岡田千夏

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京都府京都市

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  • 爪出しふくちゃん

     近ごろ、ふくちゃんはまた甘えん坊である。どういう周期で甘えん坊になるのかわからないが、よく膝の上に乗ってくるし、上着の懐の中に入りたがる。子猫の頃とは違ってすっかり大猫になってしまったから、入ろうとしてもかなり無理がある。少し大きめの上着だとなんとか入ることができて、狭い中でどんな格好になっているのかわからないけれど、ゴロゴロ言って喜んでいる。ふくちゃんがそう言って喜んでいるので、私も頭や足でおなかを突っ張られながら、喜んでいる。
     ふくちゃんが甘えてくれるのは嬉しいのだけれど、ふくちゃんはアンポンタンなのですぐ爪を出すから困る。膝の上でちょっとでもバランスが崩れると爪が出る。上着の中に入りたいと襟元を爪を出して引っ掻く。入れるはずもないタートルネックのセーターを着ているときにも入れてくれと引っ掻くから、糸が飛び出してしまった。上着の中に入ったあとも、ことあるごとに爪を出す。おかげで引っ掻き傷がしょっちゅうできる。みゆちゃんはお利口だから、よっぽどのことがないと爪を出さない。膝の上でも、爪を立てないよう気を使いながらバランスを取っているのがわかる。
     それでもやっぱり、上着の中に入れてくれといわれると、断ることはできない。懐でゴロゴロ言わせていたら、お母さん、おなかの中になに入れてるの、と子供がびっくりしていた。


    (余談)「アンポンタン」という名前のパン屋が関東のほうにあるらしい。冗談かと思ったけれど、フランス語で「un pont, un(アンポンタン)」は「夢の架け橋」という意味だそう。しかし、「アンポンタン行こうか」とか「アンポンタン美味しいよ」とか、真顔で言えないだろうな…

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  • 台所栽培

     人参や大根の切り取ったヘタを水につけて、若葉を生やしている。そうやって台所で育てておいたベビーリーフを、ちょっとサラダに添えたり味噌汁に入れたりすると便利だと、インターネットのどこかのサイトで読んだからで、大根はどんどん伸びてつぼみができ、花が咲くかと思ったらその前に折れてしおれてしまったけれど、人参はきれいなぎざぎざの若葉がすくすく伸びてきた。見た目にも可愛いのでまだ食べずにいる。
     2月の終わりに、間引いたような小さなかぶに可愛い葉っぱがついているのを、スーパーで束ねて売っていたから、一つ残してかぶのスープにして、その残しておいたひとつをお猪口に水と入れておいた。ぴったりの大きさで、小かぶがお風呂に入っているみたいであったが、もともと生えていた可愛いクローバーみたいな形の葉っぱが出ると期待していたら、全然違った太い茎と葉が生えてきた。どうなるかしら、大根みたいにまたつぼみが出るかと思って毎日見ていたら、一ヶ月ほど経った頃、猪口のお風呂のまわりに、なにやら細かい白いものがぽつぽつ落ちている。よく見てみると、かさかさしていて足のようなものがたくさんついていて、小さな虫の抜け殻である。いつのまにか、かぶの葉っぱに何匹ものアブラムシがついていた。
     ずっと部屋の中に置いているから、どこかから入ってきたとは思えず、買って来たときに、洗ったはずが、卵でも残っていて、それがひと月のうちにどんどん増えたのだろう。
     さてどうしようか、はじめはすぐ庭に捨ててしまおうと思ったけれど、庭のほかの植物までがアブラムシだらけになったら困るので思いとどまった。どこかで天道虫を捕まえて、ちょっと来てもらおうか、それとももうかぶは諦めて、ごみに捨ててしまっても構わないけれど。
     大きいのや小さいのがいる。どんどん抜け殻が落ちてくるから、小さいのが脱皮して、すぐ大きくなるのだろう。どのくらいのサイクルで増えるのかしら。うえのほうの葉っぱの表面にいるやつは、偉そうに両側の触覚を右左に動かしている。
     あんまり観察すると情が移ってはいけないと思ったが、放っておいたらどんどん数が増えていって、かぶの葉っぱがみるみるアブラムシだらけになり、恐ろしい感じになってきて、そうも言っていられなくなり、水でじゃばじゃば洗い流してしまった。

