1万8000人の登録クリエイターからお気に入りの作家を検索することができます。
2016/01/31
どうやら私は呪われているようなのだ。
しかも、つまらん呪いなのだ。
どんなに興味深い内容でも
私がかかわると、とたんに興味が失せてしまう。
すぐに私は退屈してしまう。
もうつまらん、と思ってしまう。
他の人たちは好奇心やら集中力が持続して
いつまでも飽きずに繰り返せるというのに。
まさしく、つまらん呪いである。
もっとも、どちらが呪われているのか
正直なところ疑問に思う。
他にもっと面白いことあるのに、なぜ?
と、つまらんから問わんが、問いたくもなる。
しかしながら、多数決にはかなわない。
なんだかんだ言っても、数は力である。
そもそも、その多数決こそ
じつにつまらん意思決定方式ではなかろうか。
なにしろ、その多数決によって
多数決そのものを否定することさえできるのだから。
というか、たとえば投票率が50%を下回った場合
すでに多数決制度は否決されているではなかろうか。
・・・・と、まあ、そうは思うものの
やはり便宜上、反対してもつまらん気はする。
まったくもって、じつにつまらん呪いであるが
さて、そろそろこのへんで、この話もつまらんかな。
ログインするとコメントを投稿できます。
2016/01/19
ふと
目覚めて
ぼんやりして
君を抱こうとして
君がいないことに気づく。
そうか。
もう君はいないのか。
そうだ。
もう君はいないのだ。
君はいない。
君を抱けない。
僕は君を抱けない。
もう僕は君を抱けない。
そうさ。
僕が君を殺してしまったから。
ログインするとコメントを投稿できます。
2015/12/21
追われている。そんな気がする。
なんとしても逃げなければならない。
そいつの裂けた口には鋭い牙が並んでいる。
きれいな穴の列を頭蓋骨にこしらえるはず。
そいつの歪んだ手にはおぞましい爪が生えている。
傷口を開いて血まみれの心臓をえぐり出すはず。
なのに動けない。足が重い。
両足に黒く長いものが巻き付いている。
背後から臭い息が忍び寄る。
よだれのようなものがうなじに垂れた。
「さて、どこから喰ってやろうか」
思わず返事をしてしまう。
「私は毒です。おなかを壊します」
「ほほう、そうかい。では、まず毒抜きをせねばな」
「・・・・そうですね」
そうして、それから毒抜きなるものをされた。
すっかり毒を抜かれてしまい、もう何も言えないが
そのまま喰われた方がマシだった気がする。
ログインするとコメントを投稿できます。
2015/12/12
ビルの屋上にいる。
5階建てくらいだろうか、そこそこ高い。
なのに、フェンスは低い。
クルマ止めブロックほどの高さしかない。
なぜか中学生の頃からの友人と一緒だ。
冗談みたいに彼が私の肩の上に乗っている。
そして、彼は執ように重心を移動させる。
そのため私は、フェンスぎりぎりのところまで歩かされる。
眼下にコンクリートの地面が見える。
小さく見える自転車や自動車。
恐怖のあまり、臓器が縮みそうになる。
「あぶない。やめろ。やめろったら」
しかし、ますます友人はフェンスの外側へ重心を移動させる。
彼が何を考えているのか、さっぱり理解できない。
「あ、あぶない」
本当に落ちてしまいそうだ。
ログインするとコメントを投稿できます。
2015/12/02
寝ながら
とても怖い話を思いついた。
ただし
その話を語ったり書いたりすると
まるで怖くなくなってしまう
らしいのだ。
「なんだそれは?」
不審に思いながらも
起きようとすると
頭がぼんやりしてきて
話の中身が消えそうになる。
「これはいけない」
と
あわてて寝直して
なんとか思い出すのだが
なんとなく
どこか違うような気もしてくる。
「どうやら、このままでもいけないようだ」
ここはとりあえず
思い出せるところまで思い出して
とりあえず
書き留めておくしかあるまい。
そう考えて
とりあえず起きて
とりあえず書いたのが
この話。
やはり
怖くもなんともない。
ログインするとコメントを投稿できます。
2015/11/28
「電気設備の安全性については問題ないのですが」
帽子をかぶった担当調査員の男が言う。
「わずかですが、霊気が漏れているようです」
電気設備安全点検の調査は
電気事業法の定めにより実施される。
法令に基づき国に登録された電気設備調査機関が
電力会社からの委託を受け、一般住宅や商店を調査する。
(こいつ、なんだ?
副業で仏壇でも売るつもりか?)
