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Tome館長

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Tome館長

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    Works 3,356
  • 陶器の犬

    大きな会場である。
    新商品の展示会であろうか。

    コンパニオンが笑顔で説明している。
    「食べるだけで水着が透けます」

    彼女が腕に抱えているのは陶器の犬。
    「さらに、この段階で腰が抜けます」

    画面に表示された折れ線グラフ。

    異国の兵器商人が首をかしげる。
    その折れ曲がったネクタイ。

    「まもなく第三会場が爆発します」
    高い天井から場内放送が響く。

    「なお、場内での浮遊は禁止されております」

    激しい爆音。

    千切れた腕に抱えられたまま
    割れた陶器の犬が吠える。
     

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  • 打ち明け話

    じつはあたし、人形なんです。

    その証拠に、ほら、肘も膝も球体関節。
    顎なんて、生まれたときから外れてるわ。

    背中には扉があって
    おなかには引き出しまであるの。

    頭の中は恥ずかしいもので一杯で
    ときどきこぼれちゃって困っちゃう。

    お洋服はたくさんあるけど
    和服だって少しはあるわ。

    でも、ひとりでは外を歩けなくて

    お付のものに両の足首を持ってもらって
    交互に動かして一歩一歩前に進みます。

    はらわたはないから
    なんにも食べなくていいし、

    なんにも食べないから
    トイレにも行かなくてもいいわけ。

    勉強なんかできなくても
    顔がきれいなら許されるの。

    動かなくても働かなくても
    可愛らしくしていればそれでよいの。

    ねっ?

    人形の生活も
    まんざら悪くないでしょ?
     

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    • Tome館長

      2014/03/27 15:08

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2013/06/17 17:47

      「しゃべりたいむ・・・」かおりさんが朗読してくださいました!

  • いい子でいてね

    僕の家は五人家族。
    お父さん、お母さん、お兄さん、お姉さん、そして僕。


    「いい子にしているんだぞ」
    ある日、お父さんが家を出て行った。

    「いい子にしているのよ」
    ある日、お母さんも家を出て行った。

    「いい子でいろよ」
    ある日、お兄さんも家を出て行った。

    「いい子でいてね」
    ある日、お姉さんも家を出て行った。


    だけど、誰も家に帰って来なかった。
    みんな失踪してしまったのだ。

    僕だけ家に残された。


    警察に捜索願を出したけど、受理されただけ。
    市役所に相談したけど、心配されただけ。

    学校にも通ったけど、勉強しただけ。
    それだけ。


    僕はいい子になって、いい子のままでいた。

    掃除したり、洗濯したり、自炊したり、忙しい毎日。
    挨拶したり、回覧板まわしたり、近所付き合いも忘れない。


    近頃、僕は思うんだ。

    お父さん、お母さん、お兄さん、お姉さんは
    この家を僕に残してくれたのかなって。

    僕がいい子にしていたから。
     

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  • 収集狂の館

    この館の主は収集狂として名高い。

    切手や古銭、宝石や貴金属、書画骨董、
    蝶の標本、化石、ミイラ、下着、拷問道具。

    珍しいもの、貴重なものであれば
    なんでも集めしまう大変人。

    世界中から美男、美女、美童を集めている
    という噂もある。

    とんでもない危険物にも手を出している
    という証言もある。

    媚薬、麻薬、毒薬、細菌、拳銃から核兵器、
    妖精、幽霊、原始人、宇宙人、そして時間の穴。

    とにかく

    入手困難なものであれば
    なんでも見境なく集めてしまうのだ。

    危険極まりない?
    まさに!

    ただし、ご安心あれ。

    なぜなら
    どんな物騒なものでも

    この館の中に入ってしまったら
    もう二度と外に出る事はないのだから。
     

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  • 秘密の集会

    こんな夜遅く、秘密の集会があるという。
    参加せねばなるまい。

    会場は近所の住宅。

    顔見知りの奥さんが出迎えてくれる。
    じつは私の好みのタイプである。

    「遅れてしまい、申しわけありませんか」

    そのように彼女が挨拶するので
    私は次のように挨拶を返す。

    「それは確かに、まあ、そうですね」

    これが集会参加者の合言葉なのだ。

    彼女が微笑む。
    「どうぞ、お上がりください」

    私は靴を脱ぎ、踊るように家に上がる。
    じつは初めて上がる家なのだ。


    耳の長い猫が廊下を歩いていた。
    追いかけて捕まえ、耳にリポンを結ぶ。

    だが、リボンはすぐに外れてしまう。
    手で唇を隠しながら奥さんが笑う。

    廊下に落ちたリボンを私は拾う。

    (はて? このリボン、どこから出たのやら)


