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2015/10/08
指を舐めていたら
指先が融けてしまった。
いけない、いけない。
指を舐めてはいけなかったんだ。
歩いていたら
脚が折れてしまった。
いけない、いけない。
歩いてはいけなかったんだ。
考えていたら
頭が痛くなってしまった。
いけない、いけない。
考えてはいけなかったんだ。
ぼおっとしていたら
わけがわからなくなってしまった。
いけない、いけない。
なにがいけなかったんだっけ。
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2015/10/03
昼寝していたら
電話の呼び出し音に起こされた。
せっかく楽しい夢をみていたのに・・・・
ふらふら立ち上がり、よろよろ居間へたどり着き
いやいや受話器を持ち上げる。
「はい。もしもし」
なにやら挨拶らしき言葉のあとに
どこぞの会社のいかがわしい売込みが始まる。
やれやれ、またか。
限りなく迷惑なだけのセールス電話。
おれは呟いた。
「呪いあれ」
「はっ?」
「呪いあれ。呪いあれ。呪いあれ」
「あの・・・・」
「死の声、遠く深く届くべし」
「・・・・あのですね」
「セールス電話に地獄の呪いあれ!」
おれは心より呪う。
「身勝手なる売込みにより我が眠り妨げし者すべて
子々孫々の末代まで続く未来永劫の呪いあれ!」
おれは静かに受話器を置くと
そのまま寝室へ戻った。
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2015/09/28
卒業記念用のクラス別集合写真ができてきた。
なかなかうまく撮れている。
さすがプロの仕事。
ところが、これが心霊写真だと言うのだ。
いくら眺めてもわからない。
体育館で撮ったのだが
どこにも不自然なところはない。
異様な位置の腕や脚もないし
ぼやけた顔だって見つからない。
「人数を数えてみろよ」
同級生のひとりが言う。
いちいち人差し指で顔を押さえながら
同級生の顔を数えてみた。
「あれ?」
「なっ、おかしいだろ」
ひとり多いのだ。
どいつもこいつも同級生の顔なのに。
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2015/09/07
あなたは暗い地下道をひとり歩いている。
壁に反響するため、あらゆる方角から靴音が響く。
ふと、子どものすすり泣きの声が
かすかではあるが聞こえたような気がした。
あなたは立ち止まる。
立ち止まってもしばらくは靴音が響く。
ここからでは子どもの姿は確認できない。
もっとも、まばらにわずかしか灯りがないため
地下道の先も後も遠くまでは見えない。
あなたは思う。
いじめられているのかもしれない、と。
見知らぬ子どもが壁に釘で手のひらを打ちつけられ
浮いた足の裏をカラスの羽でくすぐられ・・・・
あなたはそんな想像をする。
なぜそんな・・・・と、いぶかりながらも。
闇の奥へあなたは目を凝らす。
地下道なのにあやしくまたたく星の群。
夜空にしては二重星が多すぎる。
そして、生臭い息づかい・・・・
あなたはあせる。
心臓の落ち着かない音が反響する。
あなたは再び歩き始める。
なぜか足が重くなったように感じられるけれど
歩みを止めるわけにはいかない。
しかしながら闇は全方向へ延びている。
どこまでも終わりなく続く気配のする
この暗い地下道。
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2015/08/29
ブログを更新していたら、玄関チャイムが鳴った。
ドアを開けると、見知らぬ中年男性。
「・・・・と申しますが、じつは・・・・」
このマンションの住人の息子らしい。
独り暮らしの老母が一週間前から連絡が途絶えている
とのこと。
心配になって訪問したところ、留守であった。
郵便受けの中にはチラシや手紙が溜まっている。
合鍵で中に入って調べてみると
炊飯器の中の研いだ米が腐りかけている。
それで「さて、これは大変だ!」と
情報を求めて自主管理組合理事長の私を尋ねたわけだ。
私も初耳。
階下の住人に問い合わせてみたが、役立つ情報はない。
賃貸なので、区分所有者に連絡する。
脚が悪いので手術を勧めていたが
飼い猫の世話が気になって躊躇ちゅうちょしていたそうだ。
救急車で病院に搬送された可能性を含め
とりあえず警察に捜索願いを出すしかなさそうだ。
