Tome Bank

main visual

Tome館長

m
r

Tome館長

CREATOR

  • 3

    Fav 1,204
  • 9

    View 5,857,958
  • p

    Works 3,356
  • 生 首

    2013/06/29

    ひどい話

    ある男がある女に惚れた。

    だが、
    女にはすでに恋人がいた。


    「ふん。それがどうした」

    男は女の恋人を殺し、

    血に汚れた手のまま
    力ずくで女を抱いた。

    それがよく見える位置に

    見開かれた眼の
    恋人の生首を置いて。


    「どうだ、悔しかろうが」

    男は幾度も幾度も女を抱いた。

    女は狂ったように泣き、
    男は狂ったように笑った。


    歯噛みもできぬ生首の
    そのまぬけな

    まぬけな顔。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 背中のナイフ

    わしの背中にナイフが刺さっている。

    このわしになんの断りもなく、
    いつ、どこで、誰が刺したのやら。

    近頃の、通り魔だかなんだか知らんが
    礼犠というものを知らんのかね。

    まったく迷惑な話だ。
    寝ようとしても、仰向けになれん。

    わしは血も涙もない守銭奴だから
    出血せず、シーツは汚れんのだけどな。


    それにしも、この傷は深いぞ。

    ほら見ろ。
    胸から刃先が出ておる。

    死んだとしても不思議ないぞ。


    なあ、お願いだよ。

    そこの君、このナイフ
    引き抜いてくれんかな。

    おい、なぜだ。
    なぜ逃げようとする。

    そう言えば、まだ君に
    金を貸したままだったかな。

    まさか、君じゃなかろうね。
    わしの背中にナイフを刺したのは。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • トロッコ

    一台のトロッコに男三人が乗っている。
    そのうちの一人が俺だ。

    目の前の二人は裸で抱き合っている。

    たくましい筋肉。
    日に焼け、汗ばんだ皮膚。

    片方の男と視線が合ってしまう。
    ひどく暑いはずなのに寒気がした。

    「俺に触れるなよ」
    一言注意しておく。

    「もし触れたら?」
    「おまえを刺してやる」

    なぜか手に万年筆を持っていた。
    そして、なぜかキャップが外れない。

    男はニヤリと笑う。
    「いいとも。刺してみな」
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 仁義なき賭場

    2013/06/25

    変な話

    世間から隔絶された空間において
    仁義なき賭場が始まろうとしている。


    まず、バニーガールが膝をつき、
    板の間に座る若い衆に札が配られる。

    彼らの背後には兄貴風の男たちが立つ。

    ただし、この兄貴風の男たちの顔は
    灰色の暖簾に隠されて見えない。

    いかにも高そうな背広を着ていながら
    その下半身はなぜか裸だ。

    また、片手に縫い針の凶器を持っている。

    すぐ隣に立つ男の股問に突き刺せる姿勢で
    博打をする若い衆を囲んでいる。

    いかさま行為や勝負の行方によっては
    血が流されるであろう事が推測され、

    義兄弟の強い絆を感じさせる。


    「よござんすか。よござんすね」
    と、壺振り師。

    「入ります」
    そして、賽は振られた。

    「丁」「半」「丁」「丁」「半」「丁」「丁」


    はて、最初に配られた札、
    あれはいったいなんだったのだろう?
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 行くところがない

    2013/06/23

    切ない話

    ホント
    どこへも行くところがない。


    森はとんでもないところだし、

    かと言って、池や沼では
    いくらなんでもあんまりだ。


    海にも山にも飽き飽きで
    バスも電車も乗る気になれない。

    砂漠やジャングル、こりごりで
    隣町さえ蜃気楼。

    よその星は遠くて億劫。

    せいぜい近所の公園でも
    散歩するだけ。


    恋人いないし、
    友だちは仕事と家庭で忙しい。

    遊べない友だちなんか
    もう友だちじゃない。


    退屈のあまり、居眠りすれば
    暗い顔の少年、放火する。

    メラメラ
    メラメラ

    炎に囲まれ、立ちつくす。


    ほらね。

    やっぱり、どこへも
    どこへも

    行くところがない。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 読書する少女

    2013/06/22

    愛しい詩

    美しい横顔、
    ゆるやかな姿勢。

    風にそよぐ長い髪。

    額から鼻先へと続く
    知的なライン。

    やさしい眉と
    真摯なまなざし。

    半分しか見えない唇が
    かすかに動く。


    額縁の肖像画さながらに
    窓辺で読書する少女の姿。

    世界から切り離された
    方形の画面。


    今のあなたには
    鳥の鳴き声も聞こえない。

    あなたを射る男の視線さえ
    感じない。

    ましてや私の心など。


    それほど夢中になって
    読んでいる。

    一冊の本を読んでいる。

    推理、冒険、恋愛、
    それとも物理学?


