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2012/12/09
行方不明の犬をさがしています。
大きな黒い犬で、名前はクロと言います。
普通の犬よりからだがずっと大きくて
去年、競馬場の近くまで連れていったら
首輪をはずして逃げてしまって
馬を一頭食べてしまったことがあります。
山でひろったときは子犬だったのですが
すぐに熊みたいに大きくなってしまいました。
クロと遊んでいて大ケガをしたお父さんは
「もしかしたらクロは犬ではなくて
ツキノワグマかもしれないぞ」と
病院のベッドの上でうなりながら言ってました。
首のところに白い模様があるからです。
でも僕は、クロはやっぱり犬だと思います。
うまそうにドッグフードを食べるし、
おすわりやチンチンも上手です。
知らない人がクロの顔に手を近づけると
その手にかみついたりします。
きげんがいいと、そのまま首を振ります。
知らない人は悲鳴をあげます。
クロはとても好奇心の強い犬なので
逃げる人がいると追かける癖があります。
だから、もしクロを見つけたら
けっして逃げたりしないでください。
また、慣れない人がクロに近づくときは
風上に立たない方が安全だと思います。
それから、前足の力がとても強いです。
後ろ足で立ち上がったクロが
近所の電信柱を折ったことあります。
クロらしい犬の姿を見つけた方は
おそわれる前に連絡ください。
できるだけ急いで、お願いします。
どうか、よろしくです。
2012/11/16
友だちの家に遊びに行った。
おもちゃの恐竜を見せてもらった。
手のひらサイズ、柔らかなゴム製。
のそのそ歩いたり、ジャンプしたりする。
濡れたものや温かなものが近くにあると
口をすぼめて突いたりもする。
指先を舐めて試してみたら
キツツキみたいに激しく突いてきた。
とてもかわいらしい。
なんだか僕も欲しくなった。
しばらく遊んでから友だちの家を出た。
そのまま近くにある店に入った。
段ボール箱や紙袋などが
床や棚に無造作に置いてある。
あまりおもちゃ屋らしくなかった。
それに売り場はとても狭くて
店員の姿さえ見当たらなかった。
「ごめんください」
そんなふうに声をかけてみると
奥から大人が現れた。
顔のやせた貧相な男だった。
「なんだね?」
「おもちゃの恐竜を探しているんですけど」
店員の男はゆっくりと売り場を見まわす。
「ないね」
やっぱり。
そんな予感がしていたのだ。
気落ちして、その小さな店を出る。
道路を挟んだ向かい側に目をやると
ほとんど真正面に大きな店が建っていた。
それは、いかにもおもちゃ屋らしく見えた。
さっそく店に入ってみると
やはりおもちゃだらけなのだった。
「いらっしゃいませ」
同じ顔のふたりの店員が迎えてくれた。
同じように太っているので双子かもしれない。
すぐにおもちゃの恐竜は見つかった。
透明な袋に入っていて
壁のフックにぶら下がっていた。
手に取る。
柔らかい。
値段も手頃だ。
「この恐竜、ひとつください」
「はい。ありがとうございます」
ふたりの店員は使い方を説明してくれた。
まず洗面器のようなものを持ち出す。
コーヒーみたいな色の液体が入っている。
そこにミルクを連想させる白い液体を注ぐ。
「混合の割合で柔らかさが違うんだよ」
製造方法まで教えてくれるのだった。
さすがに感心してしまった。
友だちみたいに話が盛り上がり、
ふたりは僕に手品まで披露してくれた。
水の入ったグラスにコインを落とすと
コインがはじけてグラスから跳び出すのだ。
僕だって手品なら少々できる。
指先に挟んだ小物を消すやつだ。
グラスに落とす瞬間にコインを消したら
ふたりとも手を叩いて喜んでくれた。
楽しくなってしまう。
ところが、そのとき不意に
手に持っていた透明の袋が跳ね上がった。
中にいるおもちゃの恐竜が暴れ出したのだ。
きっと遊び仲間に加えて欲しいのだろう。
おもちゃの恐竜の体が
むくむく大きくなってゆく。
わざわざ見るまでもない。
それがなぜか僕には
はっきりとわかるのだった。
2012/11/01
森のはずれ、
切り株に腰をかけ、
きこりが休んでいました。
そこへ
木の実を抱えて
リスがやってきました。
「きこりさん、お食事はすみましたか?」
