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  • 勢い余って

    2016/05/15

    愉快な話

    勢い余って 産婆を倒し 

    産湯を泳いで クイックターン 

     

    泣きもしないで 笑うので 

    親は笑えず 驚くばかり 

     

    なんだ この子は 何者だ 

    どうすりゃいいか わけわからん 

     

    這うより先に 立ち上がり 

    歩き出す前 走り出す 

     

    入った学校 飛び出して 

    家も飛び出し 村も出た 

     

    それから 消息 聞かないが

    今頃 どうしているのやら

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  • 清きお水

    2016/05/06

    愉快な話

    わたくしがたまたま助けてさし上げたご老人は 

    自信たっぷりに、このようにおっしゃいました。 

     

    「わしは水道の神である。助けてもらった礼として

     あんたの家の水道水を、あんたが望むものに変えてしんぜよう」

     

    お酒でもジュースでも血液でも、なんでも好きなものが 

    ひとつだけ選べるのだそうです。

     

    ご冗談に決まっておりますが、わたくしは悩んでしまいました。

    なにしろ毎日使うものですから、迂闊なことは申せません。

     

    しばらく悩んだ末に、わたくしはお願いしました。

    「それでは、できましたら、清きお水にしてくださいな」

     

    すると、ご老人はにっこり微笑みました。

    「おお。それはそれは、なかなか賢い選択じゃな」

     

    なので、それからというもの、わたくしの家の水道水は 

    いつもいつも、本当に清きお水なのでした。

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  • アンテナ帽子

    2016/05/04

    愉快な話

    どうだい、これ? 

    なかなかカッコイイだろ? 

     

    「アンテナ帽子」って言うんだぜ。

     

    見た目だけじゃない。

    機能もすごいよ。

     

    ほとんどすべての周波数帯に対応しているんだ。 

    どんな微弱電波でも拾っちゃうし。

     

    テレビ、ラジオ、各種無線通信、宇宙からの電波。

    それどころか、付近にいる人や動物の意識さえ感知しちゃう。

     

    それを増幅して、翻訳編集して、かぶってる人に伝える。

    いわゆる万能「聞き耳ずきん」のようなものさ。

     

    しかし、口で言っても伝わらないよね。

    ほら、試しに一度かぶってごらん。

     

    とにかく、すっごいんだから。

     

    びっくりするよ。

    人間不信になること、まず間違いなしさ。

     

    おや、疑ってるね。

    それに怖いんだ。

     

    ちゃんと聞こえてるよ。

    あはは。

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  • 下半身の反乱

    2016/04/26

    愉快な話

    どうも気がしれない、と思っていたら 

    我慢できなくなったのか、ついに下半身が怒った。

     

    「上半身に宣戦布告し、下半身の独立を宣言する」

    放屁しながら、さような趣旨の言葉を肛門が喋った。

     

    「よかろう。望むところだ」

    こっちこそ自分勝手な下半身にはウンザリしていたところだ。

     

    ヘソのあたりを輪切りにする形で仮の国境線が引かれ 

    上下人体の分断外科手術が始まった。

     

    近頃は、医学およびその関連技術の進歩により 

    想像しうることは大抵できてしまうのである。

     

    こうして生身の上半身は人工の下半身を得る。

    同じく生身の下半身は人工の上半身を得る。

     

    ようやく上下、互いに自由が得られたわけだ。

     

    おれは書斎でひとり、学問に集中できるようになった。

    下半身は何も考えず、外で派手に遊びまわっているらしい。

     

    相変わらず相手の気はしれないが、ともかく  

    じつに平和的な解決と言えよう。

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  • 耳からウニ

    2016/03/15

    愉快な話

    耳からウニが出てきた。

     

    膿ではない。馬でもない。

    鬼でもなければ国でもない。

     

    ましてや富士の高嶺に降るウンコでは決してあり得ない。

    (もっともウニの身の方なので似てなくもない)

     

    そういう意味ではウニ程度で済んだことに感謝すべきだろう。

     

    何が言いたいのかと言うと、何も言えない。

    なにしろ口から季節はずれな梅の花とウグイスが生えてきた。

     

    「なんだなんだ」

    口の代わりに鼻が喋り出した。

     

    「わからんわからん」

    枕もとの目覚まし時計まで返事をする。

     

    痴呆老人のように眠ってる場合ではない。

    左耳から出たウニが頭頂部を這って右耳に入ろうとする。

     

    礼儀知らずなウニを手で押さえようとしたら足が出た。

    しかもタコの足、なぜなら八本ある。

     

    蛍光灯スタンドがお辞儀をする。

    「失礼いたしました」

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  • 押しかけ女房

    2016/03/13

    愉快な話

    玄関チャイムが鳴った。

     

    訪問セールスなら断るつもりで、ドア越しに尋ねる。

    「なんでしょうか?」

     

    「押しかけ女房です」

    若い女の声。

     

