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  • 天才の世界

    2016/03/31

    変な話

    彼は天才と呼ばれていた。

     

    彼は自分の妻を天才の妻と呼び 

    自分の息子と娘を天才の息子、天才の娘と呼び 

    自分の両親を天才の父、天才の母と呼んでいた。

     

     

    クルマを運転できる人は天才ドライバーと呼ばれ 

    事故を起こすと「さすが天才は過激だ」などと褒められた。

     

    道を歩いている人は天才歩行者と呼ばれ 

    転倒すると「さすが天才らしい失敗だ」などと感心された。

     

    横断歩道で寝ている人は天才睡眠者と呼ばれ 

    クルマに轢かれて死ぬと「さすが天才らしい最期だ」などと喜ばれた。

     

     

    哲学者ソックリデスが語った数々の話の中に 

    有名な「非天才の天才」がある。

     

    「私は自分が天才でないことを知っている。

     

     私は世間で天才と評判の多くの人たちと会って話をした。 

     すると、彼らの誰ひとりとして天才でないことがわかった。

     

     ところが、彼らは自分が天才でないことがわかっていない。

     私は考えた。

     

     私も彼らも天才ではない。

     しかし、自分が天才でないことをわかっているのは私だけだ。

     

     ゆえに、私は彼らよりいくらか天才なのだ」

     

    そもそも哲学をする人は誰でも天才なので 

    ソックリデスは今でも天才哲学者と呼ばれている。

     

     

    これが天才の世界である。

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  • 白痴の世界

    2016/03/30

    変な話

    彼はウマウマと呼ばれていた。

     

    彼は自分の妻をウマウマと呼び 

    自分の息子と娘をウマウマ、ウマウマと呼び 

    自分の両親をウマウマ、ウマウマと呼んでいた。

     

     

    「ウマウマ」

    「ウマウマ」

     

    「ウマウマウマウマウマウマ」

    「ウマウマウマウマ、ウマウマウマウマ」

     

    「ウマウマ?」

    「ウマウマウマウマ」

     

    「ウマウマ!」

    「ウマウマ」

     

    「ウマウマウマウマ」

    「ウマウマ」

     

    「ウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマ」

    「ウマウマウマウマ」

     

    「ウマウマ・・・・」

     

     

    これが白痴の世界である。

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  • 不良の世界

    2016/03/19

    変な話

    彼は不良と呼ばれていた。

     

    彼は自分の妻を不良女房と呼び 

    自分の息子と娘を不良のガキ、不良のスケと呼び 

    自分の両親を不良おやじ、不良おふくろと呼んでいた。

     

     

    派出所の警察官は不良おまわりと呼ばれ 

    総理大臣は不良首相と呼ばれ 

    一般人は不良市民とか不良国民とか呼ばれていた。

     

    学校には不良教師と不良学生がいて 

    繁華街にはフリョーボーイとフリョーガールがいた。

     

    書店には不良作家の書いた不良文学が並び 

    不良文学少年少女たちが立ち読みをしていた。

     

    『不良失格』

    『不良の証明』

    『限りなく不良に近い不良』

    『フリョウの森』

    『容疑者Xの不良』

    『百年の不良』

    『フ・リョー・コード』

     

    すべてが不良なら不良と呼ぶ意味ないにもかかわらず 

    誰もがなんでもかんでも不良と呼んでいた。

     

     

    これが不良の世界である。

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  • 妖怪大全

    2016/03/18

    怖い話

    図書館から借りた水木しげる「日本妖怪大全」を眺めて気づいた。

    なんでも妖怪の仕業、神仏の祟りで説明できちゃうんだ。

     

     

    ボケ憑き 

    いじめ憑き 

    ひきこもり憑き 

     

    妖怪うっかり 

    妖怪なりすまし 

    妖怪歩きスマホ 

     

    スパムコメント 

    ピンポンダッシュ 

    モンスターペアレント 

     

    少子高齢化の祟り 

    温室効果ガスの祟り 

    選挙の投票しない祟り 

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  • 美術館

    2016/03/17

    変な話

    放課後の校舎、美術室にて 

    美術部の部員たちが絵を描いている。

     

    モデルはブルータスだかなんだかの石膏胸像。

    ただし、そのままの単純な構図では創作意欲が湧かない。

     

    そのため、全員による協議の末、副部長の意見が採用されて 

    1年生女子と抱き合わせの形にロープで縛って床に転がしてある。

     

    吹奏楽部のもの悲しい演奏が 

    音符の形状をして開け放たれた窓から流れ込む。

     

    同じ窓から夕陽も差し 

    ブルータスだかなんだかの胸像の頬を赤らめる。

     

    顧問の女教師は眠気と闘うべきか妥協すべきか悩んでいる。

    「あたし、本当はね、アニメーターになりたかったの」

     

    旧体育館から稽古中の剣道部の気合いが聞こえる。

    新体育館からはバスケット部の試合の声援。

     

    「先生、こんな感じでどうでしょう」

    正直なところ、よくわからない。

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  • 耳からウニ

    2016/03/15

    愉快な話

    耳からウニが出てきた。

     

    膿ではない。馬でもない。

    鬼でもなければ国でもない。

     

    ましてや富士の高嶺に降るウンコでは決してあり得ない。

    (もっともウニの身の方なので似てなくもない)

     

    そういう意味ではウニ程度で済んだことに感謝すべきだろう。

     

    何が言いたいのかと言うと、何も言えない。

    なにしろ口から季節はずれな梅の花とウグイスが生えてきた。

     

    「なんだなんだ」

    口の代わりに鼻が喋り出した。

     

    「わからんわからん」

    枕もとの目覚まし時計まで返事をする。

     

