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2016/06/16
お后様、お許しください。
卑しき奴隷の身で失礼いたします。
美しいお后様のたおやかなる寝姿を見下ろすとは
奴隷として言語道断でございます。
しかしながら、お后様。
たった今、麗しくお目覚めになられましたお后様。
すでに国王陛下はお亡くなりになられました。
つまり、暗殺されたのです。
忌まわしき我ら奴隷どもの反乱によって。
ええ、そうです。
この卑しき奴隷の手が王位を奪ったのです。
ですから、お后様。
おそれ多くも賢くも、お后様。
もはやお后様はお后様ではありません。
立場が変わってしまったのです。
まもなく奴隷として辱められることでしょう。
かつて奴隷だった者の手によって。
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2016/06/14
裏隣りの家の屋根の上にやたらと鳩が多い。
鳴き声がうるさく、糞の被害も心配なので
ともかくその家へ問い合わせてみた。
すると、餌を与えたり、飼っているわけではなく
なぜ集まるのか不思議であり、困っているとのこと。
調べてみたら、原因は自宅を含むマンションにあった。
4階にある空室のベランダが野鳩の巣になっていたのだ。
いかん。このままにしてはおけない。
早急に対応してもらうため
自主管理組合の理事長としてオーナーへ連絡した。
ところが、困った返事。
以前はオーナーの息子さんが住んでいたそうだが
その友人に貸したらゴミ屋敷にされてしまったとのこと。
まったく手のつけようがないほどに。
定期排水管清掃の時期に鍵を預かって室内に入ったら
それはそれは、じつに信じられない光景。
とにかく、どこもかしこもゴミ袋だらけ。
ゴミ入りポリ袋の白き峡谷の底を恐る恐る歩く感じ。
敷きっぱなしの布団の上もゴミだらけ。
まさに寝る場所もない(そりゃ出ていくわ)。
六畳の洋間はゴミ袋だけで背の高さまで完全に埋まっていた。
ゴミ箱ならぬ、ゴミ部屋である(アホか)。
キッチンの床は濡れ、落ちていた硬貨が錆びていた。
なぜ? なぜ、ここまで・・・・
住人は地元の医科大学歯学部の学生だったそうである。
こんな歯科医に治療されたら、ゴミ歯だらけにされそう。
排水管清掃の女性作業員が言う。
「以前、女の人で、もっとひどいゴミ屋敷ありましたよ」
結局、オーナーは業者に頼んでゴミを処分し
業者に頼んで室内を修繕し、業者に頼んで転売してしまった。
このオーナーも夫婦そろって歯科医であった。
息子さんも、おそらく歯科医になられたことであろう。
近頃はコンビニより多いくらい増えて儲からなくなった
と噂される歯科医、おそるるべし。
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2016/06/06
女王様は怒っておられます。
それはもう大変な剣幕でございます。
すでに大臣の首が三つも飛びました。
まったくもって情け容赦ございません。
先ほど、女王様の激しい怒りのために
城の南の胸壁が崩れ落ちました。
もう誰にも女王様を止められません。
このままでは王国の壊滅です。
何を怒っていらっしゃるのか
お心当たりはございませんか?
聞こえていらっしゃいますよね、王様?
まさか寝たふりとかしてませんよね?
