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2012/01/07
お昼寝をしていたら
あたりが真っ青になって
お部屋の窓を開けたら
おうちが空を飛んでいたので
あたしはびっくりして
よろめいたり転がったりしなから
なんとか玄関まで歩いて
とびらを開いてみたら
庭に変なおじさんがいて
変なダンスをおどっていたので
あたしはこわくなって
いそいでお部屋にもどって
どうしようもないので
お昼寝の続きをしました。
おしまい。
2012/01/06
クラリオン星の友人が地球にやって来た。
「やあ。久しぶり」
「会いたかったよ。元気そうだね」
クラリオン星は五次元世界の惑星なのだそうだ。
太陽を挟んで地球と点対称の独立した軌道をとっている。
太陽が邪魔して、地球から見ることはできない。
クラリオン星人の外見は、ほとんど地球人と変わらない。
ただ、地球人よりほんのちょっと進化しているらしい。
偉そうな学者たちがそう言うのだから
とりあえず信じてあげてもいいかな、と僕は思っている。
「最近、そっちで流行ってるゲームはなんだい?」
「そうだね、地球侵略モノかな」
「流行ってる食べ物は?」
「地球人の踊り喰い」
「ははは。冗談きついな」
「まあね。ほんのクラリオン・ジョークさ」
彼・・・・と言っても、半霊半物質体で両性具有なんだけど
その彼を観光案内したり、一緒に食事したり寝たりして
僕はできるだけもてなしてやった。
彼がクラリオン星に帰る日が来た。
「また、いつでもおいでよね」
「ありがとう。楽しかったよ」
僕は彼に手を振った。
彼は僕に足を振った。
僕たちは笑った。
なに、ほんのちょっとしたクラリオン・ジョークさ。
2011/12/10
病室の窓から
大きなイチョウの木が見える。
窓辺に座ってスケッチブックを開き、
鉛筆で写生を始める。
太い幹を描く。
細い枝を描く。
一枚一枚、葉を描く。
それから水彩絵の具で彩色する。
幹を塗る。
枝を塗る。
一枚一枚、葉を塗る。
まだ秋になったばかりなので、葉は緑色。
そのうち秋が深まると、葉は黄色。
やがて冬になり、葉は散る。
最後の一枚を彩色する前に
最後の一葉が散ってしまった。
だから、
スケッチブックのイチョウの木は
下の葉は緑色で
途中から黄緑色になり、
上の葉は黄色に塗られていて
最後の一葉は
白いまま。
2011/12/06
砂浜は漂流物に覆われ
異臭が漂っていた。
海原は赤茶けた色に染まり
けだるげに淀んでいた。
波打ち際に
父親とその息子らしき姿があった。
男の子がつぶやく。
「この海、もうダメだね」
男がこたえる。
「ああ、もうダメだな」
「でも、海は広いよね」
「ああ、広いな」
「この海とは別の海ともつながってるんでしょ」
「ああ、つながってるはずだ」
「ということは、全部の海がダメなの?」
「ああ、そうらしいな」
男の子は黙ってしまう。
男がコートのポケットから瓶を取り出す。
それがいつものウイスキーの瓶でないことに
男の子は気づく。
「なにそれ?」
「なんだと思う?」
「お酒?」
「おれはもう、酒はやめたよ」
「じゃ、なんなの?」
「これはな、汚れたものをきれいにする薬さ」
「・・・・・・」
「本当だって」
「洗剤?」
「洗剤じゃない。触媒って言うんだ」
「薬局から盗んできたの?」
「まさか。おれが作ったのさ」
「それ、どうするの?」
「こうする」
男は栓を抜くと、そのまま瓶を海に投げ捨てた。
すると、瓶が落ちたところから見る見る海面が輝き
その金色の光が波紋のように広がってゆくのだった。
「わあーっ、まぶしい!」
男の子が叫ぶ。
しばらくすると、その光はドーナツ状の光の輪となり
内側が輝きを消すと、青い海面が残された。
「どうだ、すごいだろ?」
「すっごーい!」
「あれ作るの、苦労したんだ」
「ウソみたい」
男の子は海原と男の顔を交互に見比べる。
「さあ、用は済んだ。帰るぞ」
「えっ? あれ、どうなるの?」
「あの光の輪がどこまでも広がってゆくばかりさ」
「それじゃ、海がきれいになるの?」
「ああ、全部の海がきれいになる」
「すっごーい!」
「海だけじゃないぞ。
海の蒸気が雲になって、雨が降れば、地面だってきれいになる」
「わーっ、すっごーい!」
「ただしな」
「うん」
「人間もきれいになるんだ」
「美人とかハンサムに?」
「違う、違う」
「いい人になるの?」
「まさか・・・・いや、そういうことかな」
「ねえ、どうなるの?」
「つまりな、人間から汚れを消すとな」
「うん」
「生きていけなくなるのさ」
「・・・・・・」
男の子は海を振り返る。
青い海原の向こう、金色の水平線が輝いていた。
2011/11/08
草の葉の上で
てんとう虫があぶら虫を食べている。
あぶら虫は泣きながら訴える。
「なぜ私を食べるのですか?」
でも、てんとう虫は返事をしない。
(尻からでなく、頭から食うんだった)
そんなことを考えている。
草の葉の裏側では
クモのおばさんが編み物をしている。
美しいチョウの羽が編み込んである。
じつに器用なものだ。
「娘に着せるつもりよ。舞踏会用にね」
あいにく娘さんには会えなかった。
草の葉の下では
地面がキラキラ輝いている。
