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  • 舞踏会

    2008/09/30

    愉快な話

    舞踏会は華やかに
    今やたけなわ。

    美しく咲き乱れる踊り子たち。

    きらびやかなドレスを身にまとい、
    楽団の演奏に合わせてステップを踏む。


    「踊っていただけますか?」

    赤い郵便ポストの誘いであった。
    どちらかというと無難な相手。

    さっきまでクレーン車と踊っていた。
    というか、振りまわされて投げ飛ばされた。

    フロアにのびていたところを誘われたのだ。


    「ええ、喜んで」

    だけど、郵便ポストは踊りが下手だった。
    というより、まったく動かないのだった。

    まっすぐフロアに立っているだけ。
    そのまわりをグルグルまわるしかない。

    「ラブレターを入れてくださいね」
    「そうね、そうね。そのうちね」

    目がまわるばかりので
    途中、背中にまわったところで逃げてきた。


    楽団が演奏のテンポを上げた。

    「お嬢さん、オレと踊ろうぜ!」

    打って変わって、活動的な若者。
    大型バイクからの乱暴な申し込みだ。

    かなり激しいパートナーだった。
    押し倒されるんじゃないかと怖かった。

    エンジン音がうるさくて
    ろくに会話もできない。

    ガソリン臭や排気ガスも
    あんまり嬉しくなかった。

    ついにシートから振り落とされた。

    それに気づきもせず、
    自分勝手な彼は走り去ってしまった。

    もう大型バイクはたくさんだと思った。

    ヘルメットをかぶってまで
    踊りたくなんかない。


    腰をさすっていたら、声をかけられた。

    「一曲、いかがでしょうか?」

    いわゆる美形の紳士だった。
    頭髪から靴先まで完璧なのだった。

    土木工事用重機だとか爬虫類とかではなく、
    まともな人間の男性なのであった。


    「すみません。疲れてしまいましたの」

    あっさり断ってしまった。

    信じられないという表情の美形の紳士。
    その気落ちした背中を見送る。

    「ごめんなさい」

    小さな声で私はつぶやいた。


    本当はそんなに疲れていなかった。
    まだまだ踊っていたいのだった。

    でも、やっぱり駄目なのだ。

    踊る意欲が湧いてこないのだから。


    ありきたりのパートナーでは、もう。
     

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  • 吹き矢

    バスケットを抱え、家に帰る途中、

    森の木陰から吹き矢が飛んできて
    少女の白いうなじに刺さった。


    あっ、蜂かな。


    少女は驚いて片手をあげたけど、

    吹き矢に毒が塗ってあったので
    そのままの姿勢で倒れてしまった。

    大切なバスケットも地面に転がった。


    片手をあげたまま倒れたのが
    ちょうど受身の形になって

    彼女は顔を傷つけずにすんだ。


    あれ、おかしいな。


    倒れても、少女には意識があった。
    そういう種類の毒だったのだ。


    森の木陰から少年が現れた。

    へへへ。

    少年は、倒れた少女は放っておき、

    地面に転がったバスケットを拾いあげると
    掛けてあった布巾をめくった。


    ああ、いや。

    少女は泣きたくなった。

    おいしいケーキが入っているのに。
    生クリームたっぷりのケーキがいくつも。


    ケーキを一切れ
    少年は食べてみた。

    うまかったので
    もう一切れ食べてみた。

    それから
    さらにもう一切れ食べてみた。


    げっぷ。

    少年はバスケットを投げ捨て
    なにやら歌いながら森の奥へ消えた。


    日が暮れて、やっと少女は起き上がり、
    バスケットの中を覗くのだった。

    あーあ、やられちゃった。
     

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  • 棺の姫

    2008/09/29

    愉快な話

    毎晩、棺の中で眠る姫がいた。

    死んだように熟睡できるという。
    ベッドの上では眠れないのだそうだ。

    姫のわがままを王は許していた。

    ある朝、棺の中で姫は死んでいた。
    「なんと、このまま埋められるぞ」

    冗談好きな医師は首をはねられた。

    姫の亡骸はベッドの上に移された。
    王は泣き、白いシーツが濡れた。

    すると突然、姫が跳ね起きた。
    「だから、よく死ねないのよ!」
     

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  • 光の遊園地

    2008/09/28

    愉快な話

    子どもを連れて光の遊園地へ行ってきた。
    光と遊ぶためのテーマパークなのだそうだ。

    入場すると、まず蛍光コートを着せられた。
    これは暗闇でも光る特殊素材でできている。

    壁や天井や床まで鏡張りの迷路を通り抜ける。
    天地左右に合わせ鏡の廊下が見えた。

    内側が総鏡張りの正多面体の部屋に入った。
    正四面体から正二十面体まで体験した。

    同じく円柱の部屋、球体の部屋も。
