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2012/12/16
イヌが一匹、
街中を歩いていた。
あっちへ行ったり、
こっちへ来たり。
飼い主の姿は見えない。
なんとも挙動不審。
迷っているみたい。
あっ、なにか見つけたのかな。
すごいスピードで走り出した。
あぶない。
壁にぶつかる!
と思ったら
壁に吸い込まれた。
信じられない。
イヌが消えてしまった。
その壁には絵が描いてある。
つまり壁画。
いろんな動物の絵。
実物大。
ソウやキリンの絵もある。
よく見ると、イヌの絵もあった。
さっきのイヌに似てないこともない。
でも、まさか。
きっと気のせいだ。
おや。
壁画の一部がえぐられている。
なんだろ、これは?
ワニの形に見えなくもないけど・・・
その時だった。
足にするどい痛みが走り、
地面に思いっ切り引き倒されたのは。
2012/12/10
ひなげしの花咲く丘の上、
空高く跳び上がる少女たち。
みんなみんな
頭に風船をつけている。
スカートのすそを押さえながら
花びらみたいに降りてくる。
着地すると、ふたたびジャンプ!
みんなみんな
楽しくてたまらない様子。
さびしそうな少年が
もの欲しそうに見上げていた。
「君も跳びたいのね」
「うん」
やさしい少女がくれた
風船ひとつ。
「怖がらなくていいのよ」
「うん」
風船を胸に抱いて、ジャンプ!
空高く舞い上がる少年。
でも、怯えた表情。
するとやっぱり
上空で風船が割れてしまう。
少年は石ころのように落ちてゆく。
それでもそれでも
丘の上は
やっぱりやっぱり
一面の
一面のひなげしの花。
2012/12/04
去年、
君を突き落とした岬の崖に
今年、
風力発電所が建つという。
波力発電所でなくて
本当に良かった。
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2012/11/27
冬山に銃声がとどろいた。
猟師が鹿を撃ったのだ。
ところが、じつに奇妙なのだ。
倒れていたのは鹿ではなかった。
鹿の皮衣を着た若い女なのだった。
猟師は途方に暮れてしまった。
どうすればいいかわからない。
とりあえず女を担いで自宅に戻った。
独り者なので家には誰もいない。
猟師は女の死体を土間に置いた。
それを忌々しそうに見下ろしながら
腕組みして考える。
(さて、こいつをどうしたものか)
結局、獣のやり方しか知らないのだった。
まず、鹿の皮衣をはぐ。
ゴロリと女の肉体があらわれた。
死んでいるのに生々しい。
なぜか銃弾の跡が見つからないのだった。
次に、猟師は包丁で女の腹を裂いた。
おびただしく溢れる鮮血。
そして、はらわたを手早く抜き取る。
さすがに慣れた手つき。
続いて、鉈で首を切り落とした。
女の生首が土間の端まで転がり、
うらめしそうな顔を猟師に向ける。
さらに、両腕を肩から切断。
両脚も付け根から断ち切った。
流れ出た血で地面が黒く汚れ、
血だまりに猟師の汗がボトボト垂れた。
最後に猟師は、女の肉を鍋で煮て喰った。
(これは、うまい!)
