1万8000人の登録クリエイターからお気に入りの作家を検索することができます。
2013/02/02
こちら、私がおりますところは
毎回びっくり死の犠牲者が多数出ることで有名な
「世界びっくり箱コンテスト」のメイン会場であります。
箱を開けたら蒸気機関車が飛び出すオーソドックスなタイプのものから
ミニ・ブラックホールを閉じ込めた最先端技術の応用作品まで
世界中からありとあらゆる心臓に悪そうなびっくり箱が集結しました。
私は仕事柄、スペアの人工心臓を半ダース用意しましたが
もう2個しか残っておりません。
やはり今回も不意打ちビックリが主流でありますが
箱を開けたら自分の死体が入っているなど
考えオチならぬ考えビックリも少なくありません。
昔からある拷問道具というか処刑道具としか思えないもの、
箱の中で隠れてタブーを犯しているもの、
全然びっくりするような要素がないのにびっくり箱と称しているので
逆にびっくりしてしまうものまで、とにかく驚きの連続。
まさに巨大なびっくり箱の中に落っこちてしまったような
錯覚と申しますか、変な気分を味わっております。
それはともかくですね、この会場、
落とし穴みたいな入り口はたくさんあるんですけど
出口らしきものがいくらさがしても見つからなくて
本当にびっくりなんですけど
私、いい加減びっくり疲れました。
2013/01/31
「まあ。ユミ、久しぶりね」
見ず知らずの女から声かけられた。
「ええ、そうね。ごめん、急いでるんで」
愛想笑いを浮かべつつ、その場を小走りに去る。
この他人、ユミという名前らしい。
私は自分なんだけど、外見は他人。
美人とも思えないが、そんなに悪くもない。
「おい、ユミ。他人のふりするなよ」
見ず知らずの男に呼び止められた。
「ごめんなさい。ちょっと急いでて」
あわてて逃げようとしたが
「ふざけるな」
男に腕をつかまれた。
「ユミ、なんで俺から逃げる」
「人違いです。私はユミではありません」
「なに言ってんだよ。ユミ、笑えねえぞ」
どうやら、この他人と深い関係の男らしい。
こうなった仕方ない。
別の他人になるしかない。
「君。人違いじゃないかな」
「わっ。すみません。し、失礼しました」
男は驚き、ひっくり返り、立ち上がって
また転んで、あわてて走り去った。
この他人、どうやら今の男の苦手なタイプらしい。
2013/01/23
「我が名は、明けの明星なり!」
早朝、愛犬を散歩させていたら
ステテコ姿の老人が走り過ぎながら宣言した。
ああ、いやだいやだ。
体が頑丈で頭が岩石みたいな老人には
あたしゃ、なりたくないね。
健康を見せびらかすのが趣味なんだろうな。
誰も見たくないから隠せよ、まったく。
「私のHNは愚陀羅よ!」
登校中の女子中学生が担ぐバッグに
ピンクの文字で書いてあった。
ああ、いやだいやだ。
外見ばっかりで中身のない女の子には
娘をさせたくないね。
なんでも飾らないと不安になるんだろうな。
脳みそにもフリルが付いてるよ、きっと。
「おまえは批判しかできんのか?」
電信柱に小便をしながら
愛犬が言葉で吠えた。
2013/01/17
そして翌日、
撃たれてしまった。
く、くそっ!
ひどい出血だ。
死ぬかもしれん。
だ、誰だ?
