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2012/02/06
えてして穏やかな日に事件は起こる。
まるで退屈を紛らわすかのように・・・・
発端は119番通報だった。
「江戸川にね、変なもんが流れてるんですよ」
川から引き上げられたそれは、確かに変なものだった。
死体には違いないが、人間や獣のそれとは違う。
あえてどうしても言わなければならないとすれば
とりあえず「宇宙人の死体」であろう。
なぜなら死体の首らしき部位に名札が下がっていて
それには「宇宙人の死体」と油性ペンで書いてあった。
その名札は、担当の警察官がふざけて下げたのではなく
川から引き上げた時から付いていたのだと言う。
すると、江戸川の上流で何者かによって遺棄される前に
そいつによって下げられたのだろうか。
その後、その不審死体の司法解剖がなされたのか
そして真相が究明されたのか、続報はない。
死体が消えてしまったという噂もある。
あまりにも穏やかな日の出来事だったので、あるいは
罪のない冗談で済まそうとしているのかもしれない。
2012/02/05
あんたは死刑囚。
目隠しされ、杭に縛られ、
標的ですよ、と言わんばかり。
この俺は死刑執行人。
制服を着て、ライフル銃を持ち、
撃ちますよ、と言わんばかり。
あんたに恨みはないが、
これが俺の仕事だから、勘弁してくれ。
普通は三人ぐらい執行人がいてよ、
恨みや罪悪感やら分散させるもんだが、
財政赤字なんで、俺ひとりが精一杯なんだと。
情けねえ話だが、あんたもあんただよ。
まったく、犯罪なんか儲からねえのによ。
まあ、財政赤字だから犯罪も増えるんだけどな。
どうも、気が乗らねえな。
あんたを殺したって、なんにも変わらねえよ。
あんた、この国の一番偉い人、殺しちゃったけど、
結局、なんにも変わってないんだもんな。
2012/02/04
三丁目の児童公園には子どもがいない。
この場所で子どもの失踪事件が続いたため
「ここで遊んではいけません」
と親や教師が指導するからだ。
「おれ、ジャングルジムでね、
ケンジと一緒に遊んでたんだよ」
近所の子、マモル君が教えてくれた。
「そしたらね、ケンジの奴、急にいなくなったんだ」
他の失踪した子どもの場合も同様である。
ジャングルジムで遊んでいたところを
最後に目撃されている。
見ているうちに消えた、という証言さえある。
「金属パイプの通路をくぐって、そのまま消えた」
と言うのだ。
子どもの言うことなので
もちろん鵜呑みにはできない。
だが、無視するには事件があまりに異常すぎる。
私は刑事でもなんでもない一般人だが、
同じ町内の住人として気になって調べているのだ。
周囲に誰もいないのを確認しながら
私は問題のジャングルジムに近づいた。
なんの変哲もない。
普通のジャングルジムにしか見えない。
塗装された金属パイプをつかんで側面を登り、
ジャングルジムの頂上に立ってみた。
そんなに高くもない。
児童公園に隣接して電力会社の変電所が見える。
見上げると、頭上に高圧電線が通っている。
気にはなるが、事件に関係あるとは思えない。
変電所の反対側には、新興宗教の建物がある。
信者が急増し、教祖が人間ではない、と話題だ。
怪しいと言えば、じつに怪しい。
怪しいと言えば、私だって十分に怪しいけれど・・・・・・
一旦地面に降りて、周囲を見まわす。
やはり誰もいない。
別に問題になることはないと思うが、
近所の人に見られたら困る。
いい大人がこんなところで、恥ずかしい。
ジャングルジム最下段の端にある
正方形ふたつ分の長方形の入り口から中に入ってみる。
通路は狭いが、小柄な私なら通れないことはない。
(そうそう。こんな感じだったな)
遠い昔、子どもの頃の懐かしい感覚がよみがえる。
目を閉じる。
忘れていた記憶。
田舎の小学校のグラウンドにもジャングルジムがあった。
立体の迷路で、確かにジャングルの中みたいだった。
(ジャングルジムとは、うまい命名だな)
いまさらながら感心する。
目を開くと、あたりは薄暗かった。
なぜか鬱蒼と茂った木々に囲まれている。
私の手は、金属パイプではなく、木の枝をつかんでいた。
暑い。とんでもなく蒸し暑かった。
そして、奇妙な鳥の鳴き声が聞こえるのだった。
(ここは、まさか・・・・・・)
その時、私は信じられないものを見た。
頭上から垂れ下がる大蛇と
まともに目が合ってしまったのだ。
「おじさん、助けてー!」
ケンジ君の声がした。
2012/02/03
私たちが臨海学校で滞在していた某県の海岸に
某国の原子力潜水艦が唐突に座礁した。
海水アレルギー体質なので
私は海に入ることができない。
それでも皆と一緒に夏休みを過ごしたくて
この臨海学校に参加した。
だから、私は海岸沿いにあるプールで泳いでいた。
というか、プールサイドで日光浴をしていた。
生意気にもサングラスなんかして
デッキチェアーで脚組んで。
かたわらにジュースのグラスはなかったけど
いっぱしのレディーのつもりだった。