    発狂する心配をしていたが、無事だった。

    息子も娘も平気で楽しんでいたようだ。

    ホログラフによる立体映像には感心した。
    大人向けに裸の美女とか映して欲しかった。

    残像現象を利用した浮かぶ絵も楽しかった。
    光るプランクトンの水槽もきれいだった。

    光には無限の可能性が秘められている。
    そんな神秘的な印象を受けた。

    やがて、閉園時間。
    日常に戻らなければ。

    受付のお嬢さんに蛍光コートを返却する。

    出口では従業員が電源スイッチを切っていた。
    明るかった園内の照明が次々と消えてゆく。

    寂しいものだな、と感傷的な気分になる。

    やがて、光の遊園地そのものが消えた。
    電源スイッチのパネルと従業員だけが残った。

    従業員の男は深々と頭を下げた。

    「ご来園、ありがとうございました」
      

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  • 光と闇

    2008/09/27

    切ない話

     
    神々がまだ幼かった頃のお話です。


    闇の女神はいつも暗く沈んでいました。

    そんな女神に光の神が興味を持ちました。

    (どうして暗く沈んでいるのだろう?)

    光の神はいつも明るく輝いていたのです。

    光の神は女神に近寄りました。
    すると、闇の女神は遠ざかるのでした。

    闇の女神は光の神が信じられないのでした。

    (なぜ明るく輝いているのかしら?)

    光の神は女神を追いかけました。
    闇の女神は光の神から逃げました。

    でも、光の神の足はとても速いのです。

    すぐに光の神は女神に追いつき、
    背後から闇の女神を抱きしめました。

    哀れな女神は悲鳴をあげ、
    そして、それが闇の女神の最期でした。

    あまりに強い光に照らされたため、
    闇の女神は消滅してしまったのです。

    光の神は呆然としました。
    わけがわからないのでした。

    そして、失って初めて気づくのでした。
    闇の女神を愛していたことを・・・・・・

    以来、光の神はほんの少し暗くなりました。


    神々がまだ幼かった頃のお話です。
     

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    • Tome館長

      2011/10/20 00:59

      「瞬きすれば、まぼろし」アカリさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2011/09/13 19:10

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 花嫁人形

    2008/09/27

    怖い話

    ある村に、人形が大好きで
    人形遊びばかりしている女の子がいた。

    人形のように愛らしい子だったが

    あまりに人形と親しみすぎたためか
    とうとう本物の人形になってしまった。


    両親の悲しみはいうまでもない。

    死んだわけでもないので葬式はあげられず、
    生きているわけでもないので嫁にもやれず、

    しかたなく床の間に飾っておくのだった。


    ある日、噂を耳にした町の長者が
    この人形を見るために村にやってきた。

    「これはこれは、なんともかわいらしい」

    町の長者は目を細めた。

    「この人形、わしにくれ。なっ、頼む」
    「申しわけないけど、うちの娘なので・・・・」

    「わかっておる。いくらでも金は出す」
    「そう言われても・・・・」

    「よし。わしの花嫁として迎えよう」

    断ってしまいたいが、貧乏暮らし。
    結局、長者の嫁に差し出すことになった。


    嫁といっても、長者には本妻がいるので
    妾ということになるが、仕方ない。

    神主を呼び、ささやかながら宴も張り、
    長者は花嫁として人形を手に入れた。


    さて、長者には息子がひとりいた。
    かなりの放蕩者で、父とは仲が悪かった。

    この若者が久しぶりに家に帰った途端、
    父の花嫁人形に一目惚れしてしまった。

    「父上、この人形を私にください」
    「なにをいう。これはわしの妾だぞ」

    「父上、恥ずかしくはないのですか」
    「なに。おまえこそ、この恥知らずが!」

    その夜、長者父子は大喧嘩を始めた。

    これを止めに入った本妻も巻き込み、
    障子は破れ、襖は折れ、悲鳴はあがり、

    もう大変なことになってしまった。


    翌朝、花嫁人形は消えていた。

    家の使用人たちが捜しまわったが
    どうしても見つからなかった。

    さらに、長者父子と奥方の姿も消えていた。


    ただ、見知らぬ女の子がひとり

    座敷で楽しそうに
    人形遊びをしていたという。


    「うふふ。
     一緒に朝ごはん、食べましょうね」
     

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    • Tome館長

      2012/06/03 13:51

      「Spring♪」武川鈴子さんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2012/06/02 19:33