不信感あふれる私の表情を見て、男は笑う。
「この仕事を長年やっておりますと、霊感が強くなるのですよ」
胸に写真入り調査員証のあるユニホーム姿の男の説明によると
電気と霊気は性質が似ているのだそうだ。
霊気が漏れる漏霊現象の痕跡は
室内にある分電盤の漏電遮断器にも表れる、と言う。
「具体的にはどのような・・・・」
「いや。はっきりしてなくて、なんとなくの感じなんですけどね」
ここは、なんとなく納得したフリをするしかあるまい。
「それで、その漏霊があると、なにか問題でもあるのですか?」
「いや。普通の状態の普通の人には問題ありません」
「・・・・普通でない状態だったり、普通でない人には?」
そこで男は青ざめた。
「し、失礼しました!」
男は脚立やら道具一式を抱え、あわてて立ち去った。
(すると、どこか普通でないところがあったのかな)
私は首をひねった。
あるいは、ちょっとひねり過ぎたかもしれない。
ログインするとコメントを投稿できます。
2015/11/20
悪い子は邪魔だな。
迷惑だし、役に立たんから、いらん。
そんな悪い子は、学校の校舎になってもらおう。
うん、それしかあるまいて。
こっそり連絡しておくとな、ある指定された日に
政府の役人か、政府の委託会社の怖そうな社員がな
黒くて丈夫な装甲車に乗ってやって来てくれて
悪い子を捕まえて連れ去ってくれるんだ。
そのまま公にされてない秘密の工場に運ばれて
服を脱がされ裸にされて
妙な液体入り水槽の中に投げ込まれる。
その妙な液体に丸一日も浸かっておれば
そのうち骨が柔らかくなる。
適当な頃に水槽から網みたいなのですくい上げられて
容器に入れられ、ベルトコンベアで運ばれて
ゴーン、ゴーン、と物凄い音のする大型機械の中で
引き延ばされたり、平らにされたり、切られたり削られたり
とにかく、あれこれ無慈悲な自動制御の加工を受ける。
そうすると、板になったり角材になったりしてな
十分に乾燥させれば、立派に建築資材として使えるようになる。
それらを改築や新築をする学校の校舎に用いるわけだ。
木目みたいに悪い子の顔の表情が残る場合もあって
そういう素材は校舎の目立つところに使うことになっておる。
踏まれたり蹴られたり、汚されたり傷つけられたりする度に
小さく悲鳴をあげる板もまれにあるそうだから
生徒たちへの悪い子になる抑止効果はバッチリだ。
さて、そろそろ連絡しようかな。
しかし、まあ、わざわざ連絡せんでも
他の誰かが困って、先に連絡しとるかもしれんがの。
ログインするとコメントを投稿できます。
2015/11/08
人混みを縫うように歩き続けていた。
ここがどこらへんなのか判然としない。
交差点で信号灯の色が変わるのを待つ。
横断歩道の向こう側の女と視線が合った。
見知らぬ美しき他人であった。
大切な瞬間が訪れたような気がした。
このまま別れたら必ず後悔する。
しかし、話しかける勇気も自信もない。
悩んだ末、女を尾行することにした。
気づかれてもいい、と思った。
話しかけるきっかけになるだろう。
横断歩道を渡ってから何か思い出したような
そんな素振りで女の背後にまわる。
夕暮れが迫っていた。
女は人通りの少ない路地裏に入って行く。
うるさいほどにハイヒールの靴音が響く。
ふと、反射音で周囲の位置を探るという
コウモリの習性を思い出す。
たとえそうだとしても、靴音をよける術すべはない。
だんだん辺りが暗くなる。
街灯ひとつなく、窓明かりすらない。
ハイヒールの靴音だけが頼り。
しかし、それが靴音などではなく
獣けものが噛み合わせる牙きばの音に聞こえ始める。
ひどく生臭い、いやなにおいがした。
ログインするとコメントを投稿できます。
2015/11/06
学校の怪談にまつわる話なんだけど
僕が通う学校にも七不思議があるんだ。
真夜中になると、グラウンドの真ん中に
戦前の旧校舎が建っているのが見える。
とか
昔のブルマー姿の女子生徒の腰から下だけが
渡り廊下を歩いていた。
とか
目を閉じて段数を数えながら一人で上がると
十二段の階段が十三段になっている。
とか
トイレの中で、ノックされて「入ってます」と言うと
「おれの胃袋の中だ」と返事された。
とか
音楽室のバッハの肖像画のカツラがはずれていた。
とか
理科室の骨格標本が肩をもんでいた。
とか
そういう変な話が六つもあるんだけど
七つ目がないのに、なぜか七不思議なんだ。
ログインするとコメントを投稿できます。
2015/10/10
花火見物の帰りであろうか。
浴衣姿の君と歩きながら
僕は夜空を指さし、説明している。
「あれは乳首座。
なぜなら、ふたつある」
君は無邪気に笑う。
「それじゃ、あそこの三つ星は?」
小さく三角形に並ぶ星を示す君。
パンティー座と陰毛座が浮かんだものの
残念ながら倒立していない。
額に巻く死装束の白い三角の布を連想させる。
しかし、それを言ったら
せっかくのムードが台なしだ。
適当な命名もできなくて
僕は言い淀む。
すると、君は振り向いて
「あれは三つ目座よ」
にっこり笑う。
ああ、なるほど。
君の額に光る、三つ目の目。
ログインするとコメントを投稿できます。