残念ながら、地味なスクール水着なんだけどね。
それで、座礁した原子力潜水艦の話なんだけど
あれ、なかなか大胆なポーズだったよ。
そうとう勢いよく突っ込んだんだろうね。
グッと艦首が海面から突き出していた。
私、巨大で真っ黒な蛹(さなぎ)を連想しちゃった。
あれの背中と言うのかなんと言うのか
ピリピリ割れて、巨大な黒いアゲハチョウが出てくる。
ゆっくりと優雅に黒く美しい翅を広げ
やがて、潮風に乗って羽ばたき、大空を低く舞う。
放射能たっぷりの鱗粉が雪のように町に降ってくる。
某国のアジテーション用の宣伝ビラなんかも
いくらか混ざってるかもしれない。
その光景は、きっと死ぬほど綺麗に違いない。
そんなことを夢見ているうちに
西日は傾き、集合の時間になってしまった。
ふん、なにさ。
いつか私だって蝶になってやるんだから。
2012/02/02
「小春日和」とは、晩秋から初冬にかけて
移動性高気圧に覆われた時などの温暖な天候のこと。
「小春」とは陰暦10月。
現在の太陽暦では11月頃に相当し、
この頃の陽気が春に似ているため。
英語なら、“indian summer”が近い。
「インド人の夏」ではなく、「インディアンの夏」。
語源は諸説あり、次の説が一番おもしろい。
アメリカ開拓時代、インディアンは
夏に植民者を襲撃することが多かった。
寒くなると、その頻度が少なくなるので
まあ比較的、穏やかに過ごせる。
ところが暖かい日が続いてしまうと
また襲撃される心配をしなければならない。
植民者たちは、いまいましさを込め、
それを“indian summer”と呼んだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「インディアン、嘘吐かない」
その老人は言う。
「白人、嘘吐く」
私も言う。
「日本人、嘘吐いたり吐かなかったり」
すると、老人は怒る。
「それ、一番タチ悪い」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
さて、ここでクイズです!
あなたは死にました。
目の前に二つの門があります。
ひとつが天国の門、もうひとつが地獄の門。
ただし、あなたには見分けられません。
門の前には三人の門番。
それぞれ、正直者、嘘吐き、いい加減な門番。
ただし、あなたには見分けられません。
門番は、誰が誰で、どちらがどの門か知ってます。
門番は、「はい」「いいえ」以外では答えてくれません。
「はい」「いいえ」と明確に返事できない質問には、
正直者と嘘吐きは沈黙します。
いい加減な門番は、どんな質問にも
いい加減に「はい」「いいえ」で答えます。
あなたは、門番たちに二回だけ質問できます。
ただし、質問は個別にしかできません。
さてさて、どのような質問をどのようにすれば、
あなたは無事に天国へ辿り着くことができるでしょう?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【ヒント1】
以下、独力で解答したい方は読まないでください。
門番が正直者と嘘吐きの二人だけの場合なら、
一方の門を示し、
「相方の門番に『こちらが天国の門か?』と尋ねたら、
相方は『はい』と答えるか?」
と一方の門番に質問します。
その返事は、嘘を正直に言うか、正直に嘘を吐くか、
いずれにしても必ず嘘になるので、
「はい」なら、示した反対が天国の門、
「いいえ」なら、示した方こそ天国の門になります。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【ヒント2】
以下、独力で解答したい方は読まないでください。
いい加減な門番の返事を
正直者または嘘吐きに問うと、
「はい」「いいえ」の答えでは
正直にも嘘にもならないため、
明確な返事ができません。
なので、沈黙するしかありません。
この沈黙のあるなしによって、
いい加減な門番が絞り込まれます。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【答え】
こちら!
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2012/02/01
「ねえ、おまえ」
私のことである。
「これ、欲しいの?」
私は首を縦に振る。
「ダメよ。おあずけ」
私は激しく首を横に振る。
「そんなに欲しいの?」
私は激しく首を縦に振る。
「どうしようかな」
私は身悶える。
「それじゃ、ちょっとだけよ」
私は息を荒げる。
「あせらないで」
私はヨダレを垂らす。
「しょうがないわね」
私は転げまわる。
「はい。どうぞ」
私は踊りかかる。
「ああ。ダメよ」
私は腰を振る。
「まあ。すごい」
私はもっと激しく腰を振る。
「ちょっと待って」
私はようやく気づく。
「これをつけなくちゃ」
私はそれをつける。
「さあ。続けて」
私はそれを続ける。
「ああ。上手よ」
私は悩ましく踊る。
「とても似合ってるわ」
お気に入りの腰ミノつけて。