どうか、あの恐ろしい女王様を
なんとかしてくださいませ。
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2016/06/05
ある時、ある地点で、竜巻が生まれた。
はじめ、ほんの小さなつむじ風だった。
それがだんだん大きくなり
とうとう竜巻と呼べるほどになった。
竜巻は、もう夢中でぐるぐるまわった。
まわることが楽しくてしかたがない。
どんなことでもできるような気がして
独楽こまのようにまわりながら旅に出た。
もう誰にも竜巻を止められない。
途中、なんでもかんでも飲み込んだ。
枯れ葉、棒切れ、石ころ、子犬、
芝刈り機も自転車もオートバイも
人もクルマも家さえも
みんなみんな巻き上げた。
それこそ情け容赦なく
墓石も棺桶も骸骨も空に舞うのだった。
竜巻は、ビー玉と宝石を区別しなかった。
性別や年齢や美醜で人間を区別しなかった。
恋愛中でも食事中でも遠慮なし。
結婚式だろうが葬式だろうが関係なし。
道徳や宗教や法律なんか知りもしない。
ただもう気まぐれに暴れまわるだけ。
悲鳴も叫びも祈りも聞こえず
聞こえていたって気にするもんか。
さすがに暴れ疲れたか、満足したか
やがて竜巻は、天に昇って消えてしまった。
その深く鋭い爪痕を
大地と人の心にくっきり残して。
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2016/05/01
彼女が言うのだ。
「叩いてよ」
脈略のない彼女のことでもあり
なんとなく叩きたい気分でもあったので
俺はためらわずに彼女の頬へ平手打ちをくれてやった。
大きな音と衝撃があったにもかかわらず彼女は言う。
「もっと強く」
さすがに今度は俺もためらう。
彼女は涙目になり、その頬は赤い。
しかし、ここでやさしさを装ってはならない。
そういうありきたりな流れは俺がもっともきらうところのものだ。
二度目の平手打ちで崩れるように彼女は床に倒れた。
ちょっと強く叩き過ぎたかもしれない。
よろめきながらもなんとか立ち上がった彼女の唇は切れ
形のよいあごの先からポタポタと血が垂れた。
「今度はあたしに叩かせてよ」
やや発音の悪くなった彼女の声。
「いいよ」
断る理由は見つからない。
「目を閉じて」
思い詰めたように彼女は言う。
俺は素直に目を閉じる。
彼女が部屋を出て、台所の戸棚を開ける音がして
すぐに戻ってくる足音がする。
見えない俺の目の前に彼女が立つ。
「叩くよ」
彼女の荒い息づかいが聞こえる。
歯を喰いしばっている関係で俺は首だけ振る。
(俺、そんなに何か悪いことしたっけ?)
それから・・・・
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2016/04/30
さっきまでふぶいていた。
まさにすさまじい吹雪だった。
激しくて、冷たくて、死にそうだった。
でも、今はもう穏やかで暖かい。
さっきまでの苦痛が嘘のようだ。
冬山の天候は変わりやすい。
ようやく前進することができる。
いままで吹雪のために動けなかったのだ。
だけど、なんだか眠くなってきた。
そういえば、ほとんど眠っていないのだ。
ここまで随分がんばってきたから。
少し休んだ方がいいかもしれない。
そうだ。少しだけ休もう。
ああ、気持ちいい。
暖かくて頬に気持ちいい。
こんなに雪が暖かいとは知らなかった。
風もなんだか暖かい。
雪が混じっているからだな。
いや、待てよ。
雪混じりの風なら吹雪ではないか。
そうか。まだ吹雪はやんでなかったのか。
そのかわり暖かくなっていたんだ。
なるほど。そうだったんだ。
どうして気がつかなかったんだろう。
ああ、やっぱり疲れているんだな。
もう少し暖まったら立ち上がろう。
立ち上がったら頂上を目指すんだ。
それまで体を暖めておこう。
もう少し。もうちょっとだけ・・・・
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2016/02/07
朝から冷たい雨が降っていた。
橋の下から出る気になれなかった。
まだ新聞紙や段ボールに包まれていたかった。
腹の虫がうるさく鳴いていた。
もう土手の草は食いたくなかった。
ノラ猫でもやってこないものか。
「おじさん。なにやってるの?」
女の子だ。
赤い長靴、赤いスカート。
水玉の雨傘をクルクルまわしてる。
「いいことしてるんだよ、お嬢ちゃん」