猟師は感心する。
(鹿の肉より、ずっとうまいわい)
やがて、季節は春になった。
雪がとけ、山菜が顔を出し始めた。
猟師の家にも春が訪れた。
ある朝、猟師は体の異変に気がついた。
なにやら頭に生えてきたのだ。
それは、まるで
鹿の角のようにも見えるのだった。
2012/11/19
「休むのは自由だが、今月は休むな」
「ああ、休む予定はねえよ」
「売り上げが足らねえんだからな」
「ああ、わかってるって」
俺は背を向ける。
(ふん。死ぬのも自由だがな)
この上司は中学の同級生だった。
彼と別れ、工場を出る。
やがて、レンガ橋を渡る。
古くて大きな橋なので、その下は暗い。
なんとも言えぬ色の川が流れている。
異臭を放ちながら重く淀み、
巨大なミミズが這っているようにも見える。
川を挟むようにゴミだらけの川原がある。
その上に脚の長い女の子が立っていた。
もっと近くで彼女を見たい、と俺は思った。
レンガ橋を渡ったところで
引き寄せられるように体が傾いた。
土手から転がり落ちて川原に降り立つ。
悩ましいほど柔らかい地面に
鉄板入りの安全靴が埋まる。
ここは堆積した産業廃棄物の川原なのだ。
今まで気づかなかったが
たくさんの子どもが遊んでいた。
さっきの女の子と目が合う。
きれいなはずの顔が崩れていた。
工場地帯に多い奇形児だった。
それでもなぜか、とても美しいと思った。
彼女の近くへ行きたい。
そのためには川を越えなければならない。
少し離れたところに川のY字路があり、
そこは違法廃棄物で埋まっている。
なんとか反対側まで渡れそうだ。
何が面白いのか、俺の真似をして
男の子が背後からついてくる。
その男の子が川に落ちた。
すごい悲鳴をあげて暴れる。
強い酸のために皮膚が溶けるのだ。
誰も助けようとしない。
もちろん、俺もだ。
それにしても、聞き覚えのある悲鳴。
この男の子も中学の同級生だった。
2012/10/23
「絆(きずな)」とは本来、犬や馬が逃げぬよう
立木などにつないでおく綱のこと。
しがらみ、呪縛、束縛を意味していた。
人と人との結びつきや支え合いを指すようになったのは
比較的近年のことである。
「すまんがの、死んでくれんかな」
「・・・・もう無理だかね」
「んだ。飯がねえだよ」
「・・・・はあ、しょうがねえだな」
「申しわけねえだ」
1802年 10億人
1927年 20億人
1961年 30億人
1971年 40億人
1987年 50億人
1998年 60億人
2011年 70億人
2050年までに世界人口は
90億人を超えるものと予想されている。
しかし、その前に
世界各地で大小の紛争が起こらぬはずはあるまい。
2012/10/20
星を煮ていたら、戦争が始まった。
いわゆる世界大戦の勃発だ。
核兵器や生物兵器まで使ってやがる。
やれやれ、物騒なことになった。
とりあえず、火力をあげる。
煮崩れるが、まあ仕方ない。
だから煮星料理は苦手だ。
いっそ焼き星にするのだったな。
2012/10/10
俺は、しがない探偵だ。
男を尾行している。
浮気の調査だ。
久しぶりの仕事である。
しかも、かなりおいしい。
ターゲットは世界的な大企業の会長。
その会長夫人からの依頼なのだ。
男の浮気現場を押さえることができれば
服も買ってやれない俺の婚約者に
なんとか結婚指輪を買ってやれるのだ。
俺にはもったいないほどの美人。
まったく彼女には苦労かけさせてしまった。
俺が喰わせてもらってるようなものだ。
だが、それも今夜まで。
さあ、早く来い。
じらすんじゃない。
来た!
浮気相手の女が現れた。
かなり若い女だ。
くそっ。
金持ちどもときたら。
慎重にカメラのシャッターを切る。
やった!
ざまあみろ。
やれやれ、やっとこれで結婚できるぞ。
それにしても、いい女だな。
あっ、彼女!
・・・・・・俺の婚約者だ。
2012/09/29
誰かと一緒だったような気がする。
あの夜、ひとりではなかったはずだ。
空腹でもないのに食堂に入った。
かなり酔っていたらしい。
「美女の舌びらめのムニエルをくれ」
ほんの冗談のつもりだった。
美しいウェイトレスだったから。
「はい。かしこまりました」
なぜか笑ってもらえなかった。
しばらくして運ばれてきたそれは
なんとも奇妙な料理だった。
ウェイトレスの顔は蒼ざめていた。
片手で口もとを押さえているのは
吐き気をこらえているのだろうか。
さすがに心配になってきた。
「あんた、大丈夫か?」
その娘は必死で首を振るのだった。
しっかりと口もとを押さえたまま。
2012/09/04
執行人に綱を引かれ、俺は進み出た。
刑場の観衆は待ちくたびれていた。
眼前には二本の柱が直立している。
見上げると刃先が斜めに垂れている。
むんずと首穴に頭を押し込まれ、
うつ伏せのまま架台に縛られた。
鼻先には編み籠が置かれてある。
処刑の準備は整ったわけだ。
「この者、血も涙もない凶悪犯にして・・・・・・」
俺に関する美辞麗句が語られる。
牧師が十字を切り、執行人が紐を引く。
真下に刃が落ち、俺の首は切り落とされた。
瞬間、観衆が悲鳴と歓声をあげる。
切断された首の断面から俺は覗いてみた。
白髪の頭が編み籠の中に落ちている。
使い捨てたような老人の頭部。
俺は新しい頭を首の穴から突き出してみた。
奇妙な表情の観衆の顔が見えるのだった。