アリの列が砂金を運んでいるのだ。
こういうのを金脈と呼ぶそうだが、
女王アリの所望かな。
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2011/11/02
花園を背負ったような馬が庭にいる。
飾り立てられ、玄関の前に佇んでいる。
その花園はまばゆいほどに輝き
さる高貴なる令嬢の顔を有している。
やがて、こちらへ馬は歩んでくる。
なぜか、僕のところにやってくる。
おそるおそる手を差し出すと
馬は僕の指を舐め始める。
その太くて長い緑色の舌。
「かわいらしいわね」
馬上の令嬢がお声をかけてくださった。
「ええ。かわいらしいですね」
僕は心にもない返事をする。
むしろ僕は、この馬が怖い。
唾液の多い舐め方も気に入らない。
馬の背から、ひらりと令嬢が飛び降りる。
はしたなくも美しくも
花柄の下着が少しばかり見えてしまった。
「あなたを食べるつもりかしら」
そう言いながら令嬢は僕の髪に花を挿す。
「まさか。それはないでしょう」
どうして僕は正直になれないのだろう。
馬の口から手が抜けないというのに。
2011/10/31
巣穴から子兎が頭を出した。
自慢の長い耳。
どんな音でも聞き分ける。
風のざわめき、鳥のさえずり、猟師の足音。
「くれぐれも罠には気をつけるんだよ」
巣穴の奥から、母兎の声がした。
「もう子どもじゃないよ。
罠なんか平気さ」
子兎は巣穴を飛び出した。
日差しがまぶしい。
元気に山を駆けまわる。
罠を見つけると、小枝を使って壊した。
一日中遊びまわった。
子兎が遊び疲れて帰ってみると、
巣穴が消えていた。
土をかけられ、すっかり埋もれていた。
わけがわからない。
あたりに母兎の姿はなかった。
人間の匂いはない。
母兎の匂いだけ。
「ほらね。罠には気をつけるんだよ」
そんな母兎の声を
聞いたような気がした。
2011/10/14
飼育できる美女は限られております。
血統は重要ですが
絶対ではありません。
美しくあり続けるための
強い意志が求められます。
歪んだ鏡を見せつけられただけで
本当に顔が歪んだ
という事例さえあるのです。
さて、その飼育可能な美女ですが
一般に若いほど飼育しやすいようです。
ただし、美しくても
幼すぎてはいけません。
成長すると醜くなることが
多々あるからです。
初心者なら
専門店で選んでもらえば安心でしょう。
食事は新鮮な餌を生であたえてください。
調理すると
美しさがありきたりになります。
もし夜泣きするようなら
抱いてやりましょう。
噛みつくようなら
平手打ちをくれます。
お尻が適当です。
顔など露出部分はさけてください。
首輪はおすすめできません。
檻などとんでもありません。
拘束する方法では
どんな美女も育ちません。
ただし、
それを望む美女は例外ですが。
2011/10/13
もしもし。
あら、すみません。
私、まちがい電話したみたいね。
本当に、ごめんなさい。
でも、ちょっと待って。
あわてて切らなくてもいいでしょ。
このまま電話の相手をして欲しいの。
もし、そんなに忙しくないのなら。
そう、相手は誰でも良かったの。
ううん、誰でも良いはずないわよね。
あなた、とてもいい声だから。
不思議ね。電話だと簡単に言えるから。
まったく見ず知らずの人なのに。
私、変でしょ。
そうなの。すごく変なの。
私、たった今、人を殺したばかりだから。
そう、殺人。
愛人宅でね、愛人を殺しちゃったの。
頭から血を流して、台所に裸で倒れてるの。
そう、まるでドラマを見てるみたい。
ねっ、笑っちゃうでしょ。
あなた、冗談だと思ってるんでしょ。
どうして黙っちゃうの?
そうよ。あたりまえよ。
こんなの冗談に決まってるじゃない。
怒った? 怒ってない?
単純なのね。純情なのかしら。
あなた、恥ずかしい話はきらい?
あら、残念。
私、好きじゃないの。
そうなの。からかってるの。
怒った? 怒ってない?
私、暇なのかしら。
なかなか忙しいはずなんだけど。
あら、気を使わなくてもいいのよ。
なんといっても、見ず知らずなんだから。
あなたに会ってみたくなっちゃった。
でも、会わない方がいいわよね。
きっと会ってる場合じゃなくなるし。
ううん。こっちの話。
どうも、相手してくれてありがとう。
とっても楽しかったわ。
そうね、みんな冗談だったらいいのにね。
また、まちがったらよろしくね。
じゃあね、バイバイ。
2011/09/27
犬が歩いていたので蹴飛ばしてやった。
けが人がいたので傷口をひろげてやった。
いい女がいたので辱めてやった。
いやな男がいたので痛めつけてやった。
平等だったので差別してやった。
平和だったので戦争を始めてやった。
どんなことでもできるのだった。
やりたいようにやれるのだった。
でも、さすがに不安になってきた。
なぜ、誰も止めようとしないのだろう。
やがて、天使が現われた。
誘惑して堕落させてやった。
続いて、悪魔も現われた。
説教して良心を芽生えさせてやった。
さらに、死神まで現われた。
もちろん死んでもらった。
ついに、創造主が現われた。
はじめからいないことにしてやった。
「あら、笑ってるわ。この子」
どこか遠くで声がした。
とても優しい声だった。