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文学・文芸 > 小説
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Comment エクス・アン・プロバンスの石畳を歩きながら、理解者を突然失った彼の悲しみを想う。
失踪宣告から七年、君の祭壇に青いバラの花束を供えよう。受け入れることが生きている僕がしなくちゃいけない事。独りになってもね。
親愛なる君へ
メリークリスマス!!
サント・ビクトワールの山をながめながら
三太より。
アトリエの隣の部屋。ベットの横に脱ぎ捨てられたフランネルのパジャマ。抜け殻の様だ。折り曲げた足を延ばせばそのまま歩き出す。
君は何処へ行った。気晴らしの散歩か。朝市の後、君の好きなマザランの四匹のイルカでも眺めてる?そろそろモミの木を買いに行かなくちゃね。君の分のキリマンをキャビネットボードの上に置くよ。
『どうして萎れたオッパイに骨なの?』
『ーーーーーー』
『お●ん●んの下に仏様を描くなんてマズくない?』
『それとこの数字は何?』 君は矢継ぎ早に僕を責め立てる。
『これは版画じゃなくて絵画って言われるわ、きっと落選よ』
君が僕のスタイルを好きじゃないって事は知っているけど変えられない。人に左右される事じゃないからね。
僕は独り自分の世界に閉じこもる。
いつか国立の美術展覧会に出品するつもり。もうタイトルは決まっているんだ。
”きっと天使は舞い堕ちる”ってね。
君と出逢った頃からずっと放ったらかしだった奴なんだ。
君の言葉を反芻しながら、僕はトイレットペーパーをミキサーにかける。原版を作って製作しておけば、エンボス版画でいいだろう。アーティストプルーフとして、いや、実験(エクスペリメント)として2部目は無彩色のままこのペーパー色のまま固めてしまおう。手彩し過ぎるとゴタゴタ云う輩がいるからね。
『これはウチでは受け入れられません』って具合にね。
たっぷり80リットルの溶解ペーパーの出来上がり。想い出のモノを混ぜ合わせる。君を家まで送り、終電に乗り遅れた僕が夜を明かしたあの湘南の海の砂をパウダーにする。枯葉を一枚。真っ赤なトウ・シューズを履いた君の写真を撮った場所、北緯139度に舞って来たやつ。最後に君の好きだったブラディマリーを一滴、、、。
この位にしよう。絵肌がグレイになっちまうからね。制作方法まであれやこれや〆付けられるのには辟易だけれど、、、。これは全く社会性の欠片もない個人的行為。作品って呼ぶのものおこがましい。こいつは僕の子供達なんだ。
僕は冷えたコーヒーを啜り、庭先の葉っぱの落ちた木々を眺める。季節外れのムクドリの雛が一羽、時々顔を出してはキョロキョロ辺りを覗っている。アマデウスを宝物の蓄音機にかける。ピアノ協奏曲第17番。
『アダムにイブ、コーランにタナ、空に夢想、、、。あなたらしいわね』 君は腫物を針でつく。
『この形はきっとあの国でしょう?』 正鵠を得た批評家のひとり。僕の微かな祈りを君は容易く破る。
溶かしたガラスみたいにドロドロになったカミを耐火石膏の原版に流し込む。メッシュを掛けローラーでゆっくり水分を押し出す。
『この堕天使はあなた自身ね』
『ーーーーーー』
『人間は死後再生されるかしら、、、?』 積みあがった概念が裸になって僕は恥ずかしくなる。秘密は閉じられたままがいい。
『わたしはヴィンセントをどうしても好きになれないの、あの強い色の塊におそわれそうになるから、、、』 押し出された液体がボタボタと零れて広がる。
『やっぱり私は明るくて爽やかな感じがいいわ』 混在する汚れたモノだけが絞りだされます様に。
『あなたもきっと変わるから大丈夫』 祈りと希望だけがここにとどまりますように。
『ゾラを失ったセザンヌみたいに、突然、ね』 見る人皆に明日が残ります様に、、、。
僕は262文字を呟きながらひたすら手を動かす。4度目の演奏を繰り返す協奏曲は2楽章からアルグレットに変奏した。ムクドリが空腹を紛らすみたいにキュルキュル鳴き出す。
『ねえ、ここ触ってもいい?』 君は保護板のアクリルの上に描いた文字を指でなぞる。ガラス樹脂でランダムに描いた透明文字。
『水飴みたいね、舐めてもいい?』 時々君は予測不能。
『イヤらしいけど、これはダメよ。写真に上手く写らないでしょ。これを見に来た人にしか判らないもの』 そこが僕のレジダンスなんだよ。バーチャルじゃない本物のね。舌と指先で感じてほしいんだ。もし君が光を失ってもね。科学が感覚をダウンロードできるまではね。完成する頃僕はもう死んでいるだろうけど。
『ああ、このフレームの感じは好きよ、くねくねしているところがいいわ。この割れ目もね』 僕の行為を喜んでくれるならそれでいい。でも初めて君はイッテくれた気がする。
出尽くした液を綺麗に拭き取り、メッシュを外しヒートガンを100℃にセットする。浄化された思いが焼き焦げないように全体を炙る。湿り気を含んだカミから白い湯気と一緒に愛情が昇華する。やがて訪れるアンニュイを先に乾かそう。このモヤモヤを吐き出してしまおう。
蓄音機からはもうノイズだけが聞こえる。
待ちくたびれたヒナは祠に隠れてしまった。
————7年後—————
To be cont'd
セザンヌ〜メリークリスマス(南仏から)仮題 前編
by canbeesanta
エクス・アン・プロバンスの石畳を歩きながら、理解者を突然失った彼の悲しみを想う。
失踪宣告から七年、君の祭壇に青いバラの花束を供えよう。受け入れることが生きている僕がしなくちゃいけない事。独りになってもね。
親愛なる君へ
メリークリスマス!!
