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2016/04/19
総員に告ぐ。
撤退せよ。
すみやかに撤退せよ。
繰り返し、総員に告ぐ。
撤退せよ。
すみやかに撤退せよ。
何人たりとも
この地に留まってはならぬ。
何人たりとも
この地を振り返ってはならぬ。
総員に告ぐ。
あえて総員に告ぐ。
勇気は不要、見栄は邪魔。
過去に頼らず、しがらみを断て。
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2016/04/18
君は自転車に乗って
僕は走ったり歩いたりして
楽しそうに喋ったり笑ったりしながら
ふたり共通の目的地を目指して進んでいる。
とても微笑ましい情景ではあるけれど
じつは、あのふたりは僕たちではないかもしれない。
あの少女は君ではなくて
あの少年も僕ではない。
そういう可能性は十分にある。
というか、そう考えるのが自然だ。
けれども、実際のところ
過ぎ去った事実なんか気にすることはない。
今、僕たちが思いたいように思えるなら
どこにもなんの問題もないはずなのだから。
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2016/04/17
布団に入ったものの眠れずにウトウトしていたら
真夜中、地響きとともに妙な音が聞こえてきた。
住んでるマンションの前は急な坂道なのだが
そこを何か非常に重いものが通過している気配。
大型トラックが通る音とはとても思えない。
たとえようのない変な音だった。
無理にたとえるなら、巨大なゾウのような物体が
横倒しになりながらゴロンゴロン転がる感じか。
やがて音は消え、地響きもしなくなった。
翌朝は休日、集団清掃の日だったので
出席された住人たちに尋ねてみた。
しかし、その時刻に起きていた人はおらず
誰も気づかなかったとのこと。
「いえいえ、私はしっかり見ましたよ。
マンモスが群れをなして転がり落ちてゆくのを」
そんな冗談を言ってくれる奇特な住人はいないのだった。
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2016/04/16
素敵なことを見つけたら
忘れないうちに形に残そう。
だって
素敵なことは
そんなにポンポン生まれない。
消えてしまったら
跡形もない。
記憶だって
いつか消える。
それにそれに
その素敵なことは
もう二度と生まれそうもないような
すっごく貴重な
すっごく素敵なことかもしれないのだから。
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2016/04/15
彼はビョーキであって
彼女もビョーキであって
ふたりは
同病相憐れむの図
なのであって
恋人とか
そんな生ぬるい関係
ではなくて
ふたりは
互いの糞便を喰い合うほどの仲
なのであって
互いを苛さいなみ
互いを辱はずかしめ
互いを傷つけ合うしかなくて
救いようがなくて
手の施しようがなくて
見て見ぬふり
するしかなくて
そんな
どうにも分かち難く
どうにも始末に困るばかりの
どうしようもない
ふたり
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2016/04/14
我々は互いを「同志」と呼び合い、革命の機会を狙っていた。
ただし、血なまぐさい政治革命ではない。
産業革命やIT革命でもなく、ましてや宗教改革ではあり得ない。
たとえるなら、ルネッサンスに近いだろうか。
既存文化を破壊する軽率な文化革命ではなく
文化全般に対する集団的な意識革命のようなもの。
ただし、明確な具体策はなかった。
漠然とした日常の慢性的な閉塞感が耐え難かったのだ。
「同志。なにか面白いことはないか」
「同志。その問いからして面白くないぞ」
「すると、この考えは粛清せねばならないか」
「自己批判に任せるが、とにかく、つまらん言動は排除せよ」
我々は模範的な優等生になりたいわけではなかった。
「よくできました」の花丸スタンプが欲しいわけではなかった。
命を捧げねばならぬとしても悔いのない何か
やむにやまれぬ「革命のようなもの」が欲しかったのだ。
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2016/04/13
まず最初にボタンを掛け違えてしまった。
「そこじゃないってば」
さらにボタンを掛ける途中でもボタンを掛け違えてしまった。
「違うってば。ここよ」
だいたい、もともとボタンの数とボタン穴の数が等しくなかった。
「あんた、そっちの趣味があるの?」
しかもその上、ボタン穴に入れる前にボタンが取れてしまった。
「もう。だらしないわね」
呆れたことに、ボタンが大きいかボタン穴が小さいかして
ボタンがボタン穴に入らなことすらあった。
「だから、そこは無理だってば」
それどころか逆に、ボタンが小さいかボタン穴が大きいかして
ボタンがボタン穴からはずれる場合もあった。
「まったく。あんたって最低ね」
そもそも、どうやら着る服を間違えていたようだ。
「もう私に近寄らないで」
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2016/04/12
諸事情から陸地に家を建てられず
池と呼ぶべきか迷うような湖に家を浮かべた。
太くて長い丸太を並べて縦横二段に縛った大きな筏いかだの上に
犬小屋に見えなくもない小さな家を建てたのだ。
風に流されて岸から離れ過ぎないよう
また、逆にあまり岸に近づかないよう、錨いかりが沈めてある。
形もそうだが、航行するわけではないので船とは呼びにくい。
なぜこんな湖上生活を始めたのか、と言うと
地上があまりにも物騒だったからだ。
長引く群発地震。
それを起因とする困窮と貧困の深刻化。
不幸に追い打ちするような犯罪の増加と凶悪化。
つまり、地上では安心して眠れないのだ。
ひどい世の中になったものだ。
ただし、湖上が安全とも言えない。
辺鄙へんぴな場所だが、食料を求めて人が現れる。
拳銃は持ってないが、用心のため大量の石ころと
鉈なたと柳刃包丁と手作り弓矢とブーメランは用意した。
確保した玄米と釣ったり罠にかかった魚を食べ
たまに上陸すると、山菜を採ったりする。
さらに最近では、街に出て買い物だってする。
大人しくなりつつある大地もそうだが
そろそろ地上の混乱も落ち着いてきたようなのだ。
それでも筏の家に慣れてしまったので
しばらくは湖上生活を続けるつもりでいる。
なにしろ、地に足の着かない生活は気楽だから。
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2016/04/11
「ひとつ問いたいのだが」
「なんでしょうか?」
「私でないのではないのなら、それは私か?」
「あなたでしょう」
「ところが、そうとも限らんのだ」
「たとえば?」
「この私ではなく、別の私かもしれない」
「でも、あなたであることは同じでしょ?」
「しかし、違う私だ」
「どうも意味がわかりませんね」
「二重否定により、もうひとり別の私が生じてしまったのだ」
「ええと、つまり否定の否定ですよね」
「私でなくはない私だ」
「あなたでなくはないあなたですか?」
「その通り」
「それは困りましたね」
「私を困らせているのは、おまえだ」
「私が?」
「そうだ。おまえがもうひとりの別の私だ」
「まさか!」
「こっちこそ、そう言いたい」
「そう言われてみると、なんだかあなたは私みたいですね」
「おまえが私と言うな」
「あなたこそ私のことをおまえと言わないでださいよ」
「おまえはおまえだろうが」
「そう。私は私です」
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2016/04/10
人を動かすに説教は下の下なり
そちらへ動きたくさせるが上策
密なる間柄なればともかく
赤の他人ならばなおさら
捨て置かば人は快楽へと向かい
苦痛より遠ざからんとす
この節理に物申しても詮なし
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