Tome Bank

main visual

Tome館長

m
r

Tome館長

CREATOR

  • 3

    Fav 1,204
  • 9

    View 5,858,205
  • p

    Works 3,356
  • 吹雪の休息

    2016/04/30

    ひどい話

    さっきまでふぶいていた。

    まさにすさまじい吹雪だった。

    激しくて、冷たくて、死にそうだった。 

     

    でも、今はもう穏やかで暖かい。

    さっきまでの苦痛が嘘のようだ。 

     

    冬山の天候は変わりやすい。

    ようやく前進することができる。

    いままで吹雪のために動けなかったのだ。 

     

    だけど、なんだか眠くなってきた。

    そういえば、ほとんど眠っていないのだ。

    ここまで随分がんばってきたから。 

     

    少し休んだ方がいいかもしれない。

    そうだ。少しだけ休もう。 

     

    ああ、気持ちいい。

    暖かくて頬に気持ちいい。 

     

    こんなに雪が暖かいとは知らなかった。

    風もなんだか暖かい。

    雪が混じっているからだな。 

     

    いや、待てよ。

    雪混じりの風なら吹雪ではないか。 

    そうか。まだ吹雪はやんでなかったのか。 

     

    そのかわり暖かくなっていたんだ。

    なるほど。そうだったんだ。 

     

    どうして気がつかなかったんだろう。

    ああ、やっぱり疲れているんだな。 

     

    もう少し暖まったら立ち上がろう。

    立ち上がったら頂上を目指すんだ。 

     

    それまで体を暖めておこう。

    もう少し。もうちょっとだけ・・・・

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 猫のKiss

    2016/04/29

    愛しい詩

    ノラ猫とノラ猫の 

     

    そっと 

    くちづけするを見た 

     

     

    買い物の途中 

    赤き自販機の前にて

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 砂利道の赤ん坊

    これはこの正月、実家に帰省したおり 
    すっかり腰が曲がって小さくなった老母から聞いた話である。

     

     

    昔の田舎は舗装道路ではなく、砂利道がほとんどだった。

    適当な大きさに粉砕した石ころを厚く敷いただけの道。

     

    まだ幼かった私をその砂利道、おそらく農道に置いておくと 

    地面の石ころをもてあそび、いつまでも大人しくしていたそうである。

     

    つまり、手間の掛からない赤ん坊だったわけだ。

     

    おそらく当時、他に適当な遊び道具もなかったはずなので 

    石ころの多様な色や形、それらの配置などを楽しんでいたのだろう。

     

    こうして大人になった今も、ひとり飽きもせず 

    言葉や音声やイメージを組み合わせて遊んでいるように。

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 陸の孤島のモモンガ

    2016/04/27

    変な話

    さる陸の孤島に一匹のモモンガが生息しており 

    たまに思い出したように滑空するという。

     

    普通のリスではなく、また鳥でもなく 

    なぜ彼女がモモンガなのかは不明である。

     

    おそらく、空を飛びたいのはやまやまだが 

    羽ばたいてまで空を飛びたいほどではないのだろう。

     

    いかにも彼女はくたびれやすそうだから。

     

     

    彼女、鳴き声はバリエーションに富むが 

    地声がもっとも作り声に聞こえるという弱点を持つ。

     

    ただし私は、本物のモモンガの鳴き声を知らない。

     

    たまに木の枝から飛び降りるように滑空するのが 

    モモンガとしての彼女の唯一の楽しみのようである。

     

    毒虫はいまわり、悪臭ただよう環境にじっと耐え 

    彼女は今日も陸の孤島でたくましく生きる。

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 下半身の反乱

    2016/04/26

    愉快な話

    どうも気がしれない、と思っていたら 

    我慢できなくなったのか、ついに下半身が怒った。

     

    「上半身に宣戦布告し、下半身の独立を宣言する」

    放屁しながら、さような趣旨の言葉を肛門が喋った。

     

    「よかろう。望むところだ」

    こっちこそ自分勝手な下半身にはウンザリしていたところだ。

     