「いいえ、リスさん。まだですが」
「それでは、木の実を食べてくださいな」
いくつか木の実を地面に置くと
そのままリスは走り去りました。
「いやはや。妙なことがあるものだ」
首をかしげながら
きこりは木の実を食べます。
やがて
さっきのリスが
戻ってきました。
「きこりさん、お食事はすみましたか?」
返事はありません。
きこりは消えていました。
帰ってしまったのでしょうか。
不思議そうに
リスは首をかしげます。
きこりが座っていた切り株から
新しい芽が出ていました。
まるで首をかしげたような
その小さな木の芽。
2012/10/26
近所の保育所にブランコがあった。
ふたつ並んだブランコだった。
ところどころ銀色のメッキがはげていた。
ある日の夕方のこと。
小さな女の子がひとり
保育所のブランコでゆれていた。
初めて見る子だった。
白っぽいワンピースに赤い靴。
ちょっとブランコに乗りたかっただけなんだ。
そんな感じに近づいた。
となりのブランコにさっと腰かけて
さりげなくこぎ始める。
小さな水たまりのある地面と
小さな笑顔がゆれる。
「きみ、どこの子?」
えいっ、とブランコから飛びおりた。
それはみごとな着地。
でも、拍手はなかった。
返事もなかった。
ふり返ったら
となりのブランコには誰もいない。
小さな水たまりの近くに
小さな赤い靴が片方あるだけ。
2012/10/17
ひとり、帰り道を急いでいた。
ただし、急いでいた理由は思い出せない。
街灯の配置により、右側が明るく、左側が暗い。
ふと、暗い側を歩いている自分に気づく。
かなり疲れているらしい。
おや、向こうから騒がしい声がする。
ああ、羊だ。
毛並みのそろった羊の群。
ぺちゃくちゃ喋りながら移動している。
「あたし、どうも靴下がうまくはけないのよ」
「なら、はかなきゃいいじゃない」
「だって寒いんだもん」
「あんた、羊毛だけやめてよね」
羊の群がきれいに笑う。
指揮者のいるコーラスみたいに。
でも、なにがおかしいのかよくわからない。
やがて、羊の群は通りすぎてゆく。
ドップラー効果により
メエーメエーと鳴くばかりだ。
ため息が出た。
やはり街灯が暗い。
いまにも切れそうにウインクする電球。
これは本当に帰り道なのだろうか。
だんだん心配になってくる。
2012/10/06
僕はなんだか
飛べそうな予感がする。
ほとんど走るような調子で歩き出すと
前方へ落ちるように傾いた地面から
徐々に足が離れてゆくのがわかる。
飛行機の翼みたいに両腕を横へ拡げ、
両脚をまっすぐ後方へ伸ばしてみる。
落ちもせず
転びもせず
膝を擦りむくこともなく
そのまま地面すれすれに浮いたまま
空中を滑るように
僕は飛ぶ。
地面の傾斜が緩やかになる地点で
まとまった大きな向かい風に乗り上げ
少しずつ少しずつ
確実に上昇を始める。
前進するスピードに衰える気配はなく
さらに昇ってゆくのが
しごく自然なことであるような気がする。
馬鹿みたいに口を開けたまま
地上から見上げるだけの友人たちに
僕は手を振る。
(やつら、きっと泣くほど羨ましがるぞ)
広がりつつある大地を見下ろしながら
このままなんにも考えず
鳥みたいに
どこまでもどこまでも
飛んでゆこう
と僕は思う。
2012/09/26
難しいことを易しく言えない人は
易しいことまで難しく言う。
もし今、恋愛したい気分なら
ただ退屈しているだけなのかもね。
いかにも冒険らしい冒険ほど
冒険していない冒険もない、と思う。
幽霊が現れたら怖そうだけど
むしろ現れないから怖いのでは。
だからなんだ、と怒鳴られたら
なんでもないです、と謝ろう。
2012/08/31
なんでもないことなんだけど
私は女の子か男の子かよくわからない。
よくわからないまま私は、とりあえず
隣町の女の子だけの学校に通っている。
もうひとり、私の友だちで、やっぱり
女の子か男の子かよくわからない子がいて
その子と私で、どちらか女の子っぽいか
どちらが男の子っぽいかということを
ふたりで競争することになった。
全校生徒の前で私は弁明したのだけれど
なにを話したのか忘れる癖があって
結局つまり、
そういうことになってしまったのだ。
どんな競争をするのか、とっても不安。
すでに内容はしっかり決まっているらしい。