    痴呆老人のように眠ってる場合ではない。

    左耳から出たウニが頭頂部を這って右耳に入ろうとする。

     

    礼儀知らずなウニを手で押さえようとしたら足が出た。

    しかもタコの足、なぜなら八本ある。

     

    蛍光灯スタンドがお辞儀をする。

    「失礼いたしました」

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  • 袋の鼠

    2016/03/14

    切ない話

     

    飼っていた鼠を一匹、紙袋に入れたまま 

    駐輪場の自転車の前カゴの中に置き忘れてしまった。

     

    曇りか、まだしも雪でも降れば良かったのだろう。

    真冬に晴れたものだから、昨夜はひどく冷え込んだ。

     

    翌朝、紙袋の中で、鼠は凍死していた。

     

    もうカチカチで、完全に凍っていた。

    丸くなって、陶器の置物みたいだった。

     

     

    どうして逃げようとしなかったんだろう。

     

    こんな紙袋、破るのは簡単なはずなのに。

    普段なら段ボールだって穴あけちゃうくせに。

     

     

    もし僕が鼠の立場だったら、どうだろう。

     

    紙袋の中で、ひとりぼっち。

    いくら待っても誰も来てくれない。

     

    すっかり忘れられてしまったらしい。

     

    ものすごく寒い。

    寒くてしかたない。

     

     

    そうだ。

    やっぱり寒かったからだ。

     

    こんな薄っぺらな紙袋の中でも 

    外にいるより寒くない。

     

    袋の中の鼠には袋がとてもありがたく感じられて 

    とても破ることができなかったんだ。

     

    あまりにも寒すぎたから、昨夜は。

    それで逃げようともしなかったんだ、きっと。

     

    どこにも逃げるところがなかったんだ。

    それで、そのまま凍え死んだんだ。

     

    こんな誰もいない寂しいところに 

    うっかり僕が置き忘れてしまったものだから。

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  • 押しかけ女房

    2016/03/13

    愉快な話

    玄関チャイムが鳴った。

     

    訪問セールスなら断るつもりで、ドア越しに尋ねる。

    「なんでしょうか?」

     

    「押しかけ女房です」

    若い女の声。

     

    聞き違いかと思い、ドアスコープから覗く。

    逆光でよく見えない。

     

    ドアを開ける。

    なかなかの美人が立っていた。

     

    「おはようございます。わたくし

     強制婚姻協会から派遣されました押しかけ女房でございます」

     

    「はあ」

    返事に困る。

     

    「お宅様のご都合もおありだとは重々承知しておりますが

     なにしろ押しかけ女房ですので

     断られましても入らせていただきます」

     

    そのまま女は私を押しのけ、ハイヒールを脱ぎ 

    強引に家宅不法侵入してしまった。

     

    「なんですか、いったい、あなたは」

    私は戸惑いつつも怒鳴る。

     

    「だから、押しかけ女房よ」

    女は態度だけでなく、口調までぞんざいになった。

     

    「まあ、これはまた随分と散らかしてるわね。

     まず最初にすべき家事は部屋の掃除だわ」

     

    女はさっさと部屋の掃除を済ますと 

    引き続き台所で料理を始める。

     

    気の弱い私はオロオロするばかりである。

     

    手料理は久しぶりで、驚くほどおいしく 

    褒めない代わりに文句も言わず一緒に食べる。

     

    その間、根掘り葉掘り尋問されて 

    すっかり個人情報を引き出されてしまった。

     

    さらに洗濯もしてもらい、便器も浴槽も磨いてもらい 

    一緒に風呂に入って背中まで洗ってもらった頃には

    もう今さら「出て行け」とは言えない状況に陥っていた。 

     

    「ねえ、あなた。そろそろ寝ましょうよ」

    「う、うん。そうだな」

     

    でも、まあいいか。

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  • 予告ホームラン

    2016/03/12

    愉快な話

    おれはバッターボックスに立った。

     

    2ストライク。

    ピッチャーを睨みつける。

     

    そろそろ予告しておくか。

     

    おもむろに右手を腰に当てると 

    おれは左腕をゆっくり伸ばし、バットの先で 

    外野観覧席の最上段の辺りを威厳を持ってさし示す。

     

    観衆からの歓声と怒声の嵐。

    いわゆる予告ホームランである。

     

    なに、深い意味はない。

    ちょっとした「メークドラマ」のつもり。

     

    怒りをあらわにする若いピッチャー。

    まあ、無理もない。

     

    とりあえず、病床の幼いファンに約束した 

    ということにしておくか。

     

    振りかぶってピッチャーが投げた。

    おれは迷わずバットを振る。

     

    鋭い打撃音と確かな感触。

     

    打った瞬間にわかった。

    予告ホームランの達成だ、と。

     

     

    そこで目が覚めた。

    おれはタンカに乗せられ、運ばれていた。

     

    どうもピッチャーを怒らせ過ぎたらしい。

     

    おれはデッドボールをまともに顔面に受け 

    失神したまま幸せな夢を見ていたのであった。

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  • 魚の降る日

    2016/03/11

    愉快な話

    今日は魚が降っている。

     

    メダカほどの小魚がほとんどだが 

    たまにタイやヒラメ、カツオなんかも降ってくる。

     

    庭に出て、池に落ちたサンマを三尾ほど拾う。

     

    地面に落ちたやつより損傷が少ない。

    それに、丸ごと煮るだけのサンマ料理なら簡単だ。

     

    とりあえず水道水でよく洗ってから 

    大型冷蔵庫に保管する。

     

    滅多にスーパーで買い物しないのに 

    冷蔵庫の中は満杯だ。

     

    先月降った豚の一部が 

    まだ冷凍室にたくさん残っている。

     

    もう肉類は十分だから 

    そろそろ野菜とか降らないかな。

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