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2012/04/19
白痴はいつも
太鼓を叩いていた。
近くにいれば
必ず太鼓の音がした。
太鼓を叩いていなければ
眠っているのだった。
きっと太鼓を叩く夢でも
見ているのだろう。
いつも白痴は
どこか旅していた。
太鼓が唯一、
白痴の道連れだった。
白痴だから
ほとんど言葉は話せなかった。
その代り、
太鼓で話をするのだった。
太鼓の音だけで
意味が伝わるのだった。
鳥や獣とも
話せるようであった。
風や雨の音とも
合奏できるのだった。
ドム ドム ドム
ドム ドム ドム
太鼓の響きが
大空に広がってゆく。
それだけで
なぜか泣けてくるのだった。
まだ白痴は
旅を続けているだろうか。
あの太鼓の響きが
今でもまだ
耳から離れない。
2012/04/18
君が泣きそうだから
僕は笑いそうになる
僕が笑いそうだから
君は怒りそうになる
君が怒りそうだから
僕は泣きそうになる
それで やっと僕たちは
一緒に泣くことができる
まるで 傘を持ってるから
雨が降るみたいに
2012/04/17
その女の髪には花が飾ってある。
造花ではなく、本物の花。
切り花ではない。
頭に生えているのだ。
花蜜に誘われ、蝶や蜂が寄って来る。
そして、花粉にまみれて飛んで行く。
「今夜、帰りたくないの」
花弁に似た唇が囁く。
「わかるでしょ?」
その手相は、まるで葉脈のよう。
「本当の私を見せてあげる」
風に揺れるような悩ましい動き。
「とても綺麗な花が咲いているの」
甘く切ない蜜の香り。
2012/04/16
ねえ、君。
ご存じかな?
「ニャー」という名の鍵盤楽器を。
見た目、ほとんどアップライト・ピアノ。
もっとも、アップライトの中古ピアノを改造したのだから
当然と言えば当然だけどね。
つまり、僕が作ったんだ。
「ニャー」の命名も僕。
じつは、こいつなんだ。
これが実物の「ニャー」なのさ。
この「ニャー」を演奏するためには
それなりに、なかなか準備が大変なんだよ。
まず最初に、上蓋を開き、
所定の位置に生きた猫をセットする。
元気な猫ほど望ましい。
薬で眠らせたり、死んだ猫ではいけない。
そっと見てごらん、君。
うちのタマさ。
しっかり固定されてるだろ?
そりゃ、大変だったよ。
ほらね。
両手とも、傷だらけさ。
まあ、なんと言うか、仕方ないよね。
それはともかくとして、
あとは普通に演奏するだけさ。
さて、いいかい。
キーを叩いてみるよ。
とりあえず、ドレミファソラシドね。
♪ ニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャー ♪
どうだい?
なかなか素敵だろ。
よし。
次は「猫踏んじゃった」ね。
♪ ニャニャ ニャンニャン ニャー
ニャニャ ニャンニャン ニャー
ニャニャ ニャンニャー ニャンニャー
ニャンニャン ニャー ・・・・・・・ ♪
2012/04/15
愛なんか知らない。
神様なんか関係ない。
学校なんか言い訳さ。
家庭なんかタテマエさ。
他人の殺人事件には興味ない。
冒険らしい冒険ほど退屈なものはない。
いかにもの謎なんか、解きたくもない。
ありふれた夢なんか、見たくもない。
幽霊が現れたら怖そうだけど
現れないから怖いのかもね。
だからなんだ、と怒られたら
なんでもないです、と謝ろう。
2012/04/14
もの悲しくも
切なくも
腕なくし
脚萎えし
傷痍軍人
白装束の楽団の
アコーディオンの音
かつて
同郷の友と
上野の森にて
不意に
聴かされり
2012/04/13
僕の婚約者が僕ではない男と心中をした。
結局、ふたりは死んでしまった。
それはそれでいい。
ありそうな話だ。
ところが、その男にも婚約者がいた。
もちろん、僕の婚約者とは別の女だ。
お互いに婚約者に心中されたわけだ。
初対面は病院の霊安室だった。
お互い、慰めの言葉もなかった。
「まぬけね」
「そっちこそ」
ふたりとも笑ってしまった。
すぐに僕たちは婚約した。
それから、心中の相手をさがし始めた。
たぶん、お互いに。
2012/04/12
僕は学校帰りに自転車で転んで
頭を強く打って
気がついたら
黒い犬がいて になっていて
制服のスカートが破れ 私は
手が悴んで
とても困ったことに
そんなこと
「ああ、お願い。 やめて!」
どうして辺鄙な
軍艦なんか
でも、 片目の人形がこっちを
「 もっと強く。 血が 」
「 逆転すると困る ?」
「案外ね」
いくら炊飯器だって
俺にもわからない。
「ただいま」
「 遅かったわね」
そういうわけなのでした。
2012/04/11
パンは一個しかなかった。
それを男が食べてしまった。
もう食べ物は残っていない。
女は泣きながら死んだ。
やがて、男も死んでしまった。
パンは一個しかなかった。
それを女が食べてしまった。
もう食べ物は残っていない。
男は怒り狂い、女を殺した。
やがて、男も死んでしまった。
パンは一個しかなかった。
それを男が半分食べた。
残った半分を女が食べた。
もう食べ物は残っていない。
やがて、男も女も死んでしまった。
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2012/04/09
俺は包丁を持って歩いていた。
若い女が立っていたので、包丁で刺した。
胸が大きかったので、胸を狙った。
女は口をパクパクしながら倒れた。
俺はかまわず、包丁を持って歩き続けた。
中年男が立っていたので、包丁で刺した。
腹が出ていたので、腹を狙った。
男はゲロを吐いて倒れた。
俺は気にせず、包丁を持って歩き続けた。
女の子が立っていたので、包丁で刺した。
かわいい顔をしていたので、顔を狙った。
少女は痛々しい悲鳴をあげて倒れた。
俺は無視して、包丁を持って歩き続けた。
老人が立っていたので、包丁で刺した。
腰が曲がっていたので、腰を狙った。
老人は入れ歯と杖を飛ばして倒れた。
俺はツバを吐き、包丁を持って歩き続けた。
今でも俺は、まだ歩き続けている。
包丁を手に持ったまま。