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2015/10/20
おれはスパイだ。
当然ながら任務は極秘である。
昔はスパイ道具なるものを山ほど持ち歩いていたが
今は改造した携帯端末ひとつあれば十分。
盗聴、盗撮、傍受、解析、連絡、なんでもござれ。
身軽なものだ。
鍵の開け方、爆弾の作り方、スマートな殺し方なんかも
上手に検索すれば最新の方法を知ることができる。
もっとも近頃は、わざわざ出かけるまでもない。
自宅でPC操作するだけでほとんど片付いてしまう。
世界中に散らばるスパイウェアからの
自動発信情報を定期的に管理するだけだ。
ただし、このスパイウェアの管理が難しい。
要するに、人間スパイの管理と同じ。
自分で手配した奴だけならともかく
外部から送り込まれるスパイウェアも管理せばならない。
そもそもスパイウェアを完全に遮断するのは難しい。
また、単純に遮断するだけでは有用な情報は得られない。
なので、それらしいガセネタを流したり
あるいは巧妙に改造して逆に利用したりもする。
ところが、それだけでは済まない。
相手に送り込んだはずのこちらのスパイウェアが
同じく二重スパイウェアに改造された可能性なきにしもあらず。
つまり、話がややこしい。
おかげで、なんともやり切れない気分になってしまって
たまにはスパイもこんな告白をしてしまう、というわけだ。
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2015/10/02
通販で着せ替え人形を注文したつもりだったが
届いたのは着せ替えドレスセットだった。
表示が人形の写真だったから、素直に人形と思い込んだら
じつは、その人形が着ていた服だけだったのだ。
そこそこ安いな、とは思っていた。
よく読めば、ちゃんと「ドレスセット」と表示されている。
なんと言うことはない。
つまり、安さに目がくらんだわけだ。
くそっ、再挑戦だ。
同じ失敗は二度としないぞ。
今度は商品説明をしっかり読み、
少々高価な着せ替え人形を注文した。
この際、値段には目をつぶろう。
やはり安いには安いなりの理由があるのだ。
ところが、しばらくして届いたのは
着せ替え人形ならぬ、着せ替え人間だった。
生身の着せ替え女子高校生、
その名も「ハルちゃん」。
どうなっているのだ?
わけわからん。
しっかり通販サイトの説明を読んだつもりだったが
どこをどう間違えたんだろ?
確かに人形にしてはリアルな写真だったけど・・・・
・・・・ふふ。
まっ、いっか。
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2015/09/30
山には紅葉が敷かれていた。
空にはいわし雲が寝そべっている。
そして、谷川には丸木橋が架かっていた。
今、その丸木橋をひとりの山伏が渡ろうとしている。
すると、もうひとりの山伏が反対側から現れた。
どちらも道をゆずろうとしない。
大人げなく、われ先に橋を渡ろうとする。
ふたりの山伏は橋の中央でにらみ合った。
「戻れ。わしが渡るところだ」
「どけ。わしが先に渡るのだ」
どちらも金剛杖を振り上げ
にらんだまま引こうとしない。
「修験者なら、橋の裏でも逆さに歩け」
「なんと、こんな狭い谷すら跳び越せんのか」
「未熟者が! 戻れ。戻らぬか」
「口でどかぬなら、腕づくでも」
二本の金剛杖が中央でぶつかった途端、
丸木橋がポキリと折れた。
どちらの山伏も谷川に落ちてしまった。
川の底はあまり深くないらしく
どちらも痛そうに腰をさすっている。
そんなふたりを見下ろしているのは
一匹の大きなタヌキだった。
「まだまだ修行が足らんな」
山伏と同じように腰をさすっている。
「ふたりものられると、とても化けきれんよ」
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2015/09/29
裁判長が判決を下した。
「被告は無罪である」
傍聴席からどよめきが起こる。
女装した被告は満面の笑みをたたえ
不気味なしなを作って見せた。
裁判長は続ける。
「あきらかに被告は、いかがわしい外見と
いかがわしい言動を日常としている。
しかしながら、それをもって社会的秩序を乱す者
美意識を狂わせ不快感を蔓延させる者として糾弾し
社会的に排斥する権限は、遺憾ながら我々にない。
法の精神にのっとり、いかがわしきは罰せず
心情的に釈然とせぬものの、ここは笑って済ませたい」
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2015/09/25
仙人が滝に打たれてた。
毎日毎日打たれてた。
