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2013/04/05
一冊のスケッチブックを買った。
それが、そもそもの始まりだった。
普通の白い画用紙だけでなくて
さまざまな色付きの画用紙があるもの。
いわゆるカラースケッチブックだった。
折り紙セットを大きくしたような感じ。
で、これにペン画など描いてみた。
そのうち、画用紙をハサミで切り抜き、
台紙に貼り合わせて遊び始めた。
つまり、色紙による切り貼り絵である。
幼稚な印象を与えるけれど、やってみると
これがなかなか楽しいのだ。
適当に切った色紙を童ね合わせてみる。
メリハリのある色と形の組合せによって
斬新なデザインが簡単に生成される。
好きな色紙を好きな形に切った後、
それらを重ね合わせながら、貼る直前まで
配置バランスの調整ができるのも長所だ。
貼り付けには両面テープを使った。
糊よりは修正が楽だし、手が汚れにくい。
定規とカッターは、穴の部分と
見えない部分を除いて使わなかった。
あのハサミ特有のぎこちないラインが
視覚に心地好いはず、と考えたからだ。
指で裂いて切る方法も面白そうだが、
全体の統一感や細部表現が難しい。
それに、山下清の亜流になりそうだ。
なかなか傑作ではなかろうか
と自画自賛できるものも数点できた。
しかし、それで止めておけば良かったのだ。
つい調子に乗り、色画用紙だけでなく、
チラシや新聞や雑誌の切り抜きとか
革の切れ端、布切れ、商品パッケージなど
色々なものを画材に使い始めた。
「コラージュ」とでも言うのだろうか。
摘んだ雑草、切った髪の毛の束、
外国硬貨や外国紙幣なども貼った。
さすがに両面テープだけでは無理があり、
糊や瞬間接着剤も使うようになった。
湿気た海苔、噛みかけのガム、
踏まれて潰れた甲虫の死骸まで貼った。
こうなると画用紙の上では固定しにくい。
ピンや画鋲でも留められるように
ベニヤ板を土台に用いるようになった。
この段階で止めたら、まだ救われたのだ。
ところが、もう止められなくなっていた。
切り貼り絵の虜になっていたのだ。
読んで気持ち悪くなるだろうから
あまり詳しく書くつもりはない。
包丁やノコギリで画材を切るようになった。
釘やネジ、さらにヒモや針金を用いて
厚い木の板に貼りつけるようになった。
鼻が悪いのてあまり気にならなかったが
アトリエとして使っていた部屋が
近所に異臭を放つまでになっていたようだ。
そして、とうとう許されない領域にまで
いつの間にか踏み込んでいたのだった。
記録的に暑かったあの夏の日、あの昼下がり、
近所の学習塾に通うおさげ髪の女の子を
待ち伏せして誘拐してしまったのは
つまり、そういうわけなのだ。
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2013/04/01
私は探していた。
太くて丈夫そうな木を。
そして、とうとう見つけた。
これはまた、随分と背が高い。
枝ぶりも立派だ。
登りたいくらいだ。
無理だろうな。
もっと若かったら・・・・
おや、誰か登っているぞ。
あんなところまで。
まるで猿みたいだ。
小さな子猿。
「やーい。ここまでおいで」
「のぼれっこないわ。いじわる!」
泣き虫の女の子が見上げている。
・・・・ああ、そうだ。
あれは、いつのことであったか。
まぶしい。
見上げれば、遠く青い空。
私は握りしめる。
手頃な太さと長さのロープを
震える両手で。
2013/03/23
やんなっちゃうよ、まったく。
彼女、耳たぶ噛みながら囁くんだぜ。
「欲しいの。その目玉くり披いて」
もう、とんでもない話だよな。
たまらんぜ、まったく。
それで、おれ、
こんなに目が不自由なのさ。
それから彼女、おれの胸毛、
一本ずつ抜きながら囁くんだぜ。
「この手で心臓に触れてみたいわ」
へっ、畜生!
