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    Works 225
  • くろのいし8/13

    2011/06/05

    maro絵本

    ずいぶん走っただろうか。
    しばらくすると、 景色がひらけた。

    そこには小さな湖があった。
    これはもしかして、さっき見たような、
    人が溶けてできた湖だろうか?
    湖の水はとても透きとおっていた。

    僕は気になっていた。
    僕の口から何度か出てきた黒いカタマリ。
    イヌのウェイトレスはこのカタマリを
    トンカチで壊していたが...。
    僕は大きな口を開けて、この湖をのぞきこんだ。
    「のどが変なのかなぁ。」

    さらに湖に顔を近づけ、 口の中をのぞき込むと、
    僕ののどの奥に、 黒い階段が続いていた。

    「なんだこれは?」

    この先には一体何があるんだろう。
    ...と、さらに湖に顔を近づけ、 階段の先を見ようとした。

  • くろのいし7/13

    2011/06/05

    maro絵本

    そして、何気なくイヌのウェイトレスの方を見た。
    彼女はクルクルとよく動いていた。
    しばらく、ぼんやりと見ていると、彼女の横に、
    あの黒いカタマリがびっしりと入った バケツが置いてあることに気がついた。

    よく見ると、彼女は時間を見つけては、 その黒いカタマリを1つ1つトンカチで壊していた。
    ふいに彼女は顔を上げた。
    どうやら僕が彼女を見ていることに気がついたようだ。
    「私、いつもこうしているの。」
    と僕の方を見ながらそう言い、ニコリと笑った。


    「そうそう、あなた。
    あのキツネさん...全然悪い人 じゃないんだけどね、
    さっきあなたのこと 落ちこぼれだってみんなに話をしていたわよ。」

    「もちろん私は、きっとあなたはそんな人じゃないって いったんだけどね。
    まあ、気にしないことね。フフフ。」

    気がつくと僕は飛び出していた。
    とても気分が悪い。
    「ペッ。」
    また僕の口から黒いカタマリが出てきた。

    それでも僕は走り続けた。
    もう何も聞きたくなかった。

  • くろのいし6/13

    2011/06/05

    maro絵本

    「あー、見えてきた見えてきた。あそこですよ。
    もうみんな集まってるみたいですねえ。」

    そこには、キチンとした洋服を着た、 ネズミとイタチがいた。
    きつねはよいしょと腰を下ろし、懐からメガネを とりだし、メニューをながめはじめた。
    しかし、すぐにメニューをとじ、ウェイターに
    「いつもの4つ。」と言い放ち、
    ネズミとイタチに向かって話しはじめた。

    「あんたはよーやってますぜ。
    でも、あそこにいる ウェイトレスときたら、なーんにもできやしない。
    あいつはもともとやる気ってのがないんですね。
    ここのシェフもみんな言ってますよ。
    私もちょっとした店で、たくさんの人をやとってる 身ですからね、あれは本当に使えませんよ。

    私が若い頃なんて、こんな甘いもんじゃなかった。
    私は人よりよっぽど出来が悪かったんですよ。 でも今では...。」

    イタチもネズミもウンウンと うなずいている。
    僕は、隣に座っていたネズミに そっと
    「誰のことを言っているの?」と聞くと、
    「あいつだよ。あのイヌのウェイトレス。 ほんっとに役にたたねぇなあ。」
    と、指をさしながら答えた。

    すると、一生懸命働いているイヌのウェイトレスがいた。
    キツネはまだあのウェイトレスの話を続けている。
    僕は気分が悪くなり、せきこんだ。

    ゲホ...ゲホゲホ......ペッ。
    黒いカタマリが口から出てきた。

    「何だこれは。」
    僕はそのカタマリを急いでポケットに入れ、 席を立った。

  • くろのいし5/13

    2011/06/05

    maro絵本

    「この辺にある湖はすべてこのように人が溶けて
    できているんです。」
    きつねは言った。
    「でもまあ、彼女達はもうかげも形もありません。
    私はねえ、生まれてから何にも残すこともなく、
    あっという間に消えてしまうような、
    そんな人生は送りたくありませんねえ。」

    きつねは吐き捨てるように言うと、
    「さ、そろそろ行きましょうか。」
    と何もなかったように歩き始めた。

    僕は少し嫌な気持ちになった。
    でも、「へえ。」と、作り笑いをした。

    ゲホッゲホッ。
    僕は少しせきこんだ。

  • くろのいし4/13

    2011/06/05

    maro絵本

    僕が聞くと、彼女は少し微笑んでから、こう言った。

    「私はもうじき消えてしまうの。
    それははじめから決まっていたこと。しかたないの。
    でも、消えてしまう今になって、
    この世界がどんなにすばらしいか感じられるように なったわ。
    太陽や、風・雲・月...キラキラしてまぶしいの。
    私は消えてしまうけれど、この世界はずっと続いて ゆくのね。
    ずっとずっと見ていたい...。

    でも、きっと終わりが近づいた今だからこそ、
    本当に美しいと感じられるのだわ。
    そんな光の一つ一つに気がつけた私は幸せ。
    私、生まれてきてよかった。
    でも私、何も残さず消えてしまうの。
    悲しいの...悲しいわ...。」

    この人はなんてきれいなんだろう。僕は思った。
    彼女の涙もキラキラと揺れている。
    彼女は悲しみも幸せも、両方受け止めて、
    もうじきこの湖になってゆく。

