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    Works 3,356
  • 遥かなる空

    2012/01/11

    切ない話

    私は囚人。
    今、独房の中にいる。

    昔から囚人で、これからも囚人だろう。

    どんな罪を犯したのか
    もう忘れてしまった。


    独房は殺風景な部屋。

    寝台があり、
    便器があるばかり。

    唯一の扉には監視窓と受け渡し口がある。

    定期的に監視され、
    飲食物を手渡される。


    扉の向かい側の壁には
    鉄格子の嵌った小さな窓がある。

    そこから切り分けられた小さな空が見える。


    あの空を飛ぶことはもうできそうもない。

    けれども、目を閉じて見える空なら
    飛ぶことができる。

    飛行機を操縦するか、鳥になればいい。

    どんなに高く飛んでも平気だ。
    滑空も急旋回も自由自在。


    たとえ旅客機に乗って空を飛んでいても

    座席で眠っていたら
    飛んでないのと同じ。

    たとえ独房に囚われ、
    寝台の上で目を閉じていても

    鳥になって空を飛ぶ気分になれたら
    飛んでるのと同じ。


    ああ。
    そうなのだけれど・・・・・・

    あまりにも遠く、
    遥かなる空。
     

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  • 目覚めの季節

    2012/01/10

    変な話

    春になって気候も暖かくなった。

    すると、冬眠から覚めたばかりの蛇が
    彼女の腹からウジャウジャ這い出てきた。

    「うわーっ! 凄いね、これ。何匹いるの?」

    そんな無邪気な質問に答える余裕などない。

    爬虫類ぎらいの俺は
    テーブルの上にあわてて避難した。

    「おい。なんとかしてくれよ」
    「んなこと言ったって、出てきちゃうんだもん」

    ところが、冬眠明けは蛇だけではなかった。

    彼女の腹のどこに潜んでいたのだろう?
    クマまで出てきた。

    クマは寝ぼけて
    俺ごとテーブルを引っくり返した。

    朝食の皿やカップやスプーンと一緒に
    俺の体は蛇だらけの床にぶちまけられてしまった。

    その打撲の痛みを感じている余裕はない。

    さらに彼女の腹から
    もっと大きなものが出ようとしているのが見えた。

    まだ出てくる途中ではあるが
    想像するに

    あれはきっと
    恐竜の足ではないかと思う。
     

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    • Tome館長

      2013/04/10 15:51

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/02/21 18:33

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 流れ星

    2012/01/09

    変な話

    ぼんやり夜空を見上げていたら  
    天の川が流れていることに気づいた。

    本物の川の水のように  
    星が天の川を流れているのが見えるのだ。

    「大変! 銀河系が狂っちゃった」


    天の川は銀河系内の星の集団。

    北斗七星やオリオン座など  
    銀河系外の星は所定の位置から動いていない。

    ということは、銀河系だけ勝手に動いてることになる。
    しかも、物理学的に非常識なスピードで。

    「・・・・信じられない」

    とんでもないことが宇宙で起こっている。
    寒さのせいもあるが、体が震えてきた。

    「あっ!」
    天の川が決壊した。

    天空から降り注ぐ 
    光り輝く滝のような流れ星。
     

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  • お使いの帰り

    お使いの帰りに寄り道して
    すっかり遅くなってしまった。


    母さんから頼まれたお使いは

    隣の村の本家の家まで行って
    約束のものを預かって戻ること。

    その約束のものは風呂敷に包まれてるから
    決して中を覗いてはいけないよ、とのこと。

    そんなこと言われたら絶対に
    中を覗かないと気が済まなくなることくらい

    どうして大人はわかんないのかな。


    あたいは村の境の橋の上で風呂敷包みを開け、
    その中身を見てしまった。

    それで死ぬほど驚いて橋から転げ落ちて
    そのまま川に流されて

    ちょっとばかり気を失ったけど、
    すぐに目がさめて土手に這い上がった。

    けれども、風呂敷の中身は川に流されてしまって

    ああ、あんなものは流された方がいいんだ。
    誰も見てはなんねえもんだ、と思って

    あたいはその辺の畑のナスとかキュウリとか千切って
    濡れた風呂敷に包んで誤魔化すことにしたんだ。


    だけど、こんなに帰りの時刻が遅くなって
    両手で持ってる風呂敷包みも重たくって

    あたい、なんだかもう家に帰りたくない。
     

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  • お昼寝

    お昼寝をしていたら

    あたりが真っ青になって

    お部屋の窓を開けたら

    おうちが空を飛んでいたので

    あたしはびっくりして

    よろめいたり転がったりしなから

    なんとか玄関まで歩いて

    とびらを開いてみたら

    庭に変なおじさんがいて

    変なダンスをおどっていたので

    あたしはこわくなって

    いそいでお部屋にもどって

    どうしようもないので

    お昼寝の続きをしました。


    おしまい。
     

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    • Tome館長

      2013/04/10 15:54

      「広報まいさか」舞坂うさもさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/02/19 15:37

