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2013/01/05
友人が落ち込んでいた。
「どうしたの?」
「おれには才能がないんだ」
「そうかな」
「まわりは才能ある奴ばっかりだ」
「それはそうだね」
「もう情けなくってさ」
「でも、君だって才能あるよ」
「ないって」
「いや。あるって」
「どんな才能が?」
「ええと、ほら、他人の才能を引き出す才能」
「ああ。なるほど」
「なかなかのもんだよ」
「そうかな」
「そうさ。立派な才能だよ」
「まあ、才能と言えば、才能かな」
「でもさ」
「なんだよ」
「それって、ちょっとさびしくない?」
友人は黙ってしまった。
2013/01/04
ゲンブリオ山脈を越えた者は
いまだかつていない。
例外としては
特殊な渡り鳥くらいだろう。
この渡り鳥は
上昇気流を上手に使う。
らせん状に旋回しながら
とんでもない高度にまで達する。
上昇気流の助けがなければ越せないのだ。
しかも、一年に一回のチャンスしかない。
それを逃がしたら渡れない。
死んでしまう。
まさに必死のゲンブリオ山脈越えなのだ。
たとえ必死になっても
私には越せない。
高くて、大きくて
険しくて、苦しくて
見上げるだけで呆れ返ってしまう。
もう私なんか
見上げてすぐに諦めてしまった。
それでも私は
ゲンブリオ山脈が大好きだ。
あんまり大きすぎて
抱きしめられないのが
とても残念だ。
2013/01/02
雪国で独り暮らしの老人が殺された。
つららを凶器とする殺人事件だった。
「刺さっとるな」
「んだ。刺さっとる」
隣家の村長と近所に住む駐在の会話である。
「屋根から下がってたつららが落ちたんだな」
「んだ。そんでその真下に寝てた」
「寄り合いで、えらく酔ってたもんなあ」
「んだ。酒が弱いくせに飲むのは好きだで」
「事故だな」
「んだ。事故だ」
「でも、事故じゃつまんねえな」
「んだ。村おこしになんねえ」
「話題性が必要だんべ」
「んだ。雪国つらら殺人事件とかな」
こうして証拠品として落ちたつららは没収され、
それを落とした屋根は駐在に逮捕された。
さて、それからどうなったかと言うと
しばらくは世間の話題になったようだが
さすがに村おこしとまではならなかったようだ。
2013/01/02
ねえ、神様。
もしも
巨大な流れ星が
もの凄いスピードで
まっすぐ自分に向かって
落ちてくるのを
たった今
気づいたとしたとしたら
「ここに落ちないで
途中で消えてください」
という
願い事を
しかも三回も
唱えられるものでしょうか?