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  • 隣の恋人

    2015/12/30

    明るい詩

    僕の恋人 と呼ぶ人は 

    壁を挟んで すぐ隣に住んでいる。

     

     

    寝室も隣 台所も隣

     

    出入り口も ベランダも 

    二つ並んで お隣同士。

     

    なかなか すてきな 

    距離関係。

     

     

    いつも一緒じゃ 息詰まる。

     

    つかず 離れず 

    お隣同士が ちょうど良い。

     

     

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  • 笑えない

    2015/12/29

    暗い詩

    わたしは 

    あの人たちのように 笑えない 

     

     

    あの人たちのように 

    自然で 

     

    じつは 自然ではないのかもしれないけれど 

    ともかく 

     

    あんなに 自然な感じには 

     

    笑えない

     

     

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  • 夕暮れの雷鳴

    夕暮れの 夕立に 

     

    眠れそで 眠られず 

    ウトウトと まどろみつ 

     

    はて 何事か 

     

    思い出せそな 

    忘れし頃に 

     

    怒鳴られたよに 

    雷鳴の鳴る

     

     

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  • 消えたトランプ

    トランプが見つからない。

    二十年以上も前に買った「不思議の国のアリス」のトランプ。

     

    かわいらしくて素敵な絵柄だったから捨てるはずない。

    なのに、おもちゃ箱の中に入ってない。

     

    押し入れを掻き回したり、床板を剥がしたり 

    頭の中の記憶を掘り起こしたりしても出てこない。

     

    ウサギの巣穴に落っこちたの? 

    米粒より小さく縮んでしまったの? 

     

    それとも、首切り好きな女王様が 

    家臣や兵隊を大勢引き連れ、国外逃亡でもしたの? 

     

    はっ、まさかね。

    童話じゃあるまいし。

     

    どこかに隠れているはずなのだ。

    ほんのちょっとばかり意外な場所に。

     

    ああ、くやしい。

     

    不思議でもなんでもないはずなのに 

    消えてしまった、不思議の国のトランプ。

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  • 奇形児たちの徘徊

    2015/12/26

    ひどい話

    成長促進剤やら添加物の影響で成長異常児や奇形児が増えている 

    という噂である。

     

    しかし問題は、それらを放任したままにしておく当事者の 

    精神の異常であり、奇形であろう。

     

    などということを考えていたら 

    窓の外が騒がしい。

     

    共同ごみ置き場のごみの出し方がひどい 

    とのこと。

     

    やれやれ。

    身近にも徘徊していたか。

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  • 海を渡る君

    2015/12/25

    変な詩

    君はオートバイで海を渡る。

    船で渡っても、あんまり意味がないから。

     

    同じ理由で、君が乗る船は空を飛び 

    君が乗る飛行機は地中を潜る。

     

    しかしながら、それらにも深い意味はない。

     

    自転車で虹を渡ろうと、衛星軌道を進もうと 

    ほんのちょっと奇妙な印象を与えるだけ。

     

    そういう場所に宝は隠されていない。

     

    子どもたちは喜ぶかもしれないが 

    大人たちは紛らわしさに困惑するばかり。

     

    つまり、乗物とか移動手段なんか 

    なんだっていいのだ。

     

    スプーンに乗ってスープ皿の上を 

    渡りたければ渡るがいいさ。

     

    結局、どこにいてどうしていようと 

    君は君でしかないのだから。

     

     

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  • 置手紙

    2015/12/24

    ひどい話

    どうぞ私を捜さないでください。

     

    私はあなたから姿を消します。

    あなたの知らない場所へ隠れます。

     

    だから私を捜さないでください。

     

    ふたりが別れてはならない理由も 

    一緒にいなければならない理由も 

     

    少なくとも私には見つけられないのです。

     

    あなたの都合など理由にはなりません。

    私の都合が理由にならないのと同じです。

     

    もう会わないことにしましょう。

    それが、お互いのためになると思います。

     

    いいえ、私たちのためだけでなく 

    ありとあらゆるもののためになるでしょう。

     

    そんな予感がするのです。

     

    だから、この手紙を残します。

    けっして私を捜さないでください。

     

    もしあなたに見つけられたら 

    私は生きていけません。

     

    私はあなたを死ぬほど愛そうとしました。

    でも、愛がなくては死ねません。

     

    私は最後の女として生きます。

    あなたも最後の男として生きてください。

     

    さようなら。

     

     

      もう名前もいらない 最後の男へ

                      最後の女より

     

     

     

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  • 段ボール箱

    2015/12/23

    切ない話

    彼女は段ボール箱なのだった。

     

    宅配便とかで届いた荷物の梱包材を捨てもせず 

    部屋の片隅に溜めておいたら、生まれてしまったのだ。

     

    「困るなあ」

    僕が呟くと 

     

    「そうよね。困るわよね」

    波状の断面をゆがめ、彼女は悲しげな顔をした。

     

    途端に心がざわつく。

    「いやいや。早く処分しなかった僕が悪いんだけどね」

     

    しかし、このままにしてもおけない。

    なんとかしなければ。

     

    とりあえず、彼女の素材の段ボールについて調べてみた。

     

    19世紀イギリスにおいて、当時流行していたシルクハットの

    内側の汗を吸い取るために開発されたのだそうだ。

     

    また、腐食性ガスがわずかながら発生するので 

    電子部品の長期保存には向かないとのこと。

     

    由緒あるのはかまわないが、腐食性はいただけないな。

     

    「あの、私、出ていきます」

    僕の心を読んだのか、彼女の方から申し出てくれた。

     

    「そうかい。悪いね。そうしてもらえると助かるな」

    彼女のために玄関ドアを開けてやる。

     

    「大丈夫かい?」

    「・・・・大丈夫です」

     

    「段ボール箱だもんね」

    「ええ。段ボール箱ですから」

     

    そうして段ボール箱の彼女は出ていった。

     

    見送るために庭に出て、僕は曇り空を見上げる。

    雨が降っていないのが、せめてもの幸いだ。

     

     

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  • 折り紙

    2015/12/22

    空しい詩

    気まぐれに 

    鶴を折ろうとして 

     

    折り方をすっかり忘れていることに 

    今 気づいた 

     

     

    三角に折ったり 

    ひし形に折ったり 

     

    きれいにたたんで裏返したり 

    おしまいに 息を入れて膨らませたり 

     

     

    幼い頃 

    なにが面白くて折り紙をしたのか 

     

    と言うと 

     

    なんでもない一枚の紙が 

    ただ折るだけで 

     

    舟とか兜とか 人形とか飛行機とか

    いろんなものに変わるから 

     

     

    でも たとえそれが 

    どんな形をしていようと 

     

    やはり なんでもない 

     

    ただの一枚の紙でしか

    あり得ないのに

     

     

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  • 毒抜き

    2015/12/21

    怖い話

    追われている。そんな気がする。

    なんとしても逃げなければならない。

     

    そいつの裂けた口には鋭い牙が並んでいる。

    きれいな穴の列を頭蓋骨にこしらえるはず。

     

    そいつの歪んだ手にはおぞましい爪が生えている。

    傷口を開いて血まみれの心臓をえぐり出すはず。

     

    なのに動けない。足が重い。

    両足に黒く長いものが巻き付いている。

     

    背後から臭い息が忍び寄る。

    よだれのようなものがうなじに垂れた。

     

    「さて、どこから喰ってやろうか」

     

    思わず返事をしてしまう。

    「私は毒です。おなかを壊します」

     

    「ほほう、そうかい。では、まず毒抜きをせねばな」

    「・・・・そうですね」

     

    そうして、それから毒抜きなるものをされた。

     

    すっかり毒を抜かれてしまい、もう何も言えないが 

    そのまま喰われた方がマシだった気がする。

     

     

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