サント・ビクトワールの山をながめながら
三太より。
アトリエの隣の部屋。ベットの横に脱ぎ捨てられたフランネルのパジャマ。抜け殻の様だ。折り曲げた足を延ばせばそのまま歩き出す。
君は何処へ行った。気晴らしの散歩か。朝市の後、君の好きなマザランの四匹のイルカでも眺めてる?そろそろモミの木を買いに行かなくちゃね。君の分のキリマンをキャビネットボードの上に置くよ。
『どうして萎れたオッパイに骨なの?』
『ーーーーーー』
『お●ん●んの下に仏様を描くなんてマズくない?』
『それとこの数字は何?』 君は矢継ぎ早に僕を責め立てる。
『これは版画じゃなくて絵画って言われるわ、きっと落選よ』
君が僕のスタイルを好きじゃないって事は知っているけど変えられない。人に左右される事じゃないからね。
僕は独り自分の世界に閉じこもる。
いつか国立の美術展覧会に出品するつもり。もうタイトルは決まっているんだ。
”きっと天使は舞い堕ちる”ってね。
君と出逢った頃からずっと放ったらかしだった奴なんだ。
君の言葉を反芻しながら、僕はトイレットペーパーをミキサーにかける。原版を作って製作しておけば、エンボス版画でいいだろう。アーティストプルーフとして、いや、実験(エクスペリメント)として2部目は無彩色のままこのペーパー色のまま固めてしまおう。手彩し過ぎるとゴタゴタ云う輩がいるからね。
『これはウチでは受け入れられません』って具合にね。
たっぷり80リットルの溶解ペーパーの出来上がり。想い出のモノを混ぜ合わせる。君を家まで送り、終電に乗り遅れた僕が夜を明かしたあの湘南の海の砂をパウダーにする。枯葉を一枚。真っ赤なトウ・シューズを履いた君の写真を撮った場所、北緯139度に舞って来たやつ。最後に君の好きだったブラディマリーを一滴、、、。
この位にしよう。絵肌がグレイになっちまうからね。制作方法まであれやこれや〆付けられるのには辟易だけれど、、、。これは全く社会性の欠片もない個人的行為。作品って呼ぶのものおこがましい。こいつは僕の子供達なんだ。
僕は冷えたコーヒーを啜り、庭先の葉っぱの落ちた木々を眺める。季節外れのムクドリの雛が一羽、時々顔を出してはキョロキョロ辺りを覗っている。アマデウスを宝物の蓄音機にかける。ピアノ協奏曲第17番。
『アダムにイブ、コーランにタナ、空に夢想、、、。あなたらしいわね』 君は腫物を針でつく。
『この形はきっとあの国でしょう?』 正鵠を得た批評家のひとり。僕の微かな祈りを君は容易く破る。
溶かしたガラスみたいにドロドロになったカミを耐火石膏の原版に流し込む。メッシュを掛けローラーでゆっくり水分を押し出す。
『この堕天使はあなた自身ね』
『ーーーーーー』
『人間は死後再生されるかしら、、、?』 積みあがった概念が裸になって僕は恥ずかしくなる。秘密は閉じられたままがいい。
『わたしはヴィンセントをどうしても好きになれないの、あの強い色の塊におそわれそうになるから、、、』 押し出された液体がボタボタと零れて広がる。
『やっぱり私は明るくて爽やかな感じがいいわ』 混在する汚れたモノだけが絞りだされます様に。
『あなたもきっと変わるから大丈夫』 祈りと希望だけがここにとどまりますように。
『ゾラを失ったセザンヌみたいに、突然、ね』 見る人皆に明日が残ります様に、、、。
僕は262文字を呟きながらひたすら手を動かす。4度目の演奏を繰り返す協奏曲は2楽章からアルグレットに変奏した。ムクドリが空腹を紛らすみたいにキュルキュル鳴き出す。
『ねえ、ここ触ってもいい?』 君は保護板のアクリルの上に描いた文字を指でなぞる。ガラス樹脂でランダムに描いた透明文字。
『水飴みたいね、舐めてもいい?』 時々君は予測不能。
『イヤらしいけど、これはダメよ。写真に上手く写らないでしょ。これを見に来た人にしか判らないもの』 そこが僕のレジダンスなんだよ。バーチャルじゃない本物のね。舌と指先で感じてほしいんだ。もし君が光を失ってもね。科学が感覚をダウンロードできるまではね。完成する頃僕はもう死んでいるだろうけど。
『ああ、このフレームの感じは好きよ、くねくねしているところがいいわ。この割れ目もね』 僕の行為を喜んでくれるならそれでいい。でも初めて君はイッテくれた気がする。
出尽くした液を綺麗に拭き取り、メッシュを外しヒートガンを100℃にセットする。浄化された思いが焼き焦げないように全体を炙る。湿り気を含んだカミから白い湯気と一緒に愛情が昇華する。やがて訪れるアンニュイを先に乾かそう。このモヤモヤを吐き出してしまおう。
蓄音機からはもうノイズだけが聞こえる。
待ちくたびれたヒナは祠に隠れてしまった。
————7年後—————
To be cont'd
published : 2012/12/14