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2012/06/08
皆が起きているうちに寝たので
皆が眠る頃に目が覚めた。
洗面所で鏡を見る。
貧相な暗い顔が映る。
おまえは生まれてからこれまで
なにかに命を賭けたことがあるか。
ない。
あるはずがない。
おまえはそういう奴だ。
いつも逃げてばかりの臆病者だ。
やってみろ。
一度くらい命を賭けてみろ。
よし、やってやろうじゃないか。
ジャンケンはどうだ。
笑うな。
笑うんじゃない。
もし負けたら命をくれてやる。
おまえなんかに負けるはずがない。
おまえは人間のクズだ。
おまえには、パーがふさわしい。
「ジャンケン、ポン!」
おまえが、ニタリと笑う。
鏡の中のおまえは、チョキを出している。
2012/06/07
今日は明るい海の風景が見えます。
沖合に客船が浮かんでいます。
甲板上で遊びふける
半裸の乗客たち。
なにやら恍惚の表情です。
昨日は暗い寝室の風景でした。
枯れた観葉植物。
壁を這うおぞましい虫。
ベッドにはミイラ化した老人。
まだ死臭が漂っているような気がします。
私は窓辺に立っています。
いつ見ているのです。
気まぐれに変わり続ける風景を
こうして黙って眺めているだけなのです。
誰も私に気づいてくれません。
誰もこっちを見てくれません。
呼びかけてもみましたが
誰ひとり振り向いてくれません。
こんなにさびしいのに。
こんなにひとりぼっちなのに。
・・・・・・でも、
もう慣れてしまったのでしょうね。
心のどこかで
密かに期待している私がいます。
眠りに落ちる前に
つい考えてしまうのです。
明日の窓は、いったい
どんな風景を見せてくれるのかしら、と。
2012/06/06
気がついたら
もう眠ってはいないのだった。
いつから目が覚めていたのか
よく思い出せない。
(・・・・・・とりあえず起きなくちゃ)
立ち上がってはみたものの
意識はぼんやりしている。
はっきり目を覚ますため
キッチンの流し台で顔を洗う。
(・・・・・・ん?)
洗いながら、ふと目を開けると、
水盤に顔が落ちてるのが見えた。
水たまりに油膜が浮くみたいに
ステンレスの水盤上に顔が浮いていたのだ。
(顔の脂分が落ちたの?)
そんなことを考えているうちに
その膜状の顔は歪んで細くなり、
そのまま
すーっと排水口に流れ込んでしまった。
おかしな話である。
(常識的にあり得ない!)
顔をタオルで拭き、
おそるおそる手鏡を覗く。
ちゃんと顔が映っている。
ただし、少しばかり
表情が乏しくなったような
そんな気がしないこともないけれど。
2012/06/05
春告げ鳥が
逃げてゆく
追いかけて
なにをしようと云うのでせう
なにをしたいと云うのでせう
とって喰えるわけじゃなし
啼いて甘えるはずもなし
2012/06/04
【地震の前触れ】
ニワトリが夜中に突然騒ぎ始める。
犬がやたら吠え、暴れたり、言うことを聞かなくなる。
カラスの大群が異常な鳴き声で騒ぐ、または移動する。
地面、地下水、井戸から音が聞こえる。
井戸の水、温泉の温度変化。
魚が暴れたり、頭を水面に近づけ立ち泳ぎ状態になる。
海面の変色、気泡の発生。
潮の引き満ちが激しい。
赤い地震雲の発生。
長く太い帯雲が空に長く残る。
龍のような巻き雲がまっすぐ立ち上る。
夕焼けや朝焼けの空の色が異常。
日がさや月のかさが異常に大きい。
朝焼け時の光柱現象。
テレビ画面に縞が入ったり、画像が映らない。
ラジオ、携帯電話の雑音がひどい。
【津波の前触れ】
地震の発生。
急激な引き潮。
【土石流の前触れ】
山鳴りや立木の裂ける音、石の衝突音が聞こえる。
雨が降り続いているのに川の水位が下がる。
川の水が急に濁ったり流木が混ざり始める。
腐った土の臭いがする。
【地すべりの前触れ】
地面にひび割れができる。
斜面から水が吹き出す。
沢や井戸の水が濁る。
【噴火の前触れ】
震源の浅い火山性地震が発生する。
火口付近が急激に隆起する。
【竜巻の前触れ】
急激な天候の崩れ。
たくさんの乳房が垂れたような乳房雲が空を覆う。
【嵐の前触れ】
各種メディアが「天気予報」と称し、かなり詳しく教えてくれる。
2012/06/03
そうなの。
あたし、こう見えてもOLなの。
なのにね、
仕事で失敗ばっかりするから
部署の偉い人から怒られちゃって
デスクのある部屋から追い出されて
こんなふうに
罰というか見せしめとして
会社の廊下に立たされてるの。
黄色い帽子かぶせられて
赤いランドセルしょわされて
こんな青いブルマーまではかされて
それから、ええと
よくわかんない色のタテ笛というか
リコーダーなんか持たされて
いかにも吹いてるような真似とか
させられてるの。
ひどいよね。
ばかにしてるよね。
まるで小学生扱いだよね。
ホント、
小学生なら泣いちゃうよ。
あたし、もう大人だから
泣いたりしないけどさ。
まあ、でもね、
そんなに淋しくはないんだよ。
だってね、あたし
こう見えても
本物の小学生の時から
リコーダー吹くのだけは
得意だもん!
2012/06/02
これより私は
あなたへの恋心を
できるだけ素直に
綴ってみようかと思います。
正直なところ、
私はあなたのことを
あまりよく知らないのです。
よく知らないから
気になるのでしょうか。
いいえ。
知らなくても一向に気にならない人は
たくさんいます。
なのに、なぜか私は
あなたのことが気になるのです。
あなたのこと
そんなに知らないわけじゃないのに
もっと知りたいと思うのです。
こんなふうに
もっと知りたいと思う気持ちが
つまり
恋心なのでしょうね。
あなたは
まるで風のような人だから
吹かれていると
とても心地好いのです。
けれど、
もし私が
あなたと一緒になって
ともに動いてしまったら
どうでしょう?
もう風は
風でなくなって
まるで
動かない空気のように
感じてしまうかもしれませんね。
それどころか、
やがて感じることさえ省略され、
気にもかけなくなることでしょう。
情けない話ですけど、
実際のところ
そんなものなんだろうな
と思います。
しかし、これでは、とても
恋文になりませんね。
恋心 ひた隠さねば 恋ならず
どうも失礼いたしました。
2012/06/01
鎖に繋がれ
目は虚ろ
生き長らふため
櫂を漕ぐ
ガレー船の奴隷さながら