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2012/04/08
ある依怙地な女の子の物語。
どうでもいいような
瑣末なことが気になって
彼女、なかなか眠れない。
あたし、愛されているかしら?
それとも、嫌われているの?
もしかして、憎まれてる?
ひょっとしたら、無視?
いつまで考えても
わかんない。
依怙地な依怙地な
依怙地な子。
やっぱり今夜も眠れない。
2012/04/07
彼女は逃亡者
名を偽り
顔を変え
命を守る
彼は追跡者
名を呼び
顔を歪め
命を削る
2012/04/06
私は、もうダメ。
ペチャンコだ。
完全につぶれてしまった。
針の折れた安物の画鋲みたい。
ああ、みじめ。
立ち直れない。
骨も肉も内臓も、みんなグチャグチャ。
両手なんか、ウチワみたい。
これでは顔も洗えない。
もっとも顔だって
きっと座ブトンみたいだろうけど。
怖くて鏡が見れない。
でも、どうせ目玉もつぶれて見えないか。
ああ、そんな。
踏まないで。
つぶれていても痛むのだから。
ああ、どうして踏むの。
つぶれた声で、聞こえないの?
やめて、煙草は。
熱い灰が落ちるじゃない。
私は敷物じゃないんだから。
今のところは、まだ・・・・・・
2012/04/05
その光は 明るいけれど
眩しくはなく
温かいけれど
熱いほどでもない
日中は知らんぷりして
暗くなって やっと気づくような
そんな おとなしい
弱気な 小さな灯
消さないよう
驚かさないよう
そおっと 寄り添って
そおっと 手を かざして
それから そおっと
そおっと 微笑むの
2012/04/04
ここは静かな海。
潮騒さえ聞こえない。
なにしろ海水がない。
昔は眩い海原が広がっていたのであろうけれども
今は干乾びた海底が剥き出しになっているばかり。
そんな名ばかりの海の前、
やはり名ばかりの渚に座り、
私は目を閉じる。
本当に静かだ。
吸い込まれそうなくらい。
耳が痛い。
私は両耳に手の覆いをする。
偽りの潮騒が聞こえる。
私は首を振る。
いっそ沈黙に吸い込まれて
消えてしまえばいいのに。
こんな名ばかりの私なんか・・・・・・
2012/04/03
ブクブク ブクブク
水の泡
あんたは ブクブク
水の泡
あんたの苦労も
水の泡
あんたの使った 時間と費用
水の泡
あんたの作品
水の泡
栄光 信頼 実績 尊敬
名誉も 地位も
水の泡
なんでも かんでも
水の泡
みんな みんな
水の泡
ブクブク ブクブク
ブクブク ブクブク
ええじゃないか
えじゃないか
水の泡かて えじゃないか
泡になれたら えじゃないか
ブクブク ブクブク
ブクブク ブクブク
泡さえなれぬ 水よりは
ブクブク
2012/04/02
わたくしは縄梯子を伝い、
二階のベランダから忍び込みました。
お嬢様は大変驚かれたようでありました。
「わたくしのことは気にせず、演奏を続けてくれたまえ」
そう伝えましても、お嬢様は驚かれ続けているご様子で
上品な口を心持ち下品に開いたままでいらっしゃいました。
「ああ、お嬢様。まことに申し訳ありません。
あまりに素敵なヴァイオリンの音色に心動かされまして
つい出来心から忍び込んでしまった次第です」
わたくしの悪気なさそうな笑顔によるものかどうか、
お嬢様はどうにかこうにか
演奏を再開してくださったのでした。
ちょっとぎこちない演奏になってしまったのは
このような状況ですから仕方ありますまい。
わたくしはヴァイオリンの音色に合わせまして
ゆっくり首や腕を振りました。
すると、いくらか音色が滑らかになったようです。
そこで、わたくしはベランダに干してあった下着を外して
ポケットに押し込むと、
縄梯子を伝って裏庭に降り立ち、
風のようにさっそうと逃走したのでありました。
2012/04/01
キノコ採りに人喰い森に分け入り、
すっかり道に迷ってしまった。
もともと道らしい道はなく、
けもの道というか鬼の道に迷ったのだ。
「おい、こっちだ。人の匂いがするぞ」
人喰い鬼どもの声がした。
絶体絶命のピンチだ。
「いたぞ。逃がすな!」
必死になって逃げながら
俺は迫り来る恐ろしい鬼どもに向かって
護身用の光線銃を発射した。
すると、ものすごい悲鳴があがった。
派手に血しぶきを撒き散らしながら
鬼どもは痛々しく地面を転げまわるのだった。
意外にも、鬼は光線銃に弱いらしい。
「ニンゲン様、助けてください。
お許しください」
鬼どもが命を乞うのだった。
俺は人里への道を尋ね、
無心してキノコを山ほどもらった。
日差しの明るい森の外に出てしまうと
なんだか鬼どもに
申し訳ないことをしてしまったような
そんな気もするのだった。