    ヘソのあたりを輪切りにする形で仮の国境線が引かれ 

    上下人体の分断外科手術が始まった。

     

    近頃は、医学およびその関連技術の進歩により 

    想像しうることは大抵できてしまうのである。

     

    こうして生身の上半身は人工の下半身を得る。

    同じく生身の下半身は人工の上半身を得る。

     

    ようやく上下、互いに自由が得られたわけだ。

     

    おれは書斎でひとり、学問に集中できるようになった。

    下半身は何も考えず、外で派手に遊びまわっているらしい。

     

    相変わらず相手の気はしれないが、ともかく  

    じつに平和的な解決と言えよう。

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 山積みのトラック

    2016/04/24

    変な話

    目の前には荷物を積んだトラック。

    缶詰や瓶詰や箱詰が荷台に山盛りになっている。

     

    「安いよ、安いよ。ねえ、買ってよ」

    路上販売なのか、女の子に声をかけられた。

     

    おいしそうな果物の缶詰が目についた。

    「ええと、この缶詰はいくら?」

     

    「それより、こっちのが安いよ」

    女の子は大きな菓子の箱詰を叩き、値段を言う。

     

    「ほう。それはまた安いね」 

    即決で買ってしまう。

     

    そこへ懐かしい知人が現れたので 

    買ったばかりの菓子の箱詰めがいかに安いか自慢する。

     

    自慢しながら、果物の缶詰が欲しかったのに 

    菓子の箱詰を買わされたことに気づく。

     

    あの女の子の姿はない。

    もう山積みのトラックも消えている。

     

    路上に大きな菓子の箱詰が置いてあるだけ。

    ちっとも菓子なんか食べたくないのに。

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 曲がりホーム

    2016/04/23

    変な話

    列車に乗るため、地下道を急いでいる。

     

    有名な女優と一緒にいるらしいのだが 

    自分が彼女であるようでもあり、どうも曖昧だ。

     

    突然の腹痛に襲われた彼女あるいは自分は 

    しばらく階段の途中で斜めになって休む。

     

    そのため列車に乗り遅れてしまう。

     

    それでも次発の列車に乗るため 

    ホームにしゃがんで待つことにする。

     

    ここから出る列車はすべて急行であり 

    勢いをつけて地上を走るために地下から出発する。

     

    ホームは弓なりに曲がっており 

    その弓の端に列車が停止しているのが見える。

     

    乗り遅れた先発列車が引っかかっているのか 

    または到着予定の次発列車がつっかえているのだろう。

     

    曲がったホームに誘われるかのように近づき 

    停車中の列車の窓から内部を覗いてみる。

     

    通路を挟んで座席が左右二列ずつ計四列になって奥まで並び 

    どちらも窓側の座席はすべて埋まっている。

     

    もし彼女が自分ではないとしても 

    二人ぴったり並んで着席することはできそうもない。

     

    また、それを彼女が望むだろうか。

    そもそも乗車できるかどうかも不明なままなのだ。

     

    やがてまた腹痛が始まる。

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 浮気者

    2016/04/22

    愛しい詩

    さむいさむいと 

    寄り添えば 

     

    ぬくいぬくいと 

    肌も寄せ 

     

    すきよすきよと 

    口を吸う 

     

     

    ほんにおまえは 

    浮気者

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 泉よ 泉

    2016/04/21

    明るい詩

    泉よ 泉 

    こんこんと 

     

    湧き出で止まぬ 

    清き水 

     

    くたびれ果てたる旅人の 

    喉をうるおし 

     

    そこにあれ

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • いつか終わる

    2016/04/20

    空しい詩

    始まりあらば、終わりあり。

     

    何事も、いつか終わる。

    終わりが来る。

     

    それは遠い先の話か 

    すぐ目の前の現実か。

     

    いや。すでに 

    終わってないとも限らない。

     

    それを認めるか否かの問題に過ぎぬかも。

     

    気持ちに従い、無理しても 

    どうせ得より損ばかり。

     

    まあ、そんなもんだ。

    諦めろ。

     

     

    さて、終わったは終わったとして  

    次に何を始めよか。

    Comment

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
RSS
k
k