昨日、
明日へ向かって撃った奴は。
2013/01/15
とうとう来てしまった。
千鳥足でなければ辿り着けないという
世界が回転しなければ入れないという
伝説の酒場。
どこにあるのか誰も知らない。
町名も番地もわからない。
およその方角もわからない。
そもそも店名すら不明なのだ。
入口のドアを開けると
床には小川が流れている。
その小川には
背びれが翼の人魚が泳いでいる。
さあ、そんなのまたいで
さっさと向こう岸へ渡ってしまおう。
カウンターの止まり木には
魅力的な異国の女たち。
奥の暗いテーブル席には
怪しい異星の男たち。
特別な挨拶なんかいらない。
まずは一杯いただこう。
ところが、突然の目覚め。
ここは自宅の玄関。
時は朝。
昨日はどこだ。
酒場はいつだ。
どうやって帰宅したのだ。
まるで記憶が残ってない。
2013/01/11
ひとつの小さな村が
一頭の大きなゾウに襲われた。
そのとてつもなく巨大なゾウは
なんでも踏みつぶしてしまうのだった。
こいつを退治しなければ村は全滅する。
「ダメよ、ダメダメ。
ゾウを殺すなんて、かわいそう」
そんな心優しい女は
まっ先にゾウに踏み殺されてしまった。
村人たちは広場に集まり、相談した。
「落とし穴を掘ろう。
あいつを落として捕まえるんだ」
さっそく全員で穴を掘り始めた。
ところが、すぐにゾウが姿を現した。
まだ落とし穴は未完成。
逃げなくては。
でも広場には逃げる場所がない。
みんなあわてふためき、
掘ったばかりの穴に飛び込んだ。
そして
その上にゾウが落ちてきた。
それだけ。
なんの教訓もないのだった。
2012/12/12
花火セットを友人が捨てるという。
花火大会をしようと買ったのだが
夏に使う暇がなくて、もう季節は冬。
花火が家にあるのは危険かもしれない。
だが、そのまま捨てるのはもっと危険だ。
「社会人として行動に責任を持つべきだ」
そのように主張した結果として
花火セットを持ち帰ることになってしまった。
今、枕もとに花火セットが置いてある。
冬の夜は寒い。
布団から出たくない。
家の外はもっと寒いはずだ。
冷たい北風が吹いている。
団地なので自分専用の庭もない。
花火を打ち上げる意欲など湧くはずがなかった。
布団にくるまったまま悩むだけだ。
ふと幼い頃の一場面を思い出した。
ある夜、隣家の庭で花火大会をやっていた。
花火がきれいだった。
光がまぶしかった。
自分の家には花火なんか一本もなかった。
理由は知らない。
おそらく家庭の事情だろう。
にぎやかな笑い声がする。
ひどく羨ましかった。
とても悔しかった。
もしあの時、この花火セットがあったら・・・
恐る恐る点火して、すごい音がして
こっちの方があっちよりきれいだぞ。
回転花火、ロケット花火、もっとあるぞ。
すぐ横には父と母の笑顔だってあるんだ。
あの夏の夜、この花火セットがあって・・・
ふと枕もとを見た。
花火セットはなかった。
そうそう、あの夏の夜は楽しかったな。
2012/12/08
「助けて!」
密かに好意を寄せる女性にそんなこと言われたら
どんな状況であれ無視できるはずがない。
俺は彼女に手を伸ばす。
「大丈夫。もう少しだ」
彼女は、氷に覆われた岩壁に必死でへばりついている。
つまり、我々は登山の最中であり、
非常に厳しい状況にあった。
生存者は俺と彼女だけ。
他の隊員たちは皆すでに奈落に転落していた。
彼らが生還できる確率は
俺が女性にもてる確率より低い。
遭難者リストの中には
彼女の婚約者であった男もいた。
もし彼女を救出して一緒に下山できたとすれば
あるいは愛が芽生えて・・・
という可能性も、まったくないこともない。
不謹慎であろうとなかろうと
命懸けのアタックであることに違いはない。
「助けて! 助けて! 助けて!」
ちょっとうるさいな、とは思いながらも