    聞き違いかと思い、ドアスコープから覗く。

    逆光でよく見えない。

     

    ドアを開ける。

    なかなかの美人が立っていた。

     

    「おはようございます。わたくし

     強制婚姻協会から派遣されました押しかけ女房でございます」

     

    「はあ」

    返事に困る。

     

    「お宅様のご都合もおありだとは重々承知しておりますが

     なにしろ押しかけ女房ですので

     断られましても入らせていただきます」

     

    そのまま女は私を押しのけ、ハイヒールを脱ぎ 

    強引に家宅不法侵入してしまった。

     

    「なんですか、いったい、あなたは」

    私は戸惑いつつも怒鳴る。

     

    「だから、押しかけ女房よ」

    女は態度だけでなく、口調までぞんざいになった。

     

    「まあ、これはまた随分と散らかしてるわね。

     まず最初にすべき家事は部屋の掃除だわ」

     

    女はさっさと部屋の掃除を済ますと 

    引き続き台所で料理を始める。

     

    気の弱い私はオロオロするばかりである。

     

    手料理は久しぶりで、驚くほどおいしく 

    褒めない代わりに文句も言わず一緒に食べる。

     

    その間、根掘り葉掘り尋問されて 

    すっかり個人情報を引き出されてしまった。

     

    さらに洗濯もしてもらい、便器も浴槽も磨いてもらい 

    一緒に風呂に入って背中まで洗ってもらった頃には

    もう今さら「出て行け」とは言えない状況に陥っていた。 

     

    「ねえ、あなた。そろそろ寝ましょうよ」

    「う、うん。そうだな」

     

    でも、まあいいか。

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  • 予告ホームラン

    2016/03/12

    愉快な話

    おれはバッターボックスに立った。

     

    2ストライク。

    ピッチャーを睨みつける。

     

    そろそろ予告しておくか。

     

    おもむろに右手を腰に当てると 

    おれは左腕をゆっくり伸ばし、バットの先で 

    外野観覧席の最上段の辺りを威厳を持ってさし示す。

     

    観衆からの歓声と怒声の嵐。

    いわゆる予告ホームランである。

     

    なに、深い意味はない。

    ちょっとした「メークドラマ」のつもり。

     

    怒りをあらわにする若いピッチャー。

    まあ、無理もない。

     

    とりあえず、病床の幼いファンに約束した 

    ということにしておくか。

     

    振りかぶってピッチャーが投げた。

    おれは迷わずバットを振る。

     

    鋭い打撃音と確かな感触。

     

    打った瞬間にわかった。

    予告ホームランの達成だ、と。

     

     

    そこで目が覚めた。

    おれはタンカに乗せられ、運ばれていた。

     

    どうもピッチャーを怒らせ過ぎたらしい。

     

    おれはデッドボールをまともに顔面に受け 

    失神したまま幸せな夢を見ていたのであった。

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  • 魚の降る日

    2016/03/11

    愉快な話

    今日は魚が降っている。

     

    メダカほどの小魚がほとんどだが 

    たまにタイやヒラメ、カツオなんかも降ってくる。

     

    庭に出て、池に落ちたサンマを三尾ほど拾う。

     

    地面に落ちたやつより損傷が少ない。

    それに、丸ごと煮るだけのサンマ料理なら簡単だ。

     

    とりあえず水道水でよく洗ってから 

    大型冷蔵庫に保管する。

     

    滅多にスーパーで買い物しないのに 

    冷蔵庫の中は満杯だ。

     

    先月降った豚の一部が 

    まだ冷凍室にたくさん残っている。

     

    もう肉類は十分だから 

    そろそろ野菜とか降らないかな。

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  • ニュース速報

    2016/03/10

    愉快な話

    たった今入ったばかりのニュース速報です。

     

    正確な日時は不明ですが 

    どこかで事件または事故が発生した模様です。

     

    ただし、詳しいことはまだわかっておりません。

    なので、引き続き続報をお待ちください。

     

    以上、最新のニュース速報でした。

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  • 犬の鼻

    2016/03/07

    愉快な話

    会社の同じ部署にいる後輩は 

    皆から「犬の鼻」と呼ばれている。

     

    彼は嗅覚が異常に鋭いのだ。

     

     

    「今朝も立ち食いの天ぷらソバっすか」

    挨拶代わりに朝食を当てる。

     

    「あの二人、できてますよ」

    社内恋愛や不倫は必ずばれる。

     

    「先輩、病院に行った方がいいっすよ」

    潜伏する病気も感知してくれる。

     

     

    他人の私生活なんぞ彼にはバレバレである。

     

    マンションの無分別なゴミ出しの住人とか 

    その臭いから簡単に特定できるそうだ。

     

    まさに犬並み。

    性格も犬に似る。

     

     

    「おまえが一番好きな匂いは?」

    ある日、何気なく尋ねてみた。

     

    「もちろん、先輩の匂いっすよ。ワン!」

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