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2011/04/29
「昔、ここに火力発電所があったんだよ」
わしは孫の未来に語りかける。
「じつに大きな建物でな、
もうあんな大きな建物は作れないだろうな」
わしのすぐ横で
未来は無言のままブランコを漕いでいる。
「わしも見たことないが、もっと昔は
どこかに原子力発電所というのもあったんだそうだ」
「うん。教科書に書いてあった」
まっすぐ前を向いたまま
未来が呟く。
開かれた窓の向こう
丘の上に巨大な風車がいくつも見える。
「今は、水力と風力と太陽光と地熱と潮力と・・・・・・」
「人力発電!」
「・・・・・・そうだな」
未来は怒ったように
人力発電ブランコを漕ぎ続けている。
せっかくの休日なのに
子どもは素直に遊べない。
老人も安楽に隠居できない。
どうしてこんなことになってしまったのか。
車輪のない家庭用人力発電自転車の
ペダルが重い。
2011/04/24
おい、おまえ。
なに読んでんだよ。
おまえだよ、おまえ。
これ、読んでるおまえ。
そう、おまえだよ。
とぼけた顔すんなよ。
あー、まだ読んでる。
「読むな」って書いてあるだろが。
だから、もー読むなって。
意味わからんのか、おめーは。
なに笑ってんだよ。
冗談じゃねーからな。
あっ。
それでも読んでる。
くそっ。
強情な奴だな。
こっちにも覚悟があるぞ。
読んだの、後悔させてやる。
なにもできねーと思ってるだろ。
ふん、読みが甘いんだよ。
とんでもねーこと書いてやるからな。
おまえの秘密ばらしてやる。
あっ。
おれが知らねーと思ってるな。
あめーぜ、おめーは。
あんな恥ずかしーことしといて
よくもまー平気でいられるな。
まーだ読むつもりか。
おまえ、いー加減にしろよ。
もー頭に来たからな、おれは。
どーなっても知らねーぞ。
いーか、書くぞ。
やめるなら今のうちだぞ。
おまえ、飲んで食って寝て
ウンコして小便して、屁ーこくだろ。
ああ、恥ずかしー。
なんて恥知らずなんだ、おめーは。
おいおい、まだ読んでるよ。
もー勘弁してよ。
すみません。
ごめんなさい。
もー読まないで。
あなた、後生ですから。
お願いしますよ。
それ以上読まれると
あたし、恥ずかしくって。
ま、まだ読んでる。
やめてー。
う、うそっ。
きゃー、死ぬー。
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2012/11/13 19:13
改作「聞くな」を「こえ部」で朗読していただきました!
【 聞くな 】
おい、おまえ。
なに聞いてんだよ。
おまえだよ、おまえ。
これ、聞いてるおまえ。
そう、おまえだよ。
とぼけた顔すんなよ。
あー、まだ聞いてる。
「聞くな」って言ってるだろが。
だから、もー聞くなって。
意味わからんのか、おめーは。
なに笑ってんだよ。
冗談じゃねーからな。
あっ。
それでも聞いてる。
くそっ。
強情な奴だな。
こっちにも覚悟があるぞ。
聞いてるの、後悔させてやる。
なにもできねーと思ってるだろ。
ふん、読みが甘いんだよ。
とんでもねーこと言ってやるからな。
おまえの秘密ばらしてやる。
あっ。
おれが知らねーと思ってるな。
あめーぜ、おめーは。
あんな恥ずかしーことしといて
よくもまー平気でいられるな。
まーだ聞くつもりか。
おまえ、いー加減にしろよ。
もー頭に来たからな、おれは。
どーなっても知らねーぞ。
いーか、言うぞ。
やめるなら今のうちだぞ。
おまえ、飲んで食って寝て
ウンコして小便して、屁ーこくだろ。
ああ、恥ずかしー。
なんて恥知らずなんだ、おめーは。
おいおい、まだ聞いてるよ。
もー勘弁してよ。
すみません。
ごめんなさい。
もー聞かないで。
あなた、後生ですから。
お願いしますよ。
それ以上聞かれると
あたし、恥ずかしくって。
ま、まだ聞いてる。
やめてー。
う、うそっ。
きゃー、死ぬー。
2011/04/23
夜空の月は
麗しけれど
湖面の月は
いと妖し
天地さかさま
あなたの心の
裏返し
寄らば割れ
触れなば濡れし
笹の舟
どんなにおめめ
凝らしても
小さな星は
見えませぬ
2011/04/15
宝物のように
大切にしていても
壊れてしまったら
もう使えない
たとえ見た目は
修復できても
心の棚には
もう飾れない
2011/04/07
うららかな春の
朝早く、
裏庭の小池に
気づかれないように
そっと近寄り、
さっと水面を
めくってみましたら、
すっと消えてしまいそうに
ささやかな
淡く切ない水の物語が
しっとり濡れて
にじんだ文字で
ひっそり書かれてありました。
それをこっそり
読んでしまった私です。
だから泣いているのです。
2011/04/03
普段おとなしい人が怒ると怖い、という。
怒り慣れてないくせに
我慢の限界を超えて無理に怒るものだから
つい羽目をはずしてしまうのだろう。
うちのお父さんが怒った時は
ひとりで黙って家を出て
かなり遠くにある川原まで行って
大きな石ころをいくつも拾ってきて
それを転がしも放り投げもせず
私の部屋の床にそっと並べるように置いて
裏返った声の変なアクセントで私に言ったのだ。
「おまえ、いい加減にしろよ」
うん。確かに怖いものはあった。
2011/04/02
ある日、学校からの帰り道が大きく曲がって
お花畑の中を通り抜けるみたいになっていた。
「わあ。これじゃ、まるで遠足だね」
タカちゃんが嬉しそうに言った。
「でも、家に帰れるのかな」
トシちゃんは心配そうに言った。
「だって、他に道はないもん」
わたしは普通に言った。
それから、みんなでワイワイおしゃべりしながら歩いた。
途中、変なおじさんが声かけてきたけど
「あっ、変なおじさんだ!」
って、タカちゃんが叫んだら、逃げちゃった。
本当に変なおじさん。
きれいな色違いの花があたり一面いっぱい咲いていて
帰り道がいつもよりずっと楽しかった。
そして、とても不思議なんだけど
みんなでふざけているうちに、気がついたら
わたしの家の前までついていた。
「みなさん、おうちにつくまでが遠足です。
気をつけて帰りましょう」
校長先生がおっしゃっていたのはこのことだったんだな
と私は思った。
なにを気をつけなければいけないのか
まだよくわかんないんだけどね。