモ ミタイ デ
     

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    • Tome館長

      2014/04/20 19:43

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2013/07/18 10:52

      「しゃべりたいむ・・・」かおりさんが朗読してくださいました!

  • 空の向こう

    2013/07/17

    明るい詩

    手の届かぬ世界がある

      ということ


    それは
     哀しみばかりでなく

       時には
        救いにもなる

          ということ


    子どもみたいに
     思いっきり

       両手を空へ
        伸ばしてみる
     

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    • Tome館長

      2015/03/01 19:41

      「さとる文庫 2号館」もぐらさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2014/04/19 11:28

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • もみじ

    2013/07/16

    切ない話

    「もみじ」という名の喫茶店があった。

    店内の壁に額縁が飾ってあった。
    ありふれた水彩の風景画だった。

    その絵は毎週土曜日になると変わった。
    近所の貧乏画家が差し替えるのだ。

    一枚で一週間、コーヒーが飲める。
    それが店主と画家との約束なのであった。

    「そのうち、もっと価値が出るよ」
    コーヒーを飲みながら画家は笑った。


    ある土曜日、画家は来なかった。

    「とうとう絵が売れたのかな」
    なじみの客がそう呟いた。

    店主はちょっと首をかしげた。


    日曜日は喫茶店の定休日だった。


    「あいつ、死んだんだって」
    月曜日、なじみの客が店主に伝えた。

    「交通事故で、土曜日に」


    店主は壁の額縁を見上げた。
    それは先週の絵と違っていた。

    まっ赤なもみじの絵だった。
     

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    • Tome館長

      2014/04/18 16:11

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2013/09/30 23:15

      「ゆっくり生きる」haruさんが動画にしてくださいました!

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