    僕はもう彼女に声をかけることはできなかった。
    ...彼女が消えてしまうまで、ずっと目が離せなかった。
    僕はこの世の中で、とても小さな、でも何よりも尊い、
    そんなものを見た気がした。

    僕は湖をのぞき込んだ。
    湖は、底が見えそうなくらい澄みきっていて、
    その水面には、僕の顔がゆらゆらとうつっていた。

  • くろのいし3/13

    2011/06/05

    maro絵本

    と、そのとき、
    「あれ?どうしたんです?道にでも迷ったのですかな?」
    僕はどんなにこの言葉に救われただろう。

    顔を上げると、キチンとした身なりのきつねが立っていた。
    「こんなところに人が来るのは珍しいですね。
    立ち話もなんですから、ご飯でも一緒にいかがです?
    今、僕の知り合いがやっているレストランに 行くところなんです。」

    僕はついていくことにした。
    僕は彼がいなきゃ、不安におしつぶされて、 立つこともできなかっただろう。

    「今向かっている店は、名のあるレストランでしてね、
    そこのシェフは私の友人なんですよ。
    いつもお世話になっているんですよ。ハハハ。
    私の会社の従業員もよく使わせてもらっているんです。
    少しここから距離がありますが、そこの料理は絶品 なんですよ。」
    きつねはしゃべりながら、機嫌よく、 フンフンとリズムをとりながら歩いていた。



    しばらくして、
    「...しいの。...しいわ。」
    声が聞こえる。
    それはとても小さな、今にも消え入りそうで、 でも美しい歌うような声だった。

    「ちょっと見に行ってもいいですか?」
    きつねに聞くと、
    「ええどうぞ。」
    と、きつねは愛想よく答えた。

    僕は声をする方に近づいた。
    すると、湖の真ん中に、透き通った女の人が顔を出し、 お日様に向かってゆれていた。
    「この湖は私の涙。私も一緒にどんどんとけて、 この湖の水になるの。
    悲しいの...悲しいわ...。」
    彼女は独り言のように言った。

    「あなたはなぜこんな姿なのです?」

  • くろのいし2/13

    2011/06/05

    maro絵本

    ドドドドドド!

    「?」

    振り向く間もないまま、 僕は細い道に押されていく。

    「何だ?待ってくれ。僕はまだどっちに 行くか決めてないんだ。」
    周りを見ると、たくさんの羊たちが、 すごい勢いで細い道に流れ込んだ。

    そのたくさんの背中に僕は運ばれ、 太い道が遥か遠くにやっと見えるくらいの 場所まできてしまった。
    もう戻るには遠すぎる。


    僕を運んできたたくさんの羊たちは、 それぞれの囲いに帰っていった。
    この道を引き返した方がいいのか、 進んだ方がいいのか...。
    僕はどっちにも決められず、 道ばたに座り込んでしまった。

    このままずっと誰もこなかったらどうしよう。
    僕はひとりぼっちになってしまった。

    僕はあの太い道を歩くたくさん人たちの落ちこぼれ なんだ。

  • くろのいし1/13

    2011/06/05

    maro絵本

    突然、見たこともない道のど真ん中に僕はいた。
    道はまっすぐ続いている。
    ふりかえっても、まっすぐな道が続くだけ。

    「なんでこんなところにいるんだ?僕...」

    仕方ない。僕は進んでみることにした。

    気がつくと知らない人たちが僕の周りをまっすぐに
    歩いていた。
    だんだん人は多くなっていく。
    「あ、二手に道が分かれている。」
    太い道と細い道。
    周りを歩いている人たちすべてが、 太い道に向かって歩いている。

    「細い道には何があるんだろう。
    行ってみたいけれど、他の人と同じ方が 安心だし...どうしよう。」

  • カガミ

    私は数年前、父を憎んでいた時期がある。
    そんな私は、そのことで自己嫌悪しながら
    本当に傷ついて、心がものすごく痛かった。

    そんなとき、無意識にしていたのが、
    家族や友人などに一方的な贈り物。

    そんなことをすることで自己満足したかったという、
    恩着せがましいひどい理由。
    そして、相手にとって
    『いてほしい存在』になりたかった。

    鏡みたいなもんで、自分が人を憎んでいると、
    周りの人も理由もなく私を憎んでいるように感じるし、
    人に優しい気持ちをもつと、
    相手もそう思ってくれてるように感じた。

    相手の気持ちを直接聞くこと以上に、
    他の人も優しい気持ちを
    もってくれているという妄想が、
    『私の周り、敵ばっか!』
    って気持ちが、
    『そんな嫌な風には思われてないかも?』
    に変わってちょっとホッとした。


    相手の反応に関わらず、
    人を本当に好きだったり大切にすることで
    結構味方に見えくるもんで、
    それでやっとホッとできた私…


    今回はそんな話。

  • ナミダをためる

    2011/06/03

    maro日記

    もし一生分の涙をためたとしたら、
    どれくらいの量になるだろうか?

    悲しかったり、嬉しかったり、
    悔しかったり、ホッとしたり、
    いろんな感情の波が涙になってこぼれていく。

    そんな涙を瓶に集めてみる。

    きっとその涙の量が、私の一生分の
    感動なんだと思う。

    たくさんたくさん心を動かして、
    たくさんたくさん涙を流して、
    私は生きていたい。

    いろんな感情をたくさん感じることが、
    私にとっての『生きる』ってことだと思うからね!

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