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  • 殺人鬼

    2012/06/30

    怖い話

    「殺人鬼ですって?」


    見える者には見える。
    見えない者には見えない。

    そんな殺人鬼がいる。


    「信じられない」


    いると思う者にはいる。
    いないと思う者にはいない。

    そんな殺人鬼である。


    「誰か助けて!」


    救助を求めても虚しい。
    誰も助けてくれない。

    自分でなんとかするしかない。


    「お願い。殺さないで」


    哀願しても無駄である。
    殺人鬼を殺すしかない。

    殺されたくなければ。


    「・・・・・・殺しちゃった」


    殺人鬼は死んだ。
    あなたは生きのびた。

    すると、殺人鬼はあなたである。


    「きゃあああああ!」
     

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  • 猿の目

    2012/06/29

    怖い話

    僕は皆から変な奴だと思われている。

    落ち着きがなくて、コソコソしている。
    怯えて、オドオドしている。

    犯罪者のような印象を与えるらしい。

    実際、ただの犯罪者になりたいと思う。
    自首するだけで済むなら気楽なものだ。


    誰かに追われているというわけではない。

    付きまとわれているだけ。
    ただ見られているだけ。

    朝から晩まで、寝ても覚めても。


    誰から?

    きっと信じてもらえないだろう。
    見ているのは猿だから。

    そう。
    猿芝居の猿。


    ほら。
    君も変な奴だと思っただろ?

    でも、僕が猿から見られているのは事実だ。


    どこにいるって?

    ああ、今はわからないな。
    あいつは他人がいると姿を隠してしまうから。


    でも、いつもこっちを見ている。
    猿まねで変装したり、望遠鏡で覗いたり。

    僕がひとりなら堂々と姿を現すくせに。
    寝室とかトイレとか、墓地とかでね。

    いかにも軽蔑したような目で。
    歯ぐき丸見えの裂けるほど横に伸びた口で。


    あいつは顔に似合わず狡猾だ。
    捕まえようとしても必ず逃げられてしまう。

    幻覚じゃない。
    家族にも見えるのだから。

    おかげでホームレスさ。


    恋人にも見えた。
    途端に恋は破れたけど。

    無理もない。
    四六時中いつも猿に見られていてはね。


    しかし、なんなのだろう?

    あの猿は。
    あの猿の目は。
     

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  • ポリ袋

    2012/06/28

    暗い詩

    僕は
    そっちへなんか

    行きたく
    ないんだけど

    風小僧が手招きしたり
    風娘が背中を押したり

    あれこれ
    翻弄するものだから

    仕方なく

    突風に
    舞い上がったり

    つむじ風に
    クルクル回ったり

    そっちの方へ
    そっちの方へと

    吹き流され
    引き寄せられて

    もう

    地に足着かないまま

    どうにも
    こうにも

    戻れなくなってしまって

    なんとも
    かんとも

    やるせない気持ちに
    なってしまいながらも

    なんにもならない
    なんにもなれない

    なにをしているのかも
    よくわかんない

    袋小路の
    吹き溜まりの

    安っぽい
    安っぽい

    安っぽいポリ袋。
     

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  • 産院にて

    2012/06/27

    愉快な話

    「あなた」
    「よくがんばったな」

    「男の子よ」
    「おれにそっくりだ」

    「そうね」

    「おや?」
    「どうしたの?」

    「こいつ、頭に角が二本ある」
    「そうよ」

    「おれもおまえも角は一本なのに」
    「あら、足して二本じゃない」

    「そうか。なるほど」
    「そうでしょ」

    「だけどな、おまえ」
    「なによ」

    「おれたちの孫は、角が四本か?」
    「・・・・・・」 

    「おれたちのひ孫は、角が八本か?」
    「・・・・・・」

    「ああっ! 角が伸びてきた!」
     

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  • 「死」の考察

    2012/06/26

    論 説

    「死は私と関係ない。
     私がいるうちは死んでおらず、死んでしまえば私はいないから」


    悟ったように昔の賢人は語ったが、はたして本当だろうか。

    「死」と「私=生」は、さような小賢しい理屈通り
    きれいに分離されているものだろうか。


    年々老い、若さと力を失い、疲れやすくなり、意欲が減り、
    意識は薄れ、苦しく辛く耐えがたい痛み、そして・・・

    これでは、まるで
    生きながら少しずつ死んでいるようなものではなかろうか。


    「無」そのものと同様、「死」そのものを感じることはできぬとしても
    その影の冷たさ厭わしさは

    「私=生」の減少または衰退、あるいは
    虫食いの病葉の如きものとして実感せらるるはずである。


    ゆえに、死後ならともかく、完全に死ぬ直前まで
    「私=生」は「死」と無関係である、とは決して言えまい。


    物事は単純に割り切れない。

    残念ながら。
     

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    • Tome館長

      2013/11/11 21:54

      「しゃべりたいむ・・」かおりさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2012/06/27 12:30

