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2008/08/25
昔、この島に、たくさんの兎がすんでいた。
動物は、兎の他に一匹もいないのだった。
ある日、一羽の兎が海岸を散歩していると
砂浜で見知らぬ動物を見つけた。
波打ち際に倒れていたのは、一匹の狼。
どうやら漂流して、島に流れ着いたらしい。
「いったいなにかしら? 大きな口だけど」
長い耳を傾けて、兎は考え込んだ。
だが、いくら考えてもわかるはずがない。
やがて、気絶していた狼が目を覚ました。
立ち上がると、あたりを見まわす。
「なんだ? ここはどこだ?」
当惑している狼を見上げて、兎は答えた。
「私は兎。ここは兎の島。あなたは誰?」
「おれか? おれは狼だ」
空腹だったので、狼は兎を食べたくなった。
でも、かわいらしいので、襲う気になれない。
「他に食べ物、いや、動物はいないのか?」
「この島にいるのは私たち、兎だけよ」
仲間が集まってきた。かわいらしい兎ばかり。
人参を食べる子兎が、またかわいらしいのだ。
心やさしい狼は、すっかり困ってしまった。
悩みに悩んだ末、狼は子兎に飛びかかった。
子兎から人参を奪うと、狼は噛みついた。
狼は涙を流しながら、人参を食べるのだった。
兎たちは、そんな狼の姿に同情してしまった。
「よっぽどおなかを空かせていたんだね」
それから、この狼がどうなったかというと
兎たちと一緒にずっと仲良く暮らしたという。
つまり、そういうわけなのだ。
この島に、人参を食べる狼がいるのは。
【 Rabit Island 】
Long time ago, there lived many rabbits in a small island.
There were no other creatures except rabbits.
On a sunny day, a rabbit was taking a walk along the beach
when suddenly he came across an animal which he had not seen before.
It was a wolf lying down on the beach.
It seemed like the wolf was drifted ashore and was unconscious.
"What happened?", the rabbit asked.
The rabbit thought over this, raising his ear in doubt,
but couldn''t figure it out.
Before long the stunted wolf woke up.
"Where am I?" he asked getting up with pain.
The rabbit looked up at the dazed wolf and said
"I am a rabbit and this is our island, but you, where do you come from?".
The wolf replied, "Me? I am a wolf".
The wolf was so hungry that he wanted to devour the rabbit
but the rabbit looked so cute that he refrained from this.
The wolf asked
"Is there any other animal to serve as food for me on this island?",
to which the rabbit replied,
"I am afraid there are only rabbits in this island".
Soon, all the rabbits on the island gathered together.
The baby rabbits were eating carrots and they were so cute.
The wolf was confused as to what to do.
He thought over and over again and finally he jumped at the baby rabbit,
grabbed the carrot and took a bite.
He ate up the carrot with tears and the sight was so moving
that they had sympathy for him,
at the thought he must be very hungry.
From that time the wolf and the rabbit lived together happily.
This is why the wolves eat carrots on this island.
(黒人男性と結婚することになった花嫁(日本人)が
その披露宴にて英語で朗読したい、と短い話を所望。
書いて渡した和文を花婿の知人が英文に翻訳)
2008/08/04
地図はまちがっていた。デタラメだった。
要塞があるはずの場所に火葬場があった。
さすがに疲れてしまった。もう歩けない。
橋があるはずだった公園の芝に寝転んだ。
土の臭いがした。
いや。大便の臭いだ。
公衆便所が近くにあるのだろう。
ありそうな話だ。ここは公園なのだから。
それとも犬が近くで糞でもしたのか。
まあ、どちらでもいい。どうでもいいのだ。
そのまま眠ってしまった。
大便の強烈な臭いに包まれたまま・・・・・・
そうして、ウンコタウンの夢を見た。
『ウンコタウン』と町の入口に看板がある。
とにかく、その名に恥じない臭い町だった。
空は晴れているのに人々は傘をさしていた。
白い傘ばかり。すぐにその理由がわかった。
俺の頭に鳩の糞が落ちてきたからだ。
軒下に逃げた。軒下には美しい婦人がいた。
夢見るような表情で優雅にしゃがんでいた。
婦人の尻は丸出しだった。
信じがたいことに排便中だった。
俺の靴があやうく汚れるところだった。
「あら、これは失礼しました」
婦人はしゃがんだまま上品にお辞儀をした。
そこから離れようとして俺は滑って転んだ。
まだ乾燥していない大便を踏んだらしい。
「あら、おかしいわ」
排便中の婦人が口もとを隠しながら笑った。
他に隠すところがあるだろうが、と思った。
いたるところで似たような光景を目撃した。
立ち大便という芸当も見た。しかも少女だ。
路地裏では子どもが糞を投げ合っていた。
食う奴までいそうだが、幸いにも見なかった。
当然だが、町中が排泄物だらけであった。
条件反射だろうか、なんだかもようしてきた。
公衆便所などあるとは思えなかった。
みんながやっているのだから問題なかろう。
決心して、俺は大通りにしゃがんだ。
「こらこら、ここでやっちゃいかん!」
黄土色の制服の警察官に怒られてしまった。
「この標識が見えんのか」
目の前に『排便禁止』の標識が立っていた。
不潔な町であることは疑いようもないが
この町にも規律はあるようだ。
俺はウンコタウンを少し見直した。
・・・・・・それにしても、
なかなか覚めない夢だ。
2008/07/25
酒の神が恋をしました。
その相手は恋の女神でした。
でも、恋の女神は恋などしません。
他人の恋心に火をつけるだけです。
憧れの神の世話にもなりません。
嫉妬の女神なんか会ったこともありません。
だから結局、酒の神は失恋したのです。
酒の神は、悲しみのあまり酒に溺れ、
酒樽の底に隠れてしまいました。
そんな哀れな酒の神に同情したのは
お節介な孤独の女神でした。
孤独の女神は、恋の女神を孤独にしました。
恋の女神はたまりません。
たちまち孤独に負けてしまって
飲めない酒を飲むようになりました。
そんな恋の女神の噂を聞いて、酒の神は
酒樽から嬉しそうに這い出てきました。
酒の神は、恋の女神の隣に座ると
その憂いに満ちた美しい横顔を眺め、
恋の女神の孤独に乾杯しました、とさ。