伸ばした俺の手が彼女の手に届いた・・・
と思ったら、目覚まし時計だった。
2012/12/01
図書館を連想させる広い部屋には
幼くてかわいらしい二人の姉妹。
なぜか私は家庭教師の立場にあるのだが
彼女たちは扱いやすい生徒とは言えない。
なんでも勝手に二人で始めてしまうのだ。
「さあ、シーソーを作りましょう!」
唐突に提案しながら
姉が柱のような角材を部屋に持ち込む。
妹は支点となる三角ブロックを運ぶ。
机や本棚を部屋の隅に寄せ、
あっと言う間にシーソーを組み立てる。
姉妹はシーソーの左右の端に別れて乗り、
すぐに独特の上下運動を始める。
だが、支点の位置が低いため
動きに迫力が足りない。
「先生、どうしたらいいの?」
妹が解決を求めてきた。
教師としての力量を試される瞬間だ。
「支点を高いところに置けばよかろう」
なんとか二人は感心してくれたようだ。
部屋の隅に寄せてあった机や本棚を
中央に移動させ、高く積み上げる。
見上げる位置に支点のブロックを置き、
私も手伝ってシーソーのアームを載せる。
姉が腕を組む。
「さて、問題はこれからよ」
妹が首をかしげる。
「これ、どうやって乗るの?」
姉が断言する。
「まさに、そこが問題なのよ」
結局、私が支点付近でシーソーを押さえ、
アームが上下に揺れないようにする。
そこへ中央から上ってアームの左右へ
姉妹が乗り移ることになった。
本棚と机の上に登る。
高い。グラグラする。
いくらしっかりシーソーを押さえていても
押さえる私の足場が揺れていては心もとない。
妹が私の背中から肩へと這い上がる。
それから、アームの片側へと移動を始める。
とんでもなく重い。
体が浮きそうになる。
妹は軽くても、てこの原理というものがある。
それに重心がずれ、今にも足場が崩れそうだ。
「待て! ちょっと待て! 止まれ!」
妹をそのままにして、姉にも乗ってもらう。
重さが偏らないようにしながら
二人を同時にゆっくり左右に移動させる。
緊張の連続で、汗びっしょりになる。
時間はかかったが、なんとか位置についた。
「よし。シーソーを始めていいぞ」
とにかく早く終わって欲しかった。
二人とも足が床に届かないので
あの独特の上下運動がなかなか始まらない。
姉妹がどうするのか見ものであった。
やがて姉がのけぞり、妹がおじぎをする。
重心を移動させる理想的な方法だ。
こうして私の教育は見事な成果を上げ、
シーソーは姉の側へ大きく傾いた。
しかしながら、姉の足はなかなか床に届かず、
そのままシーソーは止まらずに傾き続ける。
そして、ついに支点や姉妹や私や悲鳴もろとも
ドドッと床めがけて崩れ落ちていった。
2012/11/21
なつかしい叔父から小包が届いた。
叔父は遠い外国で暮らしている。
貿易商なのに冒険家のつもりなのだ。
小包の中には手紙と異国風の布袋が入っていた。
手紙は短かった。
「コテ茶だよ。煎じて飲んでも知らないよ」
これだけ。
いかにも変人の叔父らしい。
コテ茶とは初耳だった。
まともなお茶ではあるまい。
麻薬みたいな幻覚作用があるのだろうか。
それらしきものが布袋の中に入っていた。
なるほど、コテッとした色をしている。
さっそく煎じてみる。
コテッとした色が濃くなった。
まさか死ぬことはあるまい。
恐る恐る飲んでみた。
まずい!
ほとんど毒だ。
めまいがして視界がゆがみ、
キッチンの床に倒れてしまった。
気がつくと、なにやら窓の外が騒がしい。
いや、違う。
騒がしいから気がついたのだ。
かなりの数の群衆の声がする。
窓を開ける。
人の姿は見えない。
しかし、うるさいほどの声。
「この声はなんだ。幻聴か?」
自分の声が木霊のように反響して聞こえる。
さらに遠い異国にいるはずの叔父の声まで聞こえてきた。
「おまえもコテ茶を飲んだな。
まったく、うるさくてかなわんぞ」