全部で五つのゲームをするのだそうだ。
しかも、今日の放課後、体育館で。
どうしてこうなるのかな。
きっと生徒会とかで決めたんだろうな。
うちの生徒会長が誰なのか知らないけど、
いくらなんでも私でないことだけは確か。
案外、私の競争相手の子かもね。
ああ、いやだな。
いやなことだらけだ。
ゲームは苦手。
わけわかんなくなるんだから。
だって頭、悪いんだもん。
五つもゲームしたら、死んじゃうよ。
面倒くさいから
いっそ死んじゃおうかな。
でも、死ぬのも面倒くさいな。
今日はもう家に帰っちゃって
みんな忘れたことにしようかな。
そうしようかな。
どうしようかな。
ああ、眠い。
ところで、ええと、なんだっけ?
なにを考えていたのか、忘れちゃった。
2012/07/20
寝坊してしまった。
完全に遅刻だ。
宿題もやってない。
また廊下に立たされる。
朝から気分が落ち込む。
空模様まで暗かった。
(学校なんか消えちゃえ!)
心から願った。
重い足どりで登校する。
だが、学校はなかった。
校門も校庭も校舎もない。
教師や生徒たちはいた。
「どうしたの?」
「学校が消えちゃった」
遅刻どころではない。
宿題なんか関係ない。
願いがかなったのだ。
家に帰ることにした。
すると、急に雨が降ってきた。
傘なんか持ってない。
(雨なんか消えちゃえ!)
冗談のつもりだった。
すぐに雨はやんだ。
自分の能力がおそろしい。
なにかを消すことができる。
しかし、それだけ。
もとに戻せない。
あとでニュースで知った。
世界中の学校が消えたことを。
あれから雨は降っていない。
地球上のどこにも。
大変だ。
どうすればいいんだ。
わからない。
わかるはずがない。
(ああ。めんどうくさいことは
みんな消えちゃえ!)
2012/06/24
昔むかし、
あるところに
おじいさんとおばあさんが
いたのですが、
そのうち死んでしまいました。
めでたくなし、めでたくなし。
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【鋭すぎる推理】
「おまえが犯人だ!」
「・・・・・・まだ殺してないんだけど」
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【熱すぎる恋愛】
「好きだ!」
「私もよ。あああ・・・・・・」
焼き鳥の
串とトリ皮。
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【怖すぎる怪談】
おまえは
すでに死んでいる。
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【くだらなすぎる笑い話】
お願い。
笑って。
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【もっと短すぎる昔話】
昔むかし・・・・・・
忘れてしまった。
あほらし、あほらし。
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【もっと鋭すぎる推理】
「本当の犯人は、神だ!」
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【もっと熱すぎる恋愛】
「あああ・・・・・・食べちゃった」
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【もっと怖すぎる怪談】
この宇宙はね、
じつは幽霊なんだよ。
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【もっとくだらなすぎる笑い話】
ちんこ。
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【短すぎる未来話】
未来みらい、
おじいさんもおばあさんも
どこにも
いないのでした。
おそろし、おそろし。
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【さらに短すぎる昔話】
昔むかし、
地球には
人類がいたのですが
もう絶滅してしまいました。
おろかし、おろかし。