もう、まいちゃうよな。
ほら、だからなのさ。
おれ、ひどく顔色悪いだろ。
2013/03/14
その女は過ちを三回繰り返す。
三回恋をして、三回デートした。
三回性交して、三回失神した。
三回妊娠して、三回堕胎した。
三回騙されて、三回殺した。
三回自首して、三回脱獄した。
三回発狂して、三回自殺した。
この三回目の自殺は成就された。
彼女が偉いのは四回目がない事。
なかなかできる事じゃない。
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2013/02/28
前の大統領は革命軍に拉致され
今の大統領によって銃殺された。
その今の大統領にしても
やがて反乱軍によって拉致され
次の大統領によって銃殺される
と、予想されている。
それはさておき
当面の問題は政治なんかではない。
昨日の朝、飼い犬が死んでしまった。
突然だった。
信じられなかった。
自慢の愛犬だった。
愛犬コンテストで優勝したこともある。
残念でしたない。
泣かずにいられない。
だが、悲しんでばかりもいられない。
きれいに化粧してやらねばならないのだ。
なにしろ
亡犬コンテストは明日なのだから。
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2013/02/25
急に雨が降ってきた。
窓辺で雨音を聴いていると
見知らぬ女が軒下に駆け込んできた。
雨宿りだな、と思った。
庭も垣根もなく、軒下があるだけ。
雨宿りに都合いいのだ。
「お嬢さん、家の中に入りませんか」
窓から首を出し、誘ってみた。
若い女は笑顔でこたえた。
「いいえ、結構です」
そうだろうな、と思った。
世の中そんなに甘くない。
「では、これを使いなさい」
雨傘を差し出してやった。
「あとで返してもらえばいいから」
女は雨傘を受け取ってくれた。
「すみません。ありがとうございます」
なかなか素直な性格ではないか。
「明日、必ず返します」
「いつでも結構ですよ」
その雨傘を差し、若い女は立ち去った。
でも、おそらく彼女、返してくれないだろうな。
自爆装置付きの雨傘なんか。
2013/02/14
ネズミがネコに恋をした。
ネズミはネコの前に出て
「ボク、アナタが好きです」
愛を告白した。
「あら嬉しいわ」
ネコは喜び
「アタシも、キミが好きよ」
ネコはネズミに近寄ると
ニッコリ微笑み
そのまんま
食べちゃった。
2013/01/26
長女は花壇に植えて失敗したから
次女は鉢植えで育てることにした。
花壇育ちは世間ずれして手に余る。
ペチャクチャお喋りでうるさい。
今どきの派手な花を無闇に咲かせる。
そのうち、こっそり根を抜いて
辺りを歩きまわったりする。
ろくでもない野草どもと付き合う。
こうなってはおしまいだ。
その点、鉢植えなら心配ない。
なにかと世話は掛かるが覚悟の上だ。
おかげで次女は素直に育っている。
やや背丈は低いが、鉢植えだから仕方ない。
いたって無口、大人しい性格。
流行を追うでなく
目立たない地味な花を少しだけつける。
ちょっと風が吹くと
いかにも頼りなげに揺れる。
そんな鉢植えの娘の姿を眺めていると
なんとなく心がなごむ。
こうしていつまでも
ベランダに飾っておくつもりだ。
どこにもやらず
そのうち枯れてしまうまで。
2013/01/02
雪国で独り暮らしの老人が殺された。
つららを凶器とする殺人事件だった。
「刺さっとるな」
「んだ。刺さっとる」
隣家の村長と近所に住む駐在の会話である。
「屋根から下がってたつららが落ちたんだな」
「んだ。そんでその真下に寝てた」
「寄り合いで、えらく酔ってたもんなあ」
「んだ。酒が弱いくせに飲むのは好きだで」
「事故だな」
「んだ。事故だ」
「でも、事故じゃつまんねえな」
「んだ。村おこしになんねえ」
「話題性が必要だんべ」
「んだ。雪国つらら殺人事件とかな」
こうして証拠品として落ちたつららは没収され、
それを落とした屋根は駐在に逮捕された。
さて、それからどうなったかと言うと
しばらくは世間の話題になったようだが
さすがに村おこしとまではならなかったようだ。
2012/12/24
痛い、痛い。
歯が痛む。
痛くて痛くて、眠れない。
とうとう虫歯になっちゃった。
いつも口を開けて
寝ていたからだ。
奥歯に虫の卵
産みつけられたのだ。
産卵管のやたら長い寄生虫。
ハウミバチとかいう
寄生蜂に違いない。
その卵が孵化したのだ。
無数の幼虫、
モゾモゾ蠢いてやがる。
内部をガリガリ
齧ってやがる。
痛い、痛い。
痛くて痛くて
我慢できない。
死にそうだ、
幼虫は
脱皮しながら大きくなる。
やがてサナギになり、
成虫となり、
奥歯に大きな穴開けて
外にブンブン出てくるのだ。
その成虫がやがて
また別の歯に産卵するのだ。
増殖しつつ
繰り返すのだ。
ああ、ああ、
たまらんな。
たまらんなったら
たまらんな。