なかなか立派な滝だった。
なので色んなものが落ちてきた。
虫、魚、ヘビ、キツネ、クマ。
木の枝、石ころ、丸太、岩。
さすが仙人、ビクともしない。
金貨落ちても目もくれない。
ある日、裸の美女が落ちてきた。
「ああ、困ったわ」
仙人の首にしがみつく。
「ねえ、お願い。
あたしを助けてちょうだいな」
乱れに乱れた仙人の髪と髭。
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2015/09/03
暗黒の雲に隠れ
天空に浮かぶ伝説の要塞。
黄道、白道、または
地磁気に沿って浮かび漂う。
その支配者、神の如き将軍。
不老不死、不笑不悲。
本日、畏れ多くも将軍の
第一千回目の誕生式典。
雷鳴は荘厳なる祝砲。
稲妻は華麗なる花火。
飲んで歌え。
酔って踊れ。
おっとっとっと
足を踏みはずす。
赤ら顔の将軍
雲間より落ちてゆく。
それは天上の悲しみ。
ならば地上の喜び。
あるいは、その逆か。
地上に落ちたる将軍の
身のふり方次第だね。
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2015/08/27
プロレスラーともめている。
こいつと争ってはいけないのだ。
どう考えても分が悪い。
しかし、つい手が出てしまうのだ。
ああ、いけない。
たった今、軽くではあるが顔面にパンチを入れてしまった。
やはり相手は怒っているようだ。
今にも殴り返そうとしている。
もう冗談とは受け取ってくれないだろう。
そうであろうな。
実際、もう冗談ではないのだから。
しかも、反撃されるのを防ごうとして
さらに相手のアゴを蹴ってしまった。
何をやっているのだ、おれは。
相手はプロレスラーなんだぞ。
人間凶器、歩く危険物なんだぞ。
本気を出されたらかなうはずないじゃないか。
いい加減やめろ。
しまいに殺されるぞ。
ああ、またやってしまった。
よりによってゴングの板で殴るとは。
こんなことしていたら状況は悪くなるばかりだ。
もうおしまいだ。
いまさら謝っても遅いだろうな。
こうなったら相手をやっつけるしかない。
そんなの無理に決まっている。
決まっているが他に方法がない。
やっつけなければ殺されるのだ。
おお、結構やるじゃん。
ひょっとしたらなんとかなってしまうかも。
今まで本気で闘った経験ないけど
案外、おれって本気出せば強いのかも。
いやいや、待て待て。
こいつを運よくやっつけたとしても
プロレスラー仲間が黙っていないだろう。
プロレスにはいくつか団体があるというではないか。
必ず大勢で仕返しされるはずだ。
やつら、仲間意識が強そうだからな。
そうなったら、もう絶望だ。
うん、わかってる。
わかっているがやめられない。
もうリングは血の海だ。
四角いジャングル、まっかっか。
ああ、ダメだダメだ。
確実に破局へ向かって進んでいる。
いったい何がおれを動かしているのだ。
不安か、憎しみか、軽蔑か。
それともゆがんだ愛か。
ああ、わからない。
まったくさっぱりわからない。
誰か誰か、頼む頼む。
どうかおれをとめてくれ。
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2015/08/21
忘れているような気がする。
なにか大変なことを。
「なんだっけ?」
「知らないわよ」
そりゃそうだ。
唐突に尋ねてもな。
「わし、なにか忘れてるみたいなんだよ」
「あんた、みんな忘れてるじゃない」
ああ、そうか。
「そう言えば、あなた、どなたでしたっけ?」
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2015/08/20
妻の部屋に侵入した。
まずは挨拶。
「お邪魔します」
妻が返事をする。
「あら。夫婦なのに水臭い」
おれは用件に入る。
「では、金を出せ!」
右手には拳銃。
「あんまりよ」
妻は財布からコインを取り出す。
おれは首を振る。
「札にしろ」
「無理よ。家計が苦しいのに」
「おれは空腹が苦しい」
なんとか紙幣を奪うことに成功した。
「それじゃ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
おれは玄関を出ると
拳銃を郵便受けに入れ
いつものように最寄駅へ向かうのだった。
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2015/07/12
留守宅かと思い、泥棒に入ったら
女がいた。
「お帰りなさい」
そのように挨拶されたら
やはり、こう返事せねばなるまい。
「ただいま」
そうして
なぜかそれから
流れるように
夫婦生活が始まってしまった。