「どんないいこと?」
「それは秘密だ、お嬢ちゃん」
「いや。教えて教えて」
「それじゃ、こっちへおいで、お嬢ちゃん」
「うん」
それはともかく
たまらなく腹が減っていた。
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2016/01/27
だんだん臭いがひどくなってきた。
鼻は鈍感な方だが、それでも耐え難い。
歩道に寝転ぶ人々の姿が目につく。
水を撒かれているのに平気で眠っている。
ひとりの男の腕に大きな醜い傷があった。
腐っているらしく蠅がたかっている。
あるいは死体かもしれない。
まさに異臭通りだ。
しゃがんで通行人を見上げる老婆。
あやしげなものを食べている子ども。
汚れて破れた服の少女が不自然に笑っている。
それとも、自然に泣けないのだろうか。
なにか踏んでも怖くて確認できない。
大便や小動物の死体ならまだしも
手首や胎児が落ちていることもあるそうだ。
ますます臭いがひどくなってきた。
臭気が目にしみて、通りが霞んで見える。
めまいさえしてきた。
しかし、立ち止まってはいけない。
そのまま歩道にしゃがみそうになるから。
この通りに飲み込まれてしまったら
もうおしまいだ。
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2016/01/11
おれは新聞記者だ。
環境汚染やゴミ問題を扱いながら
新聞を売ることでゴミを増やしている。
うしろめたい気持ちでいっぱいだ。
今、おれは自動車整備工場の敷地にいて
ぼんやりタバコなんかふかしている。
白い煙が青空に消えるのを眺めている。
つまり、仕事でなくても空気を汚しているわけだ。
ちょっとやり切れない気分。
人声がして、立派な服を着た団体が現れた。
国内有数の自動車メーカーの方々である。
額の禿げあがった工場長に挨拶している。
こんな零細な自動車整備工場の工場長に
世界的に有名な社長が頭を下げている。
やはり何かありそうか気がする。
記事のネタになりそうな匂いがするのだ。
やがて話がついて、団体が立ち去ろうとする。
彼らにインタビューすべきか、おれは迷った。
その時、それは起こったのである。
整備工場の敷地から近所のビルの工事現場が眺められる。
鉄骨を組んでいる最中なので、不安定に見える。
新聞を売ったり、自動車を作ったり、ビルを築いたり
人々は色々なことをしているわけだ。
その工事中のビルの頂上から何かが落ちた。
昼頃だから、人夫の弁当箱だったかもしれない。
落下の途中、それが鉄骨か何かに当たり
かなりの音を立てて周囲に響き渡った。
新聞記者らしくない考えのような気もするが
落ちたのが人間でなくて本当に良かった。
続いて小さな建築資材らしきものが落ちた。
さらに、あまり大きくない資材がバラバラ落ちた。
それで終わりかと思ったら
しばらくして頂上の鉄骨が一本はずれて落ちた。
ものすごい音がした。
人夫たちの叫び声があがった。
あるいは誰かにぶつかったのかもしれない。
頂上付近に人が集まる様子が見える。
すると、かれらの体重のせいなのか
その足場の鉄骨がはずれ、載っていた人もろとも落下した。
とんでもない事故。
あの高さからではまず助からない。
国内有数の自動車メーカーの社長は
この光景をしっかり見ているのであろうか。
そんな考えが頭のどこかに浮かんだが
おれはビルの惨状から視線をそらすことができない。
人夫たちが集まり、その重みで鉄骨がはずれ
そのまま人夫もろとも落下する。
その単調なパターンの繰り返し。
おれの目の前で工事中のビルが崩れてゆく。
まるでオモチャというか、ほとんどマンガだった。
積み木の城みたいだ、とおれは思った。
それなのに、工事中で崩落中のビルの向こう側は
あいかわらず青空なのだった。
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2015/12/26
成長促進剤やら添加物の影響で成長異常児や奇形児が増えている
という噂である。
しかし問題は、それらを放任したままにしておく当事者の
精神の異常であり、奇形であろう。
などということを考えていたら
窓の外が騒がしい。
共同ごみ置き場のごみの出し方がひどい
とのこと。
やれやれ。
身近にも徘徊していたか。
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