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2013/09/03
どこから入って来るのだろう。
いくら調べてもわからないが
なぜか家の中に虫がいるのである。
それも、うんざりするほどいる。
窓から外へ捨てても
指先やスリッパでつぷしても
それこそ息苦しくなるくらい
殺虫剤を撒き散らしても
いつの問にか家の中が
虫だらけになっているのである。
虫が食べるのか、部屋の柱が細くなり、
床板は曲がり、歩くといやな音を立てる。
家が傾き、窓やドアが開かなくなり、
壁に穴があき、服が破られ、噛みつかれる。
だから、夜中に娘が泣いていたりする。
今朝など、死ぬほど驚いた。
あまりの不快感に目を覚ますと
口の中に虫が巣を作っていたのだった。
2013/08/30
その鏡を見ると罪が許される、と言う。
これまでのすべての罪が許される、と。
そんな免罪の鏡を手に入れた。
でも、自分で見るのは怖い。
まず死刑囚に見せることにした。
選ばれたのは極悪非道の人非人。
暴行、詐欺、強盗、誘拐、殺人、テロ、
悪いことならなんでもやってる。
しかも、まるで反省の色がない。
こんな男を誰が許せよう。
たとえ神様であろうと許せまい。
さっそく免罪の鏡を見せてみた。
すると男は突然、狂っだように叫び、
看守を殴り倒し、私に跳びかかってきた。
あえなく私は床に倒された。
男は、もの凄い力で私の首を絞める。
わけがわからない。
ただただ苦しいだけだ。
死刑囚は右手で私の首を絞めながら
左手で私に鏡を見せるのだった。
そこには偽らざる私自身が映っていた。
その罪業のあまりに深きこと。
(彼の罪を許そう)
私は、薄れゆく意識の中で
そう思った。
2013/08/11
ふたりの侍が街道で出会った。
「お主。できるな」
「できる。貴様こそ」
ともに刀を抜いた。
「斬らねばならぬ」
「斬れるものならば」
じりじり詰まる間合い。
「毛ほどの隙もない」
「まさに修行の賜物」
同時に抜身を鞘におさめた。
「お互い、命拾いでござるな」
「うむ。再び会うまでわあああ」
「わあああああ」
不意に暴れ馬があらわれ、
どちらの侍も蹴られて絶命した。
2013/07/12
殺人事件が発生した。
殺されたのは憶病な富豪。
現場は完全な密室であった。
窓はなく、地下深く、
幾重もの金属とセラッミックスの扉。
すべて内鍵が掛けられてあった。
壁は厚く、隙間もなかった。
通気口すらない。
自殺でも事故でもなかった。
死因は酸素欠乏。
あまりにも完全な密室だったのだ。
酸素供給システムもない。
ひたすら丈夫なだけ。
殺意のあった核シェルター。
ただし、誰も捜査に来ないけど。
2013/06/29
ある男がある女に惚れた。
だが、
女にはすでに恋人がいた。
「ふん。それがどうした」
男は女の恋人を殺し、
血に汚れた手のまま
力ずくで女を抱いた。
それがよく見える位置に
見開かれた眼の
恋人の生首を置いて。
「どうだ、悔しかろうが」
男は幾度も幾度も女を抱いた。
女は狂ったように泣き、
男は狂ったように笑った。
歯噛みもできぬ生首の
そのまぬけな
まぬけな顔。
2013/06/20
観衆は血を望んでいる。
だから闘技場の土は黒い。
闘いの相手は女であった。
奇妙な仮面をかぷっている。
そして、ほとんど裸だ。
殺すのは惜しいと思った。
だが、殺されるわけにはいかない。
開始早々、女の剣を奪う。
乳房をつかんで放り投げる。
地面に押し倒し、股を裂く。
弱い。
あまりにも弱すぎる。
なぜ観衆は怒らないのだ。
いやな予感がした。
女の仮面をはがしてみる。
やはり、そうであった。
奴らは知っていたのだ。
この女が俺の妹だということを。
2013/05/20
水槽の中、尾びれを振って泳いでいる。
エラ呼吸なんかして、ほとんど魚だ。
水槽の外では好奇な眼が光っている。
ゴクリと喉を鳴らす人々の気配を
ガラス越しに感じることさえできる。
人魚の泳ぐ姿が珍しいのだろう。
なにしろ伝説の生き物なのだから。
こちらもまだ慣れてないので
尾びれを横に振るべきか縦に振るべきか
迷ってしまって交互に振ったりする。
それにしても、情けない話だ。
死にぞこないの老人を殺しただけで
まさか人魚にされるとは思わなかった。
死刑か生体実験か、選択を迫られ、
つい生体実験を選んだ結果がこれだ。
手術のあと、麻酔から醒めた瞬間、
天国は水中にあったのか
と驚いてしまった。
「気分はどうかね」
ガラス越しに問いかけてくる。
返事くらいしてやろう。
「そんなに悪くない」
おお、という喚声。
こちらからの声も水槽の外に伝わるのだ。
水中マイクでも仕掛けてあるのだろう。
「なにかして欲しいことはあるかね」
いい質問だ。
おれは言ってやった。
「やっぱ、死刑にしてくれ」
2013/05/18
「いっそ、私を殺して」
「それなら、一緒に死のう」
若い男女が心中することになった。
理由は問題ではなかった。
場所が問題であった。
「海がいいわ」
夢見るような女の瞳。
「いや。山がいい」
酔ったような男の頬。
結局、意見は合わなかった。
それでも、ふたりは心中した。
女は海で。
男は山で。
それを心中と呼べるかどうか、は
ともかく。
2013/05/11
死なせ屋は、殺し屋ではない。
死にたがっている客を
望み通りに死なせてやるのが商売だ。
だから、本当に死ぬべきかどうか
客の相談にのってやったりもする。
死ぬのを思いとどまらせたら
とりあえず相談料だけいただく。
これでも結構な収入になるのだ。
死ぬ前に客の望みを叶えてやるのも
死なせ屋の仕事のひとつ。
たとえば、死にたい理由が失恋なら
その失恋相手の調査や分析、
関係者の買収や状況操作、そして企画提案。
場合によっては
その相手を誘拐してやったりさえする。
死ぬ前に望みが叶ってしまうと
やはり死にたくなくなる客も多い。
そんな客に高額な費用を請求をすると
結局、また死にたくなったりする。
つまり、死なせ屋の商売のコツは
死なさず生かさず、だな。
2013/05/10
てるてる坊主
晴れ祈願として
軒先に下げる、あれ。
首吊りにしか見えないんですけど。
ふれふれ坊主
雨祈願として
逆さに下げる、あれ。
拷問にしか見えないんですけど。