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  • 猫のお引越し

     一月の終わりに引っ越したのだけれど、引っ越すにあたって、一番心配だったのは、やっぱり猫たちのことだった。ふくちゃんは前の家で1年と2ヶ月、みゆちゃんにおいては5年余りを過ごして、どちらも引越しははじめてである。
     環境の変化がどれだけ猫たちに負担になるかと思ったけれど、どうやら杞憂であった。さすがに最初の数日は、食欲が減っていたようだけれど、それもしばらくすると元通りになった(おかげでふくちゃんは相変わらずダイエットが必要である)。犬は人について、猫は家につく、などといわれるけれど、少なくともうちの猫に関しては当てはまらなかったらしい。
     前の家は日当たりが悪くて、冬の天気のいい日に外の気温が上がっても家の中はいつまでもじんじんと寒く、外のほうが暖かい、なんていうことがよくあった。実家には南向きの大きな窓があって、その窓辺に毛布を敷いたかごを三つ並べてあったのがいつも羨ましくて、新しい家は日当たりを最重視して探した。南向きの窓がある家で、その窓の前に猫タワーを据えた。
     それからもうひとつ、今度の家には滑りのいい引き戸が幾箇所かあって、みゆちゃんは自由にそれらを開けることができる(猫だから、開けはするけれど、閉めることはない)。前の家で、ふくちゃんだけが窓を開けることが出来て、賢いはずのみゆちゃんができないのは、腑に落ちないと思っていたけれど、重かった前の家の窓を開ける馬鹿力がみゆちゃんにはなかっただけだということがこれでわかって、納得した。

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  • やきもちねこ

     みゆちゃんは、ときどき赤ちゃんにやきもちを妬く。
     抱っこして寝かしつけているそばへ来て座り、じっとこっちを見ているから、遊んでほしいのだなと思うけれど、手が離せないから、ちょっと鼻の頭をなでてやったりして誤魔化していると、そのうちベビーベッドにひょいと飛び乗って、赤ちゃんの毛布とか枕に組み付いて蹴り出す。ただ遊んでいるのではなくて、わざと怒られることをしてこちらの気を引こうとしているのだということは、枕を蹴りながらときどきこっちをちらと見ることからわかる。みゆちゃんはお利口だから、赤ちゃんには決して手を出したりはしないけれど、そうやって枕やおもちゃに八つ当たりをしている。
     しかたがないから、赤ちゃんを片手に抱えたままみゆちゃんの好きな紐を持ってきて、猫トンネルの前でふらふら動かすと、ベッドから降りてやってくるが、ちょっと遊んだところですぐにふくちゃんが飛んできて遊びを奪ってしまう。みゆちゃんはふくちゃんが参入してくると、すぐに興ざめしてやめてしまうから、せっかく遊んでやろうと思ったのに、歯がゆい。(もっとも、猫同士ではよく一緒に遊んでいる。)
     あるいは、赤ちゃんを抱っこして椅子に座っていると、いきなり椅子の背もたれに上ってきて、布製のシートでばりばり爪をとぐ。そのまま座部へ転がるように降りてきて仰向けにひっくり返るから、おなかを撫でてやろうと手を伸ばすと、その手にじゃれ付いて噛んだり蹴ったりする力加減が強くて痛い。
     困ったみゆちゃんだけど、ベビーベッドの上に乗って振り返り、にゃあと鳴いているのを見ると、「ここに上ったらかわいがってもらえるのかにゃ」と思っているようで、たまらなくいじらしい。
     赤ちゃんがごきげんでにこにこしているのでスケッチしていたら、私のジーパンの膝のあたりに前足を掛けて、うーんと伸びをする。
     そのあと、すねたように向こうを向いたみゆちゃんを描きはじめたら、知らん顔をしているようで、片方の耳だけは、しっかりこっちを向いている。
     ところで、ふくちゃんは嫉妬するような素振りは全然ない。

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  • お日さま毛布

     久しぶりに気持ちよく晴れたので、お布団を干して、猫たちの毛布もかごも干した。
     じゅうぶん太陽に当ててから部屋に戻したら、さっそくみゆちゃんが、干したかごの毛布の中に丸くなって眠っている。
     子供の頃、晴れた日に干した布団を取り込んで、窓際に置いてあるところへ寝転ぶと、いい匂いがした。お日さんの匂いがすると言っていたが、あれは何の匂いなのだろう。夜寝るときにも、まだ太陽の暖かさが残っているような気がして、うつ伏せて顔を布団に埋めて寝た。
     みゆちゃんも、お日さんの匂いを感じて、丸くなっているのかしら。

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  • 「中華街のミケ」更新されました〜

    2010/03/12

    お知らせ

    横浜中華街のファッションブランド、ROUROUのサイトで連載中の「中華街のミケ」、vol.12がアップされました。どうぞご覧ください。
    http://www.rourou.com/whatsnew/diary_column/neko/10/0312_1155.php