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 花占い

     
    やわらかな春の風が吹いています。

    小鳥のさえずる美しい草原で
    女の子が花占いをして遊んでいます。


    「ひとつ、ふたつ、みっつ、・・・・・・」

    そのかわいらしい声。

    「好き、きらい、好き、・・・・・・」

    そのあどけない瞳。

    「大好き、大きらい、大好き、・・・・・・」

    飽きもせずに繰り返します。


    やがて、夕暮れになりました。

    「そろそろ帰るわよ」

    ママが呼んでいます。

    「はーい!」

    女の子は元気よくかけてゆきます。

    「楽しかった?」

    ママがたずねます。

    「うん。すっごく楽しかった」

    その無邪気な笑顔。


    女の子を乗せて扉が閉まります。

    乗り物は空に飛んでゆきました。

    夕焼け空にきらりと輝く一番星。


    翌朝、この星の住民は大騒ぎです。

    「これはむごい。信じられん」
    「ここにも。ああ、そこにも・・・・・・」

    「バラバラ殺人事件だ!」
     

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  • 発 病

    2008/09/25

    愉快な話

    おととい、息子が発病した。
    昨日、妻も発病した。

    そして、ついに今日、
    私まで発病してしまった。


    「もう、おしまいだ」

    われながら情けない声であった。


    「もう、いやだよ」

    息子がうしろ脚で立っていた。


    「もう、気が狂いそうだわ」

    妻の頭からツノが消えていた。


    親子そろって抱き合って泣いた。

    もう不安で不安でしかたがない。
    これからどうやって生活するのか。

    いくら悔やんでも悔やみきれない。
    あんなの、迷信だとばかり思っていた。

    だが、考えが甘かったのだ。


    とうとう人間になってしまった。

    食べた後、すぐに寝なかったから。
     

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    • Tome館長

      2012/05/31 16:28

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2008/09/25 21:20

      阿刀田高氏の「ショートショートの広場」にて、入選。
      選者が星新一氏だったら、落選かも。

  • 畑の沐浴

    ある年のこと、

    ひとりの農夫が
    鍬をかついで山の畑に着いてみると

    畑の真ん中に大きな木の桶が置いてあった。

    そして、その桶の中で
    見知らぬ若い女が沐浴をしていた。


    農夫は目を丸くした。

    「あんた、なにしとるんだ?」

    裸の女はにっこり笑った。

    「うふふ。見てのとおりよ」

    「ここは、おらの畑だ」
    「あら、そうなの?」

    農夫は、あいた口が塞がらなかった。


    あたりを見まわしても
    ふたりの他に人の姿はない。

    畑と雑木林と青い空があるばかりだ。


    「こんな大きな桶、どうやって運んだ」
    「さあ、どうやってかしら」

    「水はどこから持ってきたんだ」
    「さあ、どこからかしら」

    透けるような白い肌を見せつけるように
    女は体を洗い続けるのだった。


    「・・・・・・まあ、いいけどよ」

    農夫は諦め、畑を耕し始めた。


    畑の端から黙々と鍬を入れてゆく。

    桶のある真ん中を残して
    とうとう全部掘り返してしまった。


    「あんた、ずいぶん長湯だな」
    「あら、そうかしら」

    「それに、ずいぶんおかしな女だ」

    女はにっこり笑う。

    「どういたしまして」


    農夫は、おもむろに鍬を振り上げた。

    「ここは、おらの畑だ」
    「あら、そうなの?」

    「この桶に鍬を入れてもいいかな」
    「あら、だめよ」

    「いいじゃねえか」
    「よしなさいよ。だめだったら」

    「おら、もう我慢ならねえだ!」

    かまわず農夫は鍬を振り下ろした。


    女の鋭い悲鳴があたりに響き渡った。

    桶が割れ、水が畑にあふれた。


    農夫は呆気にとられた。

    桶も女の姿も消えてしまったのだ。

    あとには濡れた畑があるばかり。

    土に刺さった鍬を引き抜いてみると、
    刃こぼれが大層ひどかったそうだ。

    狐にでも化かされたのだろうか。


    さて、それはともかく、

    その年から数年間というもの
    この畑では豊作が続いたという。



      やれやれ、くたびれた。
      どっこいしょっと。
     

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  • 婆さんの話

    2008/09/23

    愉快な話

     
    ひどい目にあうぞ。それでも聞くのか。

    そうか、そんなに聞きたいか。
    しょうがないの。わしゃ知らんぞ。

    これは、わしがまだ子どもだった頃に
    わしの婆さんから聞いた話じゃ。

    ほんにその婆さんもな、
    この話だけは語りたくなかったようじゃ。

    でも、わしが一所懸命せがむもんで
    婆さんはしぶしぶ話してくれたんよ。

    そりゃもう、おっかない顔してな。

    で、その婆さんのおそろしい話はの、
    こんなふうに始まるんじゃ。


    ひどい目にあうぞ。それでも聞くのか。

    そうか、そんなに聞きたいのか。
    しょうがないの。わしゃ知らんぞ。

    これは、わしがまだ子どもだった頃に
    わしの婆さんから聞いた話じゃ。

    ほんにその婆さんもな、
    この話だけは語りたくなかったようじゃ。

    でも、わしが一所懸命せがむもんで
    婆さんはしぶしぶ話してくれたんよ。

    そりゃもう、おっかない顔してな。

    で、その婆さんのおそろしい話はの、
    こんなふうに始まるんじゃ。


    ひどい目にあうぞ。それでも聞くのか。



    そうかそうか。もう聞きたくないか。

    やれやれ。まったくもって、弱虫じゃの。
     

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