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • クラリオン星の友人

    クラリオン星の友人が地球にやって来た。

    「やあ。久しぶり」
    「会いたかったよ。元気そうだね」


    クラリオン星は五次元世界の惑星なのだそうだ。
    太陽を挟んで地球と点対称の独立した軌道をとっている。

    太陽が邪魔して、地球から見ることはできない。


    クラリオン星人の外見は、ほとんど地球人と変わらない。
    ただ、地球人よりほんのちょっと進化しているらしい。

    偉そうな学者たちがそう言うのだから 
    とりあえず信じてあげてもいいかな、と僕は思っている。


    「最近、そっちで流行ってるゲームはなんだい?」
    「そうだね、地球侵略モノかな」

    「流行ってる食べ物は?」
    「地球人の踊り喰い」

    「ははは。冗談きついな」
    「まあね。ほんのクラリオン・ジョークさ」


    彼・・・・と言っても、半霊半物質体で両性具有なんだけど 
    その彼を観光案内したり、一緒に食事したり寝たりして 
    僕はできるだけもてなしてやった。


    彼がクラリオン星に帰る日が来た。

    「また、いつでもおいでよね」
    「ありがとう。楽しかったよ」

    僕は彼に手を振った。
    彼は僕に足を振った。

    僕たちは笑った。


    なに、ほんのちょっとしたクラリオン・ジョークさ。
     

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  • 暖簾のある歯医者

    2012/01/05

    愉快な話

    「ごめんください」
    「へい。いらっしゃい」

    「歯の治療を受けたいのですが」
    「こちら、カウンター席にどうぞ」

    「あの、もしかして、ここ、寿司屋ですか?」
    「まさか。ご冗談を」

    「歯医者さんですよね」
    「見てわかりませんか?」

    「ええ。ちょっと、あんまり」
    「とりあえず、なにから握りますか?」

    「やっぱり寿司屋さん?」
    「いやだな、お客さん。違いますって」

    「あっ。どこ握ってるんですか」
    「失礼しました。つい癖で」

    「歯を見てくださいよ」
    「では、アーンして」

    「アーン」
    「なるほど。これが歯ですか」

    「あれふ」
    「まさしく歯ですね」

    「あにふるんれふあ?」
    「なにするって、歯の治療ですよ」

    「あんれふあ? ほれあ」
    「なんですって、刺身包丁ですけど」

    「あああああ」
    「活きがいいですね」

    「うぐ、うげ、うご」
    「はい。お口直しをしてください」

    「がらがらがら、ペッ!」
    「お客さん。うがいをしてはいけませんね」

    「これ、お茶ですけど」
    「醤油にしましょうか?」

    「いやいや。そういう問題ではなくて」
    「お勘定にしますか?」

    「そうですね。ぜひ、そうしてください」
    「ワサビは付けますか?」

    「いりません」
    「暖簾に腕押しですね」

    「意味わかんないんですけど」
    「毎度ありがとうございました」
     

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  • おとなしい人

    2012/01/04

    愉快な話

    普段おとなしい人が怒ると怖い、という。


    怒り慣れてないくせに
    我慢の限界を超えて無理に怒るものだから

    つい羽目をはずしてしまうのだろう。


    うちのお父さんが怒った時は

    ひとりで黙って家を出て
    かなり遠くにある川原まで行って
    大きな石ころをいくつも拾ってきて

    それを転がしも放り投げもせず
    私の部屋の床にそっと並べるように置いて

    裏返った声の変なアクセントで私に言ったのだ。


    「おまえ、いい加減にしろよ」



    うん。確かに怖いものはあった。
     

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  • おしまい

    2012/01/03

    変な話

    おしまいだった。

    突然、なんの前触れもなく
    終わってしまった。

    「なんだなんだ?」
    「いったい、どうなってんの?」

    皆の混乱と動揺が伝わってくる。

    それはそうであろう。
    無理もない。

    「この先は?」
    「続きがあるはずだ」

    ところが、先もなければ続きもないのだった。
    完璧におしまいだった。

    「冗談じゃない!」
    「ふざけるな!」

    いくら罵声を浴びようとも
    ないものは仕方ない。

    「しかし・・・・・・」
    「あっ、待っ・・・・・・」

    ついに、声まで途切れてしまった。

    そういうふうにして世界は




     

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  • 手をつないで

    2012/01/02

    切ない話

    ひとりでは怖いけど
    ふたりなら、そんなに怖くない。

    僕たちは互いに手と手をつなぎ、
    一緒に森の奥へ奥へと分け入ったのだ。


    昼なお暗き魔物の棲み家。
    夜こそ深き謎の迷宮。


    数々の冒険の末、
    僕たちは伝説の光る石を見つけた。

    でも、その石はひとつだけ。
    それを与えられるのも、ひとりだけ。


    光る石はふたつに割れない。

    でも僕たちは、もともとふたつ。
    いつまでもひとつのままではいられない。


    僕たちは目と目を合わせ、
    つないだ手と手を離した。

    すると僕たちは僕と君とになり、
    ふたりはもう敵同士。


    剣が舞い、楯が鳴る。

    息が切れ、血が流れ、
    憎しみ生まれ、愛が消える。


    そうして僕は
    君を永遠に失ったのだ。


    墓は建てぬ。
    涙もいらぬ。

    光る石は手に入れた。

    さあ、呪われた森を出よう。


    君がいなくて
    ひとりぼっちで怖いけど。
     

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