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2015/02/26
キラキラ輝いて
まぶしくて
とても美しいのだけれども
ほんのちょっとの衝撃で
粉々に壊れてしまいそうな
そんなガラスの街のお話です。
そして
実際のところ
この美しいガラスの街は
ほんのちょっとの地震で
粉々に壊れてしまったんですけどね。
あはは。
そういうわけで
まことに残念ながら
これ以上
お話は先に続きません。
ガラガラ ガラガラ
ガッシャーン!
はい、おしまい。
2015/02/25
黄昏が迫っている。
もう遠目に人の区別も難しい。
「誰そ彼?」
語源の如く問わねばならぬ。
「私ですよ。お爺さん」
とんとどなたか分からない。
「もう家に帰りましょ」
帰る家などあったかの。
「すっかり日が暮れてしまいます」
カラスが鳴いた。
帰ろかな。
2015/02/21
鉄琴と木琴がケンカをしました。
互いに相手を叩くので
木琴と鉄琴の音がして
まるで仲良く合奏しているかのよう。
どちらも叩き疲れ
やっとケンカが終わると
閉じていたカーテンが開き
客席から万雷の拍手。
ふたりは顔を見合わせ
目配せすると
寄り添って
しっかり肩を抱き合い
深々と観客にお辞儀をしました。
キン コン カン!
2015/02/19
「別れましょう」
君は切り出す。
「なぜ?」
僕は尋ねる。
「飽きたの」
君は正直だ。
「秘密がある」
僕は嘘つきだ。
「興味ないわ」
君は正直すぎる。
「殺す」
僕は卑怯だ。
「勇気ないくせに」
君は鋭い。
「別れよう」
僕は諦めた。
2015/02/17
暗い道の先の向こうから
バンジョーを弾きながら男がやってくる。
「ハーイ!」
陽気な男だ。
おそらく酔ってる。
「ハーイ!」
俺も酔ってる。
片手を上げて挨拶する。
男はバンジョーを弾きながら
そのまま俺が歩いて来た道を行く。
俺はバンジョーを持ってないが
そのまま男の歩いて来た道を行く。
お互い、もう会うこともなかろう。
バンジョーの物悲しい音だけが
しばらく俺の耳に残る。
2015/02/13
恋人と待ち合わせていた。
だが、なかなか姿を現さない。
さすがに待ちくたびれてきた。
(まさか忘れたわけじゃ・・・・)
ほとんど諦めかけた頃、ようやく出現した。
「ごめんなさい!」
「まったく、遅すぎるよ」
「だって、仕事が忙しくて・・・・」
彼女の職業は死神だった。
「そんな仕事、やめちゃえよ」
「そうもいかないのよ」
いつも繰り返される会話。
「なあ、俺の番、そろそろか?」
「そんなの、教えられるわけないでしょ」
「でも、俺たち恋人同士だろ?」
「仕事とは無関係よ」
その美しいまでに冷酷な横顔。
「できれば、その、あんまり苦しめないでくれよな」
「ええ、そのつもりよ」
はあ・・・・
惚れた弱みか。
2015/02/11
素敵なことを見つけたら
忘れないうちに形に残そう。
だって
素敵なことは
そんなにポンポン生まれない。
消えてしまったら
跡形もない。
記憶だって
いつか消える。
それにそれに
その素敵なことは
もう二度と生まれそうもないような
すっごく貴重な
すっごく素敵なことかもしれないのだから。
2015/02/10
空の上には神さまがおられて
ウトウトと昼寝を始められた。
空の下には恐竜が生まれ
そこそこ繁栄していたが
そのうち絶滅した。
しばらくして人類が生まれ
なかなか繁栄した。
けれども
神さまが昼寝から目覚めた頃には
人類は絶滅していた。
「ああ、よく眠った」
神さまはウウウンと
気持ち良さそうに背伸びをなされた。
2015/02/08
山頂の城跡で笛を吹いていたら
山の神が姿を現した。
「なかなか良き音じゃ」
なんだか昔話みたいだな、と思った。
「フルートという名の異国の横笛です」
「もっと吹いてくれぬか」
私は喜んで吹き続けた。
山の神も喜んで聴き続けてくれた。
「おかげで、楽しかったぞ」
「ありがとうございます」
「お礼に、わしの笛をやろう」
別れ際に、山の神は竹笛をくれた。
私は恐縮しながら受け取った。
吹いてみると、なかなか素敵な音がする。
そして、たくさんの野鳥が集まってきた。
リスやウサギやタヌキまで。
どうやら寄せ笛らしい。
そりゃ、もちろん
嬉しいには嬉しいんだけど
ヘビやトカゲや虫けらどもまで
ウジャウジャ集まるのには
少々まいった。
2015/02/07
「おはようございます」
「それどころじゃない」
担任の教師が急ぎ足で通り過ぎた。
同級生たちも急ぎ足でやって来た。
「どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたもない」
やはり通り過ぎようとする。
「教えろよ」
「学校が崩壊するんだ」
おれも合流して急ぎ足になった。
「いわゆる教育現場の崩壊?」
「違う。校舎が壊れる」
「どうして?」
「知るか」
おれは立ち止まった。
同級生たちは廊下の角を曲がって消えた。
どうしたというのだろう?
みんな急ぎ足だったが、駆け足ではなかった。
ただの避難訓練か?
それとも、まさか予知能力?
わけがわからない。
もう校舎には誰も残っていないようだ。
仕方がない。
おれはバッグを開き
手製の時限爆弾を取り出した。