この中古分譲マンションでは
これまでに孤独死は少なくとも2件あった。
さらに失踪が1件加わるとしても
さして不思議あるまい。
後日、緊急入院していたことが判明。
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2015/08/24
古い屋敷の裏庭は林になっていた。
その奥に土蔵があり
少年と少女が監禁されていた。
少年は明かりとりの窓を見上げていた。
ただ黙って見上げていた。
窓の下では少女が本を読んでいた。
少女は読書が好きなのだった。
書物と食物には不自由しない。
毎日、番人が差し入れてくれるから。
少女は番人に話しかける。
老いた番人は縦か横に首を振るだけ。
少女は哀しくなる。
少年もほとんど返事をしてくれない。
それでも話したい事柄は山ほどあった。
だから本に話しかけたりする。
そんなある日、
少女の読書を人影が邪魔をした。
見上げる少女。
「どうしたの、急に?」
見下ろす少年。
あいかわらず黙ったまま。
ただし、うっすらとあごに毛が生えていた。
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2015/08/23
一台のてんびんがある。
どんなものでも比べられるのだそうだ。
ただし、形のあるものでなければダメ。
たとえば愛と勇気なら
それを結婚指輪と剣に置き換える。
断っておくが、質量を比べるわけではない。
その人にとっての価値の重要度みたいなものだ。
だから、同じものを比べていても
日によって気分によって変わったりする。
さて、それはともかく
今日は何と何を比べてみようか。
右の皿に、手を切ったばかりの札束をのせる。
左の皿に、切られたばかりの人差し指をのせる。
さてさて、どうなるやら。
右に傾くだろうか。
それとも左だろうか。
それとも・・・・
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2015/02/07
「おはようございます」
「それどころじゃない」
担任の教師が急ぎ足で通り過ぎた。
同級生たちも急ぎ足でやって来た。
「どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたもない」
やはり通り過ぎようとする。
「教えろよ」
「学校が崩壊するんだ」
おれも合流して急ぎ足になった。
「いわゆる教育現場の崩壊?」
「違う。校舎が壊れる」
「どうして?」
「知るか」
おれは立ち止まった。
同級生たちは廊下の角を曲がって消えた。
どうしたというのだろう?
みんな急ぎ足だったが、駆け足ではなかった。
ただの避難訓練か?
それとも、まさか予知能力?
わけがわからない。
もう校舎には誰も残っていないようだ。
仕方がない。
おれはバッグを開き
手製の時限爆弾を取り出した。
2015/02/05
わたくしは水玉模様の日傘を差して砂漠におります。
時折りに移り変わる蜃気楼の景色を眺めながら
どうしようもないくらいに今、胸騒ぎがしております。
巨大な砂時計の底に置き去りにされたみたいな
こんな己の他に誰もいない世界の果てにいると
それほど悪いこともしていないはずなのに
いえ、悪いとか良いとかの問題ではなくて
慣れ親しんだ人々の営みから隔絶しているというこの状況が
ありもしない幻の監獄に囚われ
ありもしない幻の罪業に責め苛まれる病人のように
根本的に見当違いなあり方ではないか
という気がしてくるのです。
「もう諦めて、帰ってきなさい」
そのような幻聴すら
やはり時折りに聞こえてくるのです。
なんの根拠もない
ただの胸騒ぎであれば良いのですが・・・・
2015/02/03
秘密は、人に知られぬゆえに秘密。
その秘密知りたる者、生き続ける事かなわじ。
「ああ、どうしよう」
「どうしたの?」
「あたし、大変なこと、知っちゃったの」
「どんなこと?」
「そんなの言えない」
「どうして?」
「だって、言ったら、大変なことになっちゃうもん」
「どんなふうに大変になるの?」
「みんな、生きていられなくなる」
「わかんないな」
「だから、わかんないままがいいのよ」
「あんた、どうするつもり?」
「どうにもできないよ」
「困ったわね」
「とりあえず、そういうことなので」
「どこへ行くの?」
「わかんない」
「わかんないって・・・・」
「とりあえず、さようなら」
「あんた、まさか・・・・」
「だって、これ、秘密なんだもん」