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  • ご近所猫紹介

     1月の末に引っ越したのだけれど、新しい家の近所には、猫がたくさん住んでいる。いままでに目撃したのは、キジ猫、少し毛の長い大きな黒猫、小さな黒猫、黒白猫、洋猫風で少し人面なグレーの長毛猫、尻尾の先が二又みたいになった白に薄茶のぶちのある猫。
     家の周りをうろうろしていて、ガレージをリフォームしているときに、このうちの誰かが生乾きのコンクリートに塀の上から着地して、足跡をつけていった。(そのまま残しておいてもよかったのだけれど、さらに加工したから消えてしまった)。
     恋の季節になって、これらの猫が、昼も夜も表でぎゃーぎゃー鳴いている。二階のベランダで洗濯物を干していたら、裏の家との境目の塀の上を二又がにゃおうにゃおうと云いながら歩いていって、生垣のカイヅカにしゃっとマーキングのおしっこをかけると、塀の向こうへ降りていった。
     ここ数日は、もう鳴く声もだいぶ嗄れていたようだけれど、きょうはなりをひそめているから、恋の季節ももう終わりなのかもしれない。
     結果、暖かくなった頃に子猫がぞろぞろ出てきたらどうしようかしらと、少し気が重い。

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  • 試練の塩鮭

     ご長寿猫を目指すため、味付けの濃い人間用の食べ物は極力あげないようにしようと決めたのだが、きょうのお昼に塩鮭を焼いたら、さっそくふくちゃんがやって来た。
     みゆちゃんはほとんど人の食べるものに興味がないからいいのだけれど(唯一、卵だけはちょっと気になるらしく、スクランブルエッグを作ると、人が食べたあとのお皿に残った半熟卵の汁を、ちょっと舐めたりする)、ふくちゃんは、魚を焼くたびにそばへ寄ってくるから困る。塩焼きとか照り焼きなら、味のついていない身の中のほうをあげることができるけど、味噌漬けとかししゃもは少し塩辛いと思う。
     きょうの塩鮭も辛かった。ふくちゃんは、鮭のお皿の横にきちんと座って待っている。勝手に手を出したりすれば「だめ」と叱れるけれど、健気にただじっと見つめているだけだから、決まりが悪い。出来るだけ目を合わさないようにして、さっさと片付けた。
     もらえないとわかると、ふくちゃんは皿のそばを離れて、テーブルの端に置いてあった、次男のうさぎのガラガラをかぶっと噛んだ。みゆちゃんと違って単純で裏表のないふくちゃんだから、ただ遊んでいるだけなのだろうけれど、こちらの気持ちから、塩鮭をもらえなかった腹いせに、うさぎに八つ当たりしているように見えた。
     仕方がないので代わりに乾しカマをあげることにした。冷蔵庫から袋を取り出したら、かごの中で寝ていたみゆちゃんもぴょんと飛び出した。

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  • ご長寿猫の食生活

     このあいだの猫の日に開かれたある会で、向かいの席に座っていた人が、五つ並んだニャンにちなんで、五匹の猫が後ろを向いて並んだ絵を面白く描いておられた。ただ上手いとかではなく、味があって、五匹の猫のそれぞれが、うしろ姿であるにもかかわらず何かを語っているような表情の豊かさがあったので、その人に、猫がお好きなんですかと聞いてみたら、子供の頃から、数年前に最後の猫が亡くなるまで、絶えず猫がそばにいたのだという返事で、大いに納得した。
     最後の猫が亡くなってからは、もういまから新しく飼ったのでは、どちらが先に逝くかわからない、猫があとに残ってしまっては困るからという理由で、もう飼わないのだと言った。しかし、そういう猫に縁深い人は、猫と関わらないでおこうと思っていても、猫のほうからやって来るもので、また何かしら、運命の出会いがあるのではないかしらと考えたりする。
     その最後に飼った猫が、25年も生きたという。隣に座っていた人が、長生きした秘訣は何ですか、と聞くと、事故や伝染病をふせぐために室内飼いにしたことと、食事は人間の食べ物はあげないで、キャットフードとささみだけにしたからかしらね、という話だった。
     人間の食べ物は猫にとっては味付けが濃いから、あまりあげすぎると腎臓を悪くするようだ聞く。この天寿を全うした猫氏の食事の献立は、我が家でも大いに参考にしたい。だからふくちゃん、今夜のおかずが鰆の味噌漬けであっても、ねだりに来ちゃいかんよ。

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  • 草花スケッチ

     子供が庭で草花を摘んで来てくれたのでスケッチした。草花といってもただの雑草なのだけれど、スケッチすると細かいところをじっと見るから、小さな花のがくのつき方やおしべの並びが面白かったり、道端に咲いているときには小さすぎて気がつかなかった花びらのかたちが実は可愛らしかったりする。
    もともとが小さな花であるうえに、子供だからあまりに茎を短く折ってきているので、エスプレッソのカップに入れたら、ふくちゃんがさっそくやって来て、イネ科らしい細長い葉っぱの草に房のようについた花の先のほうを、むしゃむしゃ食べてしまった。

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