    いやいや。

    あなたなら
    どんな本でもふさわしい。

    たとえその本が
    いかがわしく

    大層淫らな内容であろうとも。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 陶器の犬

    大きな会場である。
    新商品の展示会であろうか。

    コンパニオンが笑顔で説明している。
    「食べるだけで水着が透けます」

    彼女が腕に抱えているのは陶器の犬。
    「さらに、この段階で腰が抜けます」

    画面に表示された折れ線グラフ。

    異国の兵器商人が首をかしげる。
    その折れ曲がったネクタイ。

    「まもなく第三会場が爆発します」
    高い天井から場内放送が響く。

    「なお、場内での浮遊は禁止されております」

    激しい爆音。

    千切れた腕に抱えられたまま
    割れた陶器の犬が吠える。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 闘技場

    2013/06/20

    ひどい話

    観衆は血を望んでいる。
    だから闘技場の土は黒い。


    闘いの相手は女であった。

    奇妙な仮面をかぷっている。
    そして、ほとんど裸だ。

    殺すのは惜しいと思った。
    だが、殺されるわけにはいかない。


    開始早々、女の剣を奪う。

    乳房をつかんで放り投げる。
    地面に押し倒し、股を裂く。

    弱い。
    あまりにも弱すぎる。

    なぜ観衆は怒らないのだ。


    いやな予感がした。


    女の仮面をはがしてみる。

    やはり、そうであった。
    奴らは知っていたのだ。


    この女が俺の妹だということを。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 廃線の駅

    2013/06/19

    怖い話

    ここは山の中。
    とうの昔に廃線となった駅。

    今は草木が茂り、錆びたレールを隠している。

    さきほど汽笛が聞こえたような気がしたが
    おそらく空耳であろう。

    脱線事故やら人身事故が頻発し、
    それら諸事情により使われなくなって久しい。


    もともとは炭鉱のための線路であった。
    草木に埋もれる前に時代に埋もれてしまったわけだ。


    駅のホームから下の線路に降りてみる。
    おそるおそる茂みを掻き分けて歩く。

    すぐにレールを見つけることができた。
    意外に原型を留めている。

    そんなに錆びてもいない。
    まるで、つい最近、列車が通過したような・・・・


    ふと、このレールの上に石ころを載せてみたくなった。

    今、石ころを載せたため、昔、脱線事故が起きた。
    歪んだ時空を運行する四次元鉄道。

    そんな想像をしてみたのだった。


    再び、汽笛の音を聞いたような気がした。
    それは空耳ではなかった。

    奇妙な鳥の鳴き声なのであった。
     

    Comment (1)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
  • 打ち明け話

    じつはあたし、人形なんです。

    その証拠に、ほら、肘も膝も球体関節。
    顎なんて、生まれたときから外れてるわ。

    背中には扉があって
    おなかには引き出しまであるの。

    頭の中は恥ずかしいもので一杯で
    ときどきこぼれちゃって困っちゃう。

    お洋服はたくさんあるけど
    和服だって少しはあるわ。

    でも、ひとりでは外を歩けなくて

    お付のものに両の足首を持ってもらって
    交互に動かして一歩一歩前に進みます。

    はらわたはないから
    なんにも食べなくていいし、

    なんにも食べないから
    トイレにも行かなくてもいいわけ。

    勉強なんかできなくても
    顔がきれいなら許されるの。

    動かなくても働かなくても
    可愛らしくしていればそれでよいの。

    ねっ?

    人形の生活も
    まんざら悪くないでしょ?
     

    Comment (2)

    • ログインするとコメントを投稿できます。

      投稿
    • Tome館長

      2014/03/27 15:08

      「こえ部」で朗読していただきました!

    • Tome館長

      2013/06/17 17:47

      「しゃべりたいむ・・・」かおりさんが朗読してくださいました!

RSS
k
k