ロドリゲス出版

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  • 松井須磨子のこと 森茉莉

    2011/07/05

    メモ

    大正何年であったか、松井須磨子が「復活」のカチュウシャを演った。
     須磨子のカチュウシャは大当たりで、東京公演を打ち上げると須磨子は「復活」をひっさげて、多くの地方の都市を廻った。須磨子の声は一寸太かったが可哀い、魅力のある声だった。
     彼女の、(カチュウシャ可哀いや別れの辛さ、せめて淡雪溶けぬ間に、神に願いをララかけましようか)の歌は全国で歌われ、酒屋の小僧は酒や醤油を届ける自転車を走らせながら、それを歌った。
     池之端の納涼博覧会でも、小屋仕掛けで「復活」が演ぜられた。
     須磨子というと私はマリリン・モンロオを思い出すのである。
     この二人は我儘で横暴を極めたが、しんは可愛い女であった。須磨子は芸術座を統率している島村抱月の溺愛をいいことに、我儘の限りを尽くしていたので、抱月が肺炎で急死した後、それまで怒りを押さえていた座員が反旗を翻し、居たたまれなくなって、芸術座の二階の梁に緋縮緬のしごきをかけて、死した。
     モンロオは自分勝手であった上に始終遅刻をするので監督に叱責され、一座の人々も冷たく当たるようになったので、これも自殺した。
     モンロオが棺に入れられる時、いつも彼女の顔を知っていた老人が、最後の化粧をしたいと、申し出た。その老人は、モンロオが我儘勝手にふるまっていても、可愛い気持の女であることを、知っていたのであろう。
     私は須磨子とモンロオのように可愛らしい女は余りないと思う。

    ベスト・オブ・ドッキリチャンネル (ちくま文庫)

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