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2008/07/31
病院のベッドに僕が寝ていたとき、
僕の真上、天井のすぐ下に看護婦さんがいて、
吊り下げ扇風機みたいにくるくる回転していた。
「あの、そんなふうにまわり続けていたら、
そのうち目がまわりませんか?」
かすれた声で僕が尋ねてみると、
透き通るような白衣を着た看護婦さんは
回転しながら返事をしてくれた。
「あいにく目がまわったりはしないけど、
なんだか世界がまわっているみたい」
僕は、ちょっと微笑んでしまう。
「できれば、そんな平らな姿勢ではなくて、
もっと体をねじっていただけたら、
きっと、ここまで風が来ると思うのですが」
慣れ慣れしいけど、僕を許して欲しい。
なにしろ、生死の境にいるのだから。
「・・・・・・こう?」
素直な看護婦さんで良かった。
「ええと・・・・・・ああ、違います。
それとは逆にねじらないといけません」
「・・・・・・こうかしら?」
「ええと・・・・・・そう、それで結構です。
ああ、ここまで、いい風が来ました」
はっきりとは確認できないけれど、
せわしなく回転する看護婦さんの顔が
ちょっと微笑んだような気がした。
2008/07/30
やわらかな闇の底
小さな光の群
愛らしい瞳
夏草の向こう側
いつも君は無茶をする
僕の気持ちも知らないで
透けて肌が見えるから
川に落ちたかと驚いて・・・・・・
そんなふうに君は
いつも僕をこまらせる
だめだよ だめだよ
だめだったら
濡れた浴衣は着替えなきゃ
白いお砂糖 かけちゃうぞ
蛍 こいこい
この子は甘い
2008/07/29
イグアノドンが森へ帰ってゆく
長いのか短いのか
楽しいのか哀しいのか
よくわからない一日を終えて
イグアノドンが森へ帰ってゆく
夕暮れの赤い空が
その大きすぎる背中を
小さなシルエットに変えて
イグアノドンが森へ帰ってゆく
2008/07/28
顔をなくして しまったの。
どこかに落として しまったの。
さがしたけれど 見つからないの。
こまってしまって 泣きたいの。
でも 顔がないから 泣けないの。
あんたの言葉 思い出すの。
「おまえの顔なんか 見たくない」
あんまりだなって 思ったけど、
そんなこと 言わなくたって
もう あわせる顔が ないの。
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2011/07/03 00:32
「こえ部」で朗読していただきました!
2011/01/24 13:53
朗読していただきました!
ケロログ「しゃべりたいむ」かおりサン
2008/07/28
君の頬に縫い針を刺して
絹を裂く悲鳴をあげさせて
型紙からはみ出たら切り落として
髪と眉は一本残らず毛抜きして
まぶたなんか縫い合わせて
ただし片目は見開かせて目打ちして
耳たぶは折り曲げてアイロンかけて
唇は裁ち鋏で横に切り裂いて
鼻までめくり上げたらピン止めして
舌には洒落た刺繍を施して
ヘラでうなじに赤い筋つけて
肩を切り開いたらパッドを埋めて
両手の指なんか全部指抜きして
背中なんか雑巾みたくミシン掛けして
ヘソと乳首に金ボタンを縫い付けて
ふくらはぎと靴下を一緒にまつって
尻には物差し突っ込んで
そうして
血まみれの君を着てみたい。
2008/07/27
彼女、びっくり箱を開けて
びっくりして死んじゃった。
びっくり箱の中には、彼女の死体。
彼女、びっくりしてしまった。
のんきに死んでる場合じゃない。
彼女、びっくりして息を吹き返す。
「ああ、びっくりした!」
なんて人騒がせな、びっくり箱。
2008/07/26
「ねえ、お母さん。見て、あの人」
幼い娘が声を震わせ、指さした。
それは性別さえ区別できない人だった。
アゲハチョウに似た格好をして、
歩道にしゃがんで横笛を吹いていた。
その瞳のように美しい調べだった。
母親はしばらく黙って聴いていた。
それから娘の頭に手を置いて、
「向こう側に行ってしまった人よ」
娘は首を傾げる。
「道路の向こう側?」
「ううん。もっと向こう側」
「あの人工太陽くらい?」
「ううん。もっともっと向こう側」
「そんなのわかんない」
「そう。わかんないところ」
娘は心配そうに母親を見上げる。
母親はやさしく娘の頭を撫でながら、
「人を指さしちゃだめよ」
2008/07/25
酒の神が恋をしました。
その相手は恋の女神でした。
でも、恋の女神は恋などしません。
他人の恋心に火をつけるだけです。
憧れの神の世話にもなりません。
嫉妬の女神なんか会ったこともありません。
だから結局、酒の神は失恋したのです。
酒の神は、悲しみのあまり酒に溺れ、
酒樽の底に隠れてしまいました。
そんな哀れな酒の神に同情したのは
お節介な孤独の女神でした。
孤独の女神は、恋の女神を孤独にしました。
恋の女神はたまりません。
たちまち孤独に負けてしまって
飲めない酒を飲むようになりました。
そんな恋の女神の噂を聞いて、酒の神は
酒樽から嬉しそうに這い出てきました。
酒の神は、恋の女神の隣に座ると
その憂いに満ちた美しい横顔を眺め、
恋の女神の孤独に乾杯しました、とさ。
2008/07/24
ある日、頭に花瓶が落ちてきた。
割れたのは、頭か花瓶かわからない。
それからなのだ。
今日の次の日も今日になったのは。
目覚めたら、頭も花瓶も割れてなかった。
そりゃそうだ。
なにしろ今日の朝なんだから。
明日はどこへ行ってしまったのか。
一日中さがしたけれど見つからない。
だから、やっぱり今日もまた
頭に花瓶が落ちてくる。
2008/07/23
樹海に溺れてしまったら
鳥か獣に なるしかない
魚になったら おしまいだ
泳ゲルクセニ
ナゼ溺レタノ?
遠くで
君の声がする
樹海の底は 昼なお暗く
絡み合う 根と根と根と
這いまわる 粘菌
ケダモノ!
ケダモノ!
ケダモノ!
近くで
いやあな鳥の声