    私たちは広い部屋に入る。

    大きな丸いテープルを囲み、
    十人ほどの同士が集まっている。

    ほとんど女性で、ほとんどが美人だ。
    今夜は期待できそうな気がする。

    「それでは、これより集会を始めます」

    同士のひとりが壁のスイッチに触れる。
    たちまち部屋は暗くなる。
     

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  • 猿の笛

    ひなびた山奥で
    ひとり笛を吹いていた。

    鳥のさえずりに調子を合わせ
    そよ風のささやきに旋律をのせ・・・・


    これでも都では、一時期ではあるが
    「笛の名手」と称えられていたものだ。


    やがて吹き疲れ、
    うううんと背伸びをする。

    見上げると、木の上に猿がいた。
    小枝を手に持ち、口にくわえている。

    笛吹く真似をしているらしい。

    「おもしろい。猿に吹けるか」
    木の上の猿に笛を放り投げてやった。

    驚きながらも、猿は笛を受け取った。

    さっそく口に当て、吹く真似をする。
    しぱらくすると、かすかに鳴った。

    「うまい、うまい。なかなか筋がよいぞ」

    夕暮れが近づいたので、山を下りた。


    さてさて。

    あれから、あの笛はどうなったやら。
     

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  • 首 輪

    恋人の首に首輪をつけた。
    あんまり勝手に動きまわるものだから。

    牛革の丈夫な奴。
    鎖でつながっている。

    その鎖の端は僕が握っていて放さない。

    「いやだ、こんなの。はずしてよ」
    「だめだ。はずせば逃げるだろ」

    恋人としての自覚に欠けていると思う。

    いい男を見つけるとすぐに色目を使う。
    犯罪と呼べるほど肌を人目にさらす。

    僕の腕に噛みつくことだってある。
    だから、たまに鞭でこらしめてやる。

    「もっと人間扱いしてよ」
    「うるさい。黙れ」

    わがままな恋人の尻に鞭をくれてやる。
    悩ましい悲鳴があたりに響き渡る。

    まわりの人たちはびっくりする。
    さわやかな朝の散歩が台なしだ。

    「ひどい、ひどいわ。人でなし」
    「なんだと。恋人のくせに」

    もう僕は完全に頭にきてしまった。
    恋人としての自覚がなさ過ぎる。

    よし、決めた。
    思い知らせてやる。

    家に帰っても、朝ご飯は抜きだ。
     

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  • 近所の子

    子どもの頃、女の子と遊んでいた。

    目が大きくて、口が小さくて、髪が長かった。
    見上げる笑顔が可愛らしかった。

    ふたり、色々なことをして遊んだ。
    ただし、いつも家の中に閉じこもって。

    なぜか家の外では遊ばないのだった。

    たとえば色紙で鶴を折って、それを飛ばす。
    そのうち飽きると、その鶴を壊してしまう。

    「これよりを拷問をおこなう」
    「はい、魔王さま」

    「まず鶴の腹を縦に裂くのだ」
    「はい、魔王さま」

    もちろん折り鶴の腹の中は空っぼ。

    お医者さんごっこも憶えてる。

    「これより診察をおこなう」
    「はい、先生」

    「では、まずスカートを脱いで」
    「はい、先生」

    それから看護婦さんごっこもやった。

    「これから注射をします」
    「はい、看護婦さん」

    「では、まずお尻を出しなさい」
    「はい、看護婦さん」

    ここから先は、よく憶えていない。

    ふたり並んで窓から外を眺めた。
    山の上の空が赤紫色に焼けていた。

    この時は何も喋らなかったと思う。


    それにしても
    あの子は誰だったのだろう。

    どうしても名前が思い出せない。
    なぜか忘れた。

    近所の子だ、と思っていた。

    でも、そんな子は近所にいなかった。
    古いアルバムを開いても見つからない。

    母に尋ねてみても知らないと言う。
    そんな女の子、見たことないと言うのだ。

    「おまえはいつも、ひとりで遊んでいたよ」

    そんなはずはない。
    確かにあの子はいたんだ。

    いなかったはずはない。
    絶対に、絶対にいた。

    ふたり、あんなに楽しかったのだから。
     

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  • 狐の神様

    空を見上げ、狐が呟いた。

    「狐なんかつまらない。
     ぼく、鳥に生まれたかったな」

    それを耳にしたのが、木の上にいた天狗。

    「おまえを鳥にしてやるぞ。
     どんなのが望みだ」

    木の上からの声は、まるで天からの声。

    「ああ、神様ですね。
     ぼく、鷹になりたいな」

    「お安い御用さ」

    天狗の呪文で、狐は鷹に変身。

    「神様、ありがとう!」

    鷹になった狐は空に舞い上がる。


    空に舞い上がった鷹は
    地上を見下ろし、呟いた。

    「おや、あれは天狗だぞ。
     なんだ、やけに小さいな」
     

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  • 大猫の町

    ああ、大変!
    小猫に餌をやったら大猫になっちゃった。

    家の塀を壊して大猫は町に飛び出した。

    町の人たちを追いかけ、爪で引っかき、
    踏みつぷし、半殺しのまま食べてしまう。

    児童公園のジャングルジムの上に逃げても
    近所の友だちのアパートに逃げても

    大猫に狙われたら逃げきれない。

    背伸びしたり、爪を研いだり、
    ジャンプとかまでするのだから。

    ああ、どうしたらいいの?
    大猫を殺すべきかな?

    私には殺せない。
    大猫に罪はないのだから。

    町の人たちを救えばいいの?

    私には救えない。
    神様じゃないんだから。

    大猫に襲われた人たちに罪はないけど。

    あら。
    でも、そうかしら。

    こんなにたくさん人がいるから
    大猫に襲われるんじゃないの。

    食べられてもっと少なくなれば
    大猫から逃げることなんかわけないはずよ。

    ああ、変こと言ってる。

    でもでも、一番罪深いのは
    小猫を大猫にしてしまった私よね。

    そりゃまあ、そうなんだけど
    でも、罪っていったいなんなのよ?

    ニャーン、私にはわからない。
     

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