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 短すぎる昔話

    昔むかし、

    あるところに
    おじいさんとおばあさんが

    いたのですが、

    そのうち死んでしまいました。


    めでたくなし、めでたくなし。


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 

    【鋭すぎる推理】


    「おまえが犯人だ!」

    「・・・・・・まだ殺してないんだけど」

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 

    【熱すぎる恋愛】


    「好きだ!」

    「私もよ。あああ・・・・・・」


    焼き鳥の
    串とトリ皮。

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 

    【怖すぎる怪談】


    おまえは

    すでに死んでいる。

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 

    【くだらなすぎる笑い話】


    お願い。

    笑って。

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 

    【もっと短すぎる昔話】


    昔むかし・・・・・・

    忘れてしまった。


    あほらし、あほらし。

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 

    【もっと鋭すぎる推理】


    「本当の犯人は、神だ!」

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 

    【もっと熱すぎる恋愛】


    「あああ・・・・・・食べちゃった」

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 

    【もっと怖すぎる怪談】


    この宇宙はね、

    じつは幽霊なんだよ。

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 

    【もっとくだらなすぎる笑い話】


    ちんこ。

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 

    【短すぎる未来話】


    未来みらい、

    おじいさんもおばあさんも

    どこにも
    いないのでした。


    おそろし、おそろし。

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 

    【さらに短すぎる昔話】


    昔むかし、

    地球には
    人類がいたのですが

    もう絶滅してしまいました。


    おろかし、おろかし。
     

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  • 勇者も楽じゃない

    さて、おれは勇者だ。


    買ったり拾ったり奪ったりした
    チンケな武器を携え、

    姑息とも言えるような
    怪しげな能力を身に付け、

    裏切らないよう洗脳されてるらしい
    信頼できる仲間も得て

    ひねくれた謎を解いたり、
    あまり芸のない怪物を倒したりの

    お定まりの苦労の末、

    旅の最終目的地である敵の城に
    とうとうやってきたわけだ。


    心優しい絶世の美女という噂の

    ええと、その
    ちょっと名前は忘れてしまったが

    つまり、なんとか姫が
    ここに囚われているはずなのだ。

    これから、そのお姫様を
    勇者様が救出することになっている。


    ・・・・・・とまあ、なぜか
    そういうことになっているわけだけどさ、

    ここまで来て
    いまさらなんだけどさ、

    なんだか
    かったるいんだよね。

    どうも
    やる気になれんのよね。


    だいたいだよ、

    世間の噂なんか当てにならないし、
    そもそも

    こんな悪の巣窟みたいなところに
    美女が囚われていたら

    どう考えたって
    無事でいられるはずないよな。


    うん。

    まず絶対に
    なんかされちゃってるよ。


    それに案外、

    彼女、本性あらわしてさ、
    結構よろしくやってたりして・・・・・・


    ふん。

    まあ、なんにせよ

    いまさら名誉とか出世とか
    めんど臭いだけだよな。


    あらかじめ用意されているという
    それらしき財宝だけ奪って

    どこか静かなところで
    のんびり寝て暮らそうかな。


    うん、うん。
    いいね、いいね。

    そうしましょう、そうしましょう。
     

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    • Tome館長

      2013/06/02 02:05

      「Spring♪」武川鈴子さんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/06/01 17:56

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 天 国

    2012/06/22

    変な話

    天国は楽しいところです。


    善人が亡くなると魂は天に昇り
    天国で天使と一緒に暮らすことになります。


    気に入られ好かれ愛され注目され
    感心され歓迎され褒められ称賛され

    撫でられ揉まれ抱かれ持ち上げられて

    気候は温かく、または涼しくて
    穏やかな日差し、心地好い風が吹いて

    ありとあらゆるおいしい飲み物があり
    ありとあらゆるおいしい食べ物があり

    また、飲んだり食べたりしなくても一向に平気で

    水中に潜ったり
    空中を飛んだり

    どこへでも行くことができて

    いつも楽しいことばかりで

    刺激があって面白く
    感動や感激の連続で

    なんでもわかるから尊敬され

    信頼され信用され
    意志や信念のままに実行され

    すべてを受け入れ、すべてを与え
    良い方向へ限りなく世界が広がり続け

    飽きることも疲れることもなく
    倦怠も憂鬱も苦痛も困難もなにもなく

    したくないことはしなくてもかまわなくて
    できないことはできなくてもかまわなくて

    もっとも望むままになんでもできるのですけれど

    それら喜びに満ちた出来事の数々が
    永遠のように繰り広げられ続けるのです。


    どんなことでも可能です。

    たとえば、もう一度生まれ変わって
    ふたたび地上に降り立つことさえできるのです。

    また、どんなことでも実現します。

    たとえば、もう一度死に直して
    地獄に落ちることさえできてしまうのです。


    このようなところが天国です。
     

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    • Tome館長

      2013/06/02 02:04

      「Spring♪」武川鈴子さんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/05/31 18:18

      「こえ部」で朗読していただきました!

  • 壊れた家

    2012/06/20

    空しい詩

    積み木の家

      チョンと押したら
       壊れてしまった。


    カードの家

      フッと吹いたら
       壊れてしまった。


    もともと家でも
     なんでも

       なかったんだけどね。
     

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  • ため息

    ハア・・・・ 

    ため息ばかり・・・・ 


    しあわせが 
    逃げてゆくかもしれないけど 

    逃げたくなるような 
    しあわせなら 

    そっと 
    逃がしてやろう。
     

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    • Tome館長

      2015/06/19 23:40

      「しゃべりたいむ・・」かおりさんが朗読してくださいました!

    • Tome館長

      2013/05/30 01:09

      「こえ部」で朗読していただきました!

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