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2016/04/30
さっきまでふぶいていた。
まさにすさまじい吹雪だった。
激しくて、冷たくて、死にそうだった。
でも、今はもう穏やかで暖かい。
さっきまでの苦痛が嘘のようだ。
冬山の天候は変わりやすい。
ようやく前進することができる。
いままで吹雪のために動けなかったのだ。
だけど、なんだか眠くなってきた。
そういえば、ほとんど眠っていないのだ。
ここまで随分がんばってきたから。
少し休んだ方がいいかもしれない。
そうだ。少しだけ休もう。
ああ、気持ちいい。
暖かくて頬に気持ちいい。
こんなに雪が暖かいとは知らなかった。
風もなんだか暖かい。
雪が混じっているからだな。
いや、待てよ。
雪混じりの風なら吹雪ではないか。
そうか。まだ吹雪はやんでなかったのか。
そのかわり暖かくなっていたんだ。
なるほど。そうだったんだ。
どうして気がつかなかったんだろう。
ああ、やっぱり疲れているんだな。
もう少し暖まったら立ち上がろう。
立ち上がったら頂上を目指すんだ。
それまで体を暖めておこう。
もう少し。もうちょっとだけ・・・・
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2016/04/29
ノラ猫とノラ猫の
そっと
くちづけするを見た
買い物の途中
赤き自販機の前にて
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2016/04/28
これはこの正月、実家に帰省したおり
すっかり腰が曲がって小さくなった老母から聞いた話である。
昔の田舎は舗装道路ではなく、砂利道がほとんどだった。
適当な大きさに粉砕した石ころを厚く敷いただけの道。
まだ幼かった私をその砂利道、おそらく農道に置いておくと
地面の石ころをもてあそび、いつまでも大人しくしていたそうである。
つまり、手間の掛からない赤ん坊だったわけだ。
おそらく当時、他に適当な遊び道具もなかったはずなので
石ころの多様な色や形、それらの配置などを楽しんでいたのだろう。
こうして大人になった今も、ひとり飽きもせず
言葉や音声やイメージを組み合わせて遊んでいるように。
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2016/04/27
さる陸の孤島に一匹のモモンガが生息しており
たまに思い出したように滑空するという。
普通のリスではなく、また鳥でもなく
なぜ彼女がモモンガなのかは不明である。
おそらく、空を飛びたいのはやまやまだが
羽ばたいてまで空を飛びたいほどではないのだろう。
いかにも彼女はくたびれやすそうだから。
彼女、鳴き声はバリエーションに富むが
地声がもっとも作り声に聞こえるという弱点を持つ。
ただし私は、本物のモモンガの鳴き声を知らない。
たまに木の枝から飛び降りるように滑空するのが
モモンガとしての彼女の唯一の楽しみのようである。
毒虫はいまわり、悪臭ただよう環境にじっと耐え
彼女は今日も陸の孤島でたくましく生きる。
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2016/04/26
どうも気がしれない、と思っていたら
我慢できなくなったのか、ついに下半身が怒った。
「上半身に宣戦布告し、下半身の独立を宣言する」
放屁しながら、さような趣旨の言葉を肛門が喋った。
「よかろう。望むところだ」
こっちこそ自分勝手な下半身にはウンザリしていたところだ。
ヘソのあたりを輪切りにする形で仮の国境線が引かれ
上下人体の分断外科手術が始まった。
近頃は、医学およびその関連技術の進歩により
想像しうることは大抵できてしまうのである。
こうして生身の上半身は人工の下半身を得る。
同じく生身の下半身は人工の上半身を得る。
ようやく上下、互いに自由が得られたわけだ。
おれは書斎でひとり、学問に集中できるようになった。
下半身は何も考えず、外で派手に遊びまわっているらしい。
相変わらず相手の気はしれないが、ともかく
じつに平和的な解決と言えよう。
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2016/04/24
目の前には荷物を積んだトラック。
缶詰や瓶詰や箱詰が荷台に山盛りになっている。
「安いよ、安いよ。ねえ、買ってよ」
路上販売なのか、女の子に声をかけられた。
おいしそうな果物の缶詰が目についた。
「ええと、この缶詰はいくら?」
「それより、こっちのが安いよ」
女の子は大きな菓子の箱詰を叩き、値段を言う。
「ほう。それはまた安いね」
即決で買ってしまう。
そこへ懐かしい知人が現れたので
買ったばかりの菓子の箱詰めがいかに安いか自慢する。
自慢しながら、果物の缶詰が欲しかったのに
菓子の箱詰を買わされたことに気づく。
あの女の子の姿はない。
もう山積みのトラックも消えている。
路上に大きな菓子の箱詰が置いてあるだけ。
ちっとも菓子なんか食べたくないのに。
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2016/04/23
列車に乗るため、地下道を急いでいる。
有名な女優と一緒にいるらしいのだが
自分が彼女であるようでもあり、どうも曖昧だ。
突然の腹痛に襲われた彼女あるいは自分は
しばらく階段の途中で斜めになって休む。
そのため列車に乗り遅れてしまう。
それでも次発の列車に乗るため
ホームにしゃがんで待つことにする。
ここから出る列車はすべて急行であり
勢いをつけて地上を走るために地下から出発する。
ホームは弓なりに曲がっており
その弓の端に列車が停止しているのが見える。
乗り遅れた先発列車が引っかかっているのか
または到着予定の次発列車がつっかえているのだろう。
曲がったホームに誘われるかのように近づき
停車中の列車の窓から内部を覗いてみる。
通路を挟んで座席が左右二列ずつ計四列になって奥まで並び
どちらも窓側の座席はすべて埋まっている。
もし彼女が自分ではないとしても
二人ぴったり並んで着席することはできそうもない。
また、それを彼女が望むだろうか。
そもそも乗車できるかどうかも不明なままなのだ。
やがてまた腹痛が始まる。
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2016/04/22
さむいさむいと
寄り添えば
ぬくいぬくいと
肌も寄せ
すきよすきよと
口を吸う
ほんにおまえは
浮気者
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2016/04/21
泉よ 泉
こんこんと
湧き出で止まぬ
清き水
くたびれ果てたる旅人の
喉をうるおし
そこにあれ
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2016/04/20
始まりあらば、終わりあり。
何事も、いつか終わる。
終わりが来る。
それは遠い先の話か
すぐ目の前の現実か。
いや。すでに
終わってないとも限らない。
それを認めるか否かの問題に過ぎぬかも。
気持ちに従い、無理しても
どうせ得より損ばかり。
まあ、そんなもんだ。
諦めろ。
さて、終わったは終わったとして
次に何を始めよか。
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