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2015/09/30
山には紅葉が敷かれていた。
空にはいわし雲が寝そべっている。
そして、谷川には丸木橋が架かっていた。
今、その丸木橋をひとりの山伏が渡ろうとしている。
すると、もうひとりの山伏が反対側から現れた。
どちらも道をゆずろうとしない。
大人げなく、われ先に橋を渡ろうとする。
ふたりの山伏は橋の中央でにらみ合った。
「戻れ。わしが渡るところだ」
「どけ。わしが先に渡るのだ」
どちらも金剛杖を振り上げ
にらんだまま引こうとしない。
「修験者なら、橋の裏でも逆さに歩け」
「なんと、こんな狭い谷すら跳び越せんのか」
「未熟者が! 戻れ。戻らぬか」
「口でどかぬなら、腕づくでも」
二本の金剛杖が中央でぶつかった途端、
丸木橋がポキリと折れた。
どちらの山伏も谷川に落ちてしまった。
川の底はあまり深くないらしく
どちらも痛そうに腰をさすっている。
そんなふたりを見下ろしているのは
一匹の大きなタヌキだった。
「まだまだ修行が足らんな」
山伏と同じように腰をさすっている。
「ふたりものられると、とても化けきれんよ」
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2015/09/29
裁判長が判決を下した。
「被告は無罪である」
傍聴席からどよめきが起こる。
女装した被告は満面の笑みをたたえ
不気味なしなを作って見せた。
裁判長は続ける。
「あきらかに被告は、いかがわしい外見と
いかがわしい言動を日常としている。
しかしながら、それをもって社会的秩序を乱す者
美意識を狂わせ不快感を蔓延させる者として糾弾し
社会的に排斥する権限は、遺憾ながら我々にない。
法の精神にのっとり、いかがわしきは罰せず
心情的に釈然とせぬものの、ここは笑って済ませたい」
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2015/09/28
卒業記念用のクラス別集合写真ができてきた。
なかなかうまく撮れている。
さすがプロの仕事。
ところが、これが心霊写真だと言うのだ。
いくら眺めてもわからない。
体育館で撮ったのだが
どこにも不自然なところはない。
異様な位置の腕や脚もないし
ぼやけた顔だって見つからない。
「人数を数えてみろよ」
同級生のひとりが言う。
いちいち人差し指で顔を押さえながら
同級生の顔を数えてみた。
「あれ?」
「なっ、おかしいだろ」
ひとり多いのだ。
どいつもこいつも同級生の顔なのに。
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2015/09/27
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2015/09/26
車道わきの歩道を歩いていて
蝶の交通事故を目撃したことがある。
春であったか夏であったか
一匹のその白い蝶は
低空をふらふらと飛びながら
クルマの行き交う車道の上を
何気なく渡ろうとしていた。
(ああ、クルマに当たりそうだな)
そう思った途端、本当に
走行中のクルマのフロントガラスに当たった。
蝶はそのまま折り紙のように
頼りなく舗装された車道に落ちた。
そして、その上を次々と
後続のクルマが通り過ぎていった。
これが事件になるはずもなく
何事もなく時は過ぎたわけだけれども
毎年どれほどの数の蝶が
交通事故で亡くなっているのか
想像してみるに
罪を感じない鈍感な罪人ほどに
文明は野蛮なものだ
という感慨に
しばし浸らぬわけにいかない。
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2015/09/25
仙人が滝に打たれてた。
毎日毎日打たれてた。
なかなか立派な滝だった。
なので色んなものが落ちてきた。
虫、魚、ヘビ、キツネ、クマ。
木の枝、石ころ、丸太、岩。
さすが仙人、ビクともしない。
金貨落ちても目もくれない。
ある日、裸の美女が落ちてきた。
「ああ、困ったわ」
仙人の首にしがみつく。
「ねえ、お願い。
あたしを助けてちょうだいな」
乱れに乱れた仙人の髪と髭。
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2015/09/24
そうさ
おいらは測量技師
測量するのがおいらの仕事
山の高さ 川の幅
海の広さも測ります
地球の直径 銀河の面積
なんなら宇宙の体積さえ測りましょう
無限に伸びる巻尺持って
なんでも入る計量カップ下げて
恋人の愛の深さ?
浮気の罪の重さ?
そういうの得意
まかせなさい
どこまでも潜れる潜水艦あるし
いくらでも載せられる天秤もあるよ
そうさ
おいらは測量技師
測量するのがおいらの仕事
あんたの心の広さと深さ
どれくらい?
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2015/09/23
何かを考えるためには
まず、その前に
その何かを意識せねばなるまい。
何も意識せずに考えるなど
墨のないまま絵を描こうとするようなもの。
そして
その何かを意識するためには
その何かと
その何かではない他の何かとの関係を
意識せねばなるまい。
つまり
その何かの意識の輪郭を求められる。
なぜなら
そうせねば
闇夜のカラスのごとく
その何かを
他の何かと混同せず
はっきり区別しながら意識できようか。
ましてや
さらに考えるなど
意識を意識する作業であろうからして
その何かを考えるために
その何かの考えではない他の何かの考えを
考えないわけにはいくまい。
さようなわけで
何かを考える場合、
その何かを考えただけで
十分に何かを考えたつもりになるのは
はなはだ了見が狭いと
言わざるをえまい。
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2015/09/22
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2015/09/21
なんということもない女だった。
いわゆる美人でもなんでもない。
目をそらせば済む問題だった。
けれど、それができなかった。
その女から目をそらせないのだ。
しかも、それだけではない。
見るだけでは我慢できなかった。
その肌に触れたくてしかたない。
その女へと腕と指が勝手に伸びてしまう。
「いや。
やめてください!」
いや。
だめなのだ。
やめられないのだ。
触るだけでは満足できない。
まだ何かしなければならない。
撫でる。
揉む。
「誰か、助けて!」
ふざけるな!
助けて欲しいのは、こっちの方だ。
その長い髪をつかむ。
女は思いっ切り悲鳴をあげた。
違う。
こんなんではない。
両手で女の首を絞めてみた。
苦しそうにゆがむ女の表情。
これだ。
しかし、すぐに女は息絶えてしまった。
なんということ。
これではおしまいにならない。
困った。
もっと何かしなければならない。
女の死体を切り刻む。
その骨を折る。
その肉を喰う。
ああ、違う。
こんなんでは満足できない。
気が狂いそうだ。
いや、もう狂っているのか。
ああ、わからない。
底がない。
誰か教えてくれ。